子どもも主役 多様な福祉施設の催しが大勢をつなげて街をも活性化する理由
シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#1‐3 多世代が集う「地域の寄り合い所 また明日」(東京都小金井市)
2022.11.22
編集者・ライター:太田 美由紀
東京都小金井市にある「地域の寄り合い所 また明日」(以下「また明日」)は、保育所、認知症のデイホーム、地域の寄り合い所、3つの機能をあわせ持つ施設。
いつでも誰でも気軽に立ち寄ることができる地域の居場所として、近所の人や放課後の小中学生も遊びに来ます。
連載3回目は、子どもたちや街の人たち「みんなが主役」のイベントをご紹介します。
どのイベントも小さな声から始まって、いろいろな人を巻き込み、どんどん大きく成長してきました。それは、「また明日」に遊びに来る地域の人、その人たちからつながるたくさんのご縁のおかげ。
コロナで身動きが取れないときも、「どんなことをやりたい?」「どうしたらできるかな?」とみんなで知恵を出し合い、たくさんの楽しみを生み出すことができました。
地域の人たちが楽しいイベントを持って訪れる
「また明日」の保育所もデイホームも、一般的な保育所やデイサービスとは大きく異なることがあります。それは、毎日のレクリエーションや毎年のお決まりのイベントがないこと。
一日のゆるやかな流れはあっても、お年寄りの体操やリハビリもなく、時間で刻んで子どもたちに行動を促す必要もありません。
散歩は子どももお年寄りも行きたい人で出かけます。お昼寝したくない子は起きて遊んでいることも。子どもたちの運動会も作品展もないので練習も準備も必要ありません。
それでも、ひな祭りや七夕などは、家庭で四季を楽しむように過ごし、節分には鬼もやってきます。
そしてときどき、「また明日」を訪れる地域の人たちがさまざまに楽しいイベントを持ち寄ってくれます。音楽団体がやってきて一緒に歌を歌ったり、人形劇を楽しんだり。
遊びに来た小学生がマジックを披露してくれたこともありました。毎月ボランティアで紙芝居をしにきてくれる自閉症の青年もいます。
大学生や大学院生が「また明日」について研究をしたときは、最後に必ずみんなの前で発表会。子どもたちもお年寄りも、とても真剣に聞いて拍手喝采。学生も自信を持って論文を提出できるようです。
リアルなお店屋さんごっこで暗算ができるように
毎月第3水曜日の夕方は、「食・学・活きる みんなの居場所 また明日」を開催しています。コロナ以前は、地元で個人塾を開いていた方がボランティアで宿題や勉強を見て、その後、子ども食堂の形式でみんなで食事をしていました。
地域の農家や商店からの差し入れもたくさん届き、みんな楽しみにしていたのですが、コロナ感染拡大のピーク時には一時中止に。
少し落ち着いたころから、「室内がダメなら外でやろう!」と、お弁当を持ち帰る形式に変更し、取りに来ることができない家庭にはお弁当を届けてきました。
あるとき、近所の人が「焚き火をしよう!」と、焚き火台と薪を持ってきてくれました。それ以来、その方は毎回、子どもたちと一緒に焚き火の準備をしてくれます。
焚き火には人を惹きつける不思議な力があります。「通りがかりに焚き火が見えて楽しそうだったから」と立ち寄る人が増えました。
この日も、3歳の男の子とその両親が「焚き火に来るのははじめてなんですが」とやってきました。
「この子が10ヵ月になるくらいまで、この子を連れてよくここに遊びに来ていました。今日は2年ぶりくらい。ここにくると、お年寄りや子どもたち、みなさんにかわいがってもらえて、本当にうれしかった」とお母さん。
「わあ、こんなに大きくなったの? 会えてうれしい!」
そこにいたスタッフも、その親子のことをよく覚えていました。
もうひとつのお楽しみは、地元の野菜やお惣菜を販売している小金井のお店、パリタリーさんの移動販売。売り子は小学生の子どもたち。慣れた手つきで商品を並べ、手書きで値札を準備します。
「お手伝いするとね、ここにあるものの中から帰りにひとつもらえるんだよ」
販売のお手伝いは、リアルなお店屋さんごっこ。子どもたちにとって最高の遊びです。
「俺も計算できるよ」「私もやりたい」とみんなに大人気。
「えっと、焼き栗が200円、にんじんが200円、ジャムが500円。全部足して、1000円もらったらおつりはええっと──。ちょっと待って、もうすぐわかるから」
学校では算数が苦手な子も、暗算をしたり計算機を使ったりしながら、足し算、引き算、掛け算を駆使してやりとりします。最初はお釣りを渡すまでにうんうんうなって10分かかっていた子も、今ではすっかり暗算ができるようになりました。
この日、炊いたご飯は2升。カレーのお弁当80食は、あっという間になくなりました。