子どもも主役 多様な福祉施設の催しが大勢をつなげて街をも活性化する理由
シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#1‐3 多世代が集う「地域の寄り合い所 また明日」(東京都小金井市)
2022.11.22
編集者・ライター:太田 美由紀
イベントの効果で見守りのネットワークも広がった
小金井市では、地元の工務店の方や大工さんたちが立ち上げた「夏休み木工チャレンジ」というイベントが2016年から毎年行われています。「また明日」の代表、森田眞希(もりた・まき)さんもその実行委員会のメンバーのひとり。
「自分で何かを作る機会が減って、職人になりたい子どもたちが育たないことや、地元の商店に活気がないことを心配している声があったんです。
ものづくりの楽しさを子どもたちに知ってほしい、地元の商店を活気づけるきっかけになるといいねとみんなで話し合って始めました」(森田さん)
協賛店に木工キットの基本セットを置き、子どもたちがそれを購入して参加します。1年目、2016年には4つだった協賛店は2022年には62に増え、小金井市や小金井市教育委員会ほか多くの後援もついて、市内でおなじみの夏休みのイベントとなりました。
「子どもたちがキットを買いに行ってお店の人と顔見知りになることで、見守りのネットワークも広がります。災害が起こったときや困ったときも、顔を知っているだけで親身に助け合うことができる。
実際に『また明日』のお年寄りがおひとりで歩いているところを見つけて商店の方が電話をくださったこともあります」(森田さん)
顔を知っていると道ですれ違ったときもお互いにあいさつを交わすようになり、困ったときに相談できる相手もどんどん増えていきました。
街にはさまざまな仕事をしている人、いろいろなつながりのある人がいます。「また明日」には、家族の心配ごとや地域の困りごとの相談も多いのですが、「また明日」だけで解決することが難しいときも、人のつながりがとても助けになるようです。
「すべてを『また明日』やスタッフだけで解決することはできません。でも、地域のつながりを使えばいろんなことができます。
心配な人がいたら声をかけて、自分だけでは助けになれないときは、誰かに助けてとお願いする。そうすれば、必ず何かできることが見つかります」(森田さん)
安心のネットワークはどんどん広がり、いまでは小金井市の街全体が、「地域の寄り合い所」になってきているようです。
次回は、いよいよ最終回。「また明日」で育つ子どもたちの様子をご紹介します。
〈教育学者・汐見稔幸先生から〉
「夏休み木工チャレンジ」は、街の商店と子どもたちをつなぎ、街の活気を取り戻すチャンスとしても、子どもたちの学びの場としても素晴らしいイベントですね。
最近は大型のスーパーマーケットやショッピングモールなどができ、個人商店へ行く機会はずいぶん減っているようです。
街なかで「へい、いらっしゃい!」などの威勢のいい声が聞こえてくると、子どもたちも自分がやがて参入する社会に明るさを感じて元気をもらえるものですが、商店に活気がないと、明るい未来を描くことは難しいかもしれません。
さらに、私は以前から、子どもたちに小さいうちから触れさせたい世界のひとつが職人の世界だと考えています。本物の技に感動し、それを見よう見まねでやってみたり、自分のアイデアを形にしたりすることは学びのチャンスでもあり、楽しみでもあります。
このように、次世代をどう育てるかを真剣に考え、そのアイデアを実行する大人たちがいる街は、子どもたちに夢を与えられます。小金井市はこれからもより活性化していくに違いありません。
また、街が活性化するには「祭り」も必要です。地域の人が楽しく集うきっかけとなるからです。昔はお寺がその役割を果たしましたが、「また明日」はお寺に近い役割を果たしています。
みんなで集まって顔を合わせ、焚き火を囲み、メラメラと燃える火を眺めながら話をすることで、その場にいる人たちに親しみを持つことができるはずです。
ぜひこれを読んでいる皆さんも、子どもたちを中心にして、地域で楽しく集う場をつくってほしいと願います。
取材・文/太田美由紀
汐見稔幸(しおみ・としゆき)PROFILE
1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。
太田美由紀(おおた・みゆき)PROFILE
1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。
太田 美由紀
1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP
1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP
汐見 稔幸
1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。
1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。