【発達障害・発達特性のある子】に家庭ができること 「療育の専門家」が教える我が子の幸せとは 

#10 子どもの幸せのために家庭でできること〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕

一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

3.ワクワクすること、やりたいことを持てるようにサポートする

①大人が楽しんでいる姿を見せる
大人が何かを楽しそうにやっていると子どもは「なんか楽しそう!」と真似をしてみたくなります。大人と同じようにできるかも! というのは子どもにとって心躍るワクワク体験ですし、やってみたら「できた!」という経験は子どもの自信を育みます。スクワットでも雑巾がけでも洗濯ものたたみでもいいのです。楽しんでいる姿を子どもに見せてあげてください。

②「心が動く」体験をサポートする
もう一つ大切なことは、子どもの「心が動く体験」をサポートすることです。

大好きな電車や飛行機、城を実際に見に行ったら、きっと子どもの心は躍るでしょう。自然もまた、子どもの心に感動を刻みます。ちらちらする木漏れ陽、見渡す限りの雲海、波の音、潮の香り、一面の向日葵の黄色、大木の荘厳なたたずまい、空高く飛ぶ鷹……。自然が私たちに与えてくれる強い感動をぜひ、味わわせてあげてほしいと思います。

③「好き」との出会いをサポートする
発達障害の特性のある子どもは遊びのバリエーションが少なく、大人になっても楽しめる趣味が少ない、ワクワクすることや好きなことが少ないという傾向があります。

ですから、子どものころから、子どもが「好きなこと」が見つけられるように、ワクワクと心が動く体験ができるように、意識していただきたいのです。子どもがまだ出会っていない、でも、もし出会ったら「やりたい!」「これ好き!」「これすごい!」と思うものは世の中にたくさんあります。子どもたちがそれに出会えるよう、さまざまな経験をさせてあげてください。それが将来の子どもの「幸せ」を支えるものになります。

4.選択の機会を作る

①選択場面を作る
前向きにチャレンジする自発性や能動性を育てる上で大事なのが、「選択場面を作る」ことです。選ぶ、ということは、自分の意思が尊重されるということです。自分で選ぶとき、子どもは能動的になり、最もよく学びます。

研究でも、子どもがお絵描きをするとき、指定されたクレヨンを使う場合と好きなクレヨンを使う場合では、クレヨンを選べるほうが集中力が顕著に長かったという報告があります。

ところが発達障害の特性のある子の場合、選択ができない、意思表出があいまいで何を選んだかわからない、周囲にとって困ることを選ぶ、などと思われてしまい、選ばせてもらう機会が少なくなりがちです。

選択の意思表出については、何をじっと見ているかを観察するなどこちらが理解の努力をすると同時に、選ぶものをイラストにして指さして示せるようにするなど意思表出の方法を教えます。また、選択肢には選ばれては困るものは入れないようにします。そのような工夫をした上で、遊ぶもの、服、ジュースなど、子どもが選ぶのに興味を持つことならどういうものでもよいので、どんどん選択する場面を作ってあげましょう。

ただ、自閉症スペクトラム障害の子どもの中には、選択することに心理的負担を感じる子がいるので、そのような場合は選択を無理強いすることはしません。

②助けてもらって成功する経験を積む
世の中、ひとりではどうしてもうまくいかないが、助けてもらえばできる、ということはたくさんあります。しかし、発達障害の特性のある子の場合、どうしても自分でやるなどのこだわりがある場合がある、人と関わることが苦手なため、周りにサポートを求めることが苦手、ということがあって、助けを求めず、結局、うまくいかなくて泣いたり、癇癪を起こすことがよくあります。

また、発達障害の特性のある子どもは不器用だったり段取りが苦手なことが多く、ひとりではうまくいかないことも多いのです。いつもうまくいかないと、自尊心が育ちにくくなります。ですから、ぜひ「人に助けてもらって成功する」力を育てたい。そのために、「人に助けてもらって成功した。人の行動を参考にしたらうまくいった、一緒にやるとうまくいった」という経験をたくさん積ませたいのです。

それには安心できる場である家庭での経験が大事です。成功する方法をさりげなく見せる。重いものを一緒に運ぶ、なぞなぞでヒントを出してあげる。どんな些細なことでもいいのです。人の助けを得るとうまくいくのだ、という経験ができるよう、意識しましょう。

最後に

私は保護者を対象とした講演でよく、「ご家族一人ひとり幸せになりましょう」というお話をするのですが、すると講演後、「自分の幸せなんて考えたことがなかった。驚いた」という感想をいただくことがあります。日々の大変さの中で心が硬直してしまっている、ワクワクなんてできっこない、ということなのかなと思います。

ただ、ある研究によると、子どものQOL(生活の質)には親のQOLが関係するといいます。つまり、親が幸福だと子どもが幸福になるというのです。
(「親の幸福は子どもの幸福」榊原洋一2017年9月22日掲載CRN (https://www.blog.crn.or.jp/chief2/01/36.html))

それなら!
保護者の方も幸せをめざしましょう。

小さなことでもいいのです。まずは自分は何が好きだったっけ? と振り返り、「やってみたいな」「これ好きだな!」という「心が動く時間」を持つことにチャレンジしてほしい。それが子どもの幸せにつながります。私は専門職としてそれを精一杯応援します。

【参考サイト】親の幸福は子どもの幸福

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今回は、「発達障害の特性のある子どもに対して、家庭で気をつけることやできることを教えてください」という質問にお答えしました。まずは健康、そして自分らしさややりたいこと、自分で選択することなど、お子さんに対して心がけることと同時に、家族ひとり一人が幸せを感じることが大切というお話をうかがいました。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著
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わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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はら てつや

原 哲也

Tetsuya Hara
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」