子どもの発達に合わせた援助を
しつけ箸やトレーニング箸は、確かに子どもにとっては楽ですから、早く簡単に持てるようです。でも、一生それを使い続けるわけにはいきません。早く簡単にできてしまうことが、子どもを成長させるかどうかは疑問です。
第11回でも少しだけ触れましたが、普通のお箸に移行するときに、苦労したというレポートも本当によくいただきます。特にリングがついているものや、2本がバラバラにならないようにつながったタイプのしつけ箸は、普通のお箸とは力の入れ方が全く違うため、普通のお箸を動かすことがかえって難しくなってしまうようです。
同じしつけ箸でも、正しい位置が持ちやすくなるくぼみがついているだけのシンプルなものなら、移行がそれほど難しくはありません。
モンテッソーリ教育は、子どもの自然な発達に合った援助をするものです。早い時期から無理してやらせるのではなく、手の準備が整う時期を待ち、段階を踏んでできるように必要な援助していきます。
ただ、やむを得ないケースもあります。特に、上にごきょうだいがいらっしゃる場合には、手の準備ができていないうちからスプーンではなくお箸を持ちたがり、できないことにイライラして泣いたりすることがあります。
また、大人やお友だちがお箸を持つのを見て、どうしても早いうちから真似をして持ちたがることもあるでしょう。そういった場合には、しつけ箸で対応しても構いませんが、なるべく短い期間になるよう、前段階の練習と並行して使うこと、食事以外の場面で、たくさん手を使う機会を増やしてあげることを心がけましょう。
モンテッソーリ教育では、すべてのものが子どもサイズであることはすでに述べてきました。お箸はもちろん子どもサイズのものを準備されていると思いますが、特に細かい配慮が必要です。
おおよその目安は、親指と人差し指を広げた長さの1.5倍が使いやすいサイズです。わたしが監修をした『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』の25ページにも図をのせてあります。
子どもの手は大人と違ってどんどん大きくなりますので、うっかりしていると手に合わなくなっていることもあります。使いにくそうにしていたら、サイズも見直してあげましょう。
また重さや太さ、材質なども吟味してください。軽くて転がりにくいもの、万が一噛んでしまったときにも危険がないものを選ぶようにしましょう。
それから、最近は使わないご家庭が増えているようですが、必ず箸置きを使ってください。
箸置きを使うと、正しく持ちやすくなり、途中でおかしくなったときにも、いったん箸置きに置かせると、持ち直すことができます。右手で上から持ち上げ、左手で下から支え、右手で正しい場所を持つという手順を踏むことで、正しく持てるのです。
箸置きもかわいらしいデザインのものがたくさん出ていますから、お子さんと一緒に選ぶといいでしょう。季節に合わせて変えていくのも楽しいですね。
食事は、家族の楽しい団らんの場
気を付けたいのは、食事を練習の場にしないことです。食事というのは、楽しんで食べることが第一です。
平成12年3月に、文部省、厚生省(当時)及び農林水産省が連携して策定した「食生活指針」というものがあります。平成28年6月に改定されましたが、改定前も後も、十項目ある指針の第一項目は「食事を楽しみましょう」です。
食事というのは、家族の楽しい団らんの場です。忙しい毎日の中で、親子が一緒に過ごせる少ない時間です。その貴重な時間が「練習の場」というのは子どもにとって、悲しいことです。
小さいうちは手づかみでもかまいませんし、スプーンやフォークなど、自分で楽しんで食べられる方法で食べることが大切です。
質問者さんのように、うまく使えないのに使いたがる場合でも、食事の場では注意せず、別の時間に手の準備と練習を重ねるようにしましょう。
大人になってから長年の持ち方を修正するのは大変かもしれませんが、箸使いの美しい大人は子どもにとって憧れであり、良いお手本になります。ぜひ、一緒に練習を重ね、食事を楽しんでくださいね。
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第16回 「自宅でモンテッソーリを実践できますか」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!
田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。