「危険なことや、他人に迷惑のかかることをやめさせるには?」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!

第12回

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子

「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生にお話をお伺いするこの連載。今回は、電車のホームや混んでいる改札などで、子どもを満足させつつ危険を回避するお話です。

※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。

(イメージ写真/photoAC)
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危険なことや、他人に迷惑のかかることをやめさせるには?

私の職場にある保育園に通うため、毎日片道40分ほどの通勤で1歳6ヵ月の娘に付き合ってもらっています。その途中で、「自分の足でホームから電車に乗りたい、自分でベビーカーを押したい、自分でICカードを改札にピッとしたい」と、あげればキリがないほどに各種運動への欲求が日々高まっています。
しかし、ラッシュ時のホームや改札で娘にゆっくりと手本を見せることはできませんし、娘の安全を最優先しないと危険なこともあります。人様のご迷惑にならないように娘を誘導することにヒヤヒヤする毎日です。
そのため、どうしても母親である私がやりたい動きをしてしまうことが多く、娘のストレスは溜まる一方です。どうしたらいいでしょうか。​

私の子育て時代は、専業主婦が圧倒的でしたが、今は完全に逆転して、働くお母様の方がずっと多くなりました。私の勉強会で学ばれる方も、お仕事をしながら、子育てをしながら、学んでくださっていますので、すごいなあと感心しています。

小さいお子さんを連れての通勤、それもラッシュ時の電車通勤はどれほど大変なことでしょう。また家の近所の保育園に入れず、やむなく小さいお子さんと一緒に電車やバスに乗っている方も増えているでしょうから、多くの方に共通するお悩みかもしれません。

これまでの連載の中でも繰り返しお伝えしてきたことですが、1歳半のお子さんが、いろいろなことを自分でやろうとし、さまざまな動きへの欲求が日々高まるのは、成長したいという生命衝動、自然のプログラムに従っているものです。それを妨げることについて、モンテッソーリは「生えてくる歯を抑えつけるようなもの」とたとえているほどです。

ですから、お子さんのやってみたいという気持ちは非常に強いものであり、ストレスが溜まる一方というのも、お子さんが悪いわけではないということを、わかってあげてください。
おそらく質問者さんは、そのことはご理解くださっていると思います。本当はやらせてあげたいけれど、どうしてもやらせてあげられないというジレンマに苦しんでいらっしゃるのですね。

ダメを言う前に大人ができること

モンテッソーリ教育というと、子どもが望むことをなんでも自由にさせてあげる、一切ダメを言わない教育であるかのように誤解されている方が多いのですが、そうではありません。
好き勝手にさせるのは放任ですし、自由には必ず責任が伴います。
モンテッソーリの自由というのは、一定の枠組みを設ける「制限ある自由」と呼ばれています。

危ないことや人の迷惑になることは、もちろんさせてよいものではありません。
ただ、そんなときでも、命の危険がある場合は別として、頭ごなしに「ダメ!」と大声で叱ったり、有無を言わせずやめさせたりするのは、できる限り避けたいものです。

モンテッソーリは、
「子どもに対する扱いは、できる限り穏やかでなければなりません。いかなる暴力も避けなければなりません。私たちはしばしば自分の厳しさや暴力に気づかないからです。」(『子どもの精神~吸収する精神~』マリア・モンテッソーリ著 中村勇訳 日本モンテッソーリ教育綜合研究所 P152~153)
と述べています。

特に0~2歳頃は、「怒られた!」ということ、つまり大人に対する恐怖の印象の方が強く残ってしまい、肝心の何がダメなのかが、伝わりません。
ですから、モンテッソーリ教育では「ダメを言う前に大人ができることはなんだろう?」と常に考えます。

自由を保障という安心感

困った問題が起こったとき、1つの困りごとに対して、その場でどうするのか、どのような言葉がけがよいのか、という対処療法を考えるよりも、もう少し広い視野で考えてみるとうまくいくことがあります。

ご質問は、朝の通勤ラッシュ時のことなので、自宅を出発する前や前夜の寝る前までさかのぼってみましょう。
自宅であれば、1歳児が「一人でしたい」ということに対して、ゆっくりと見本を見せ、満足するまで「お仕事」をさせてあげられると思います。

ストローを差し込んで
押し込む 心が満足する 1歳5ヵ月

フルタイムで働いていると、そんな余裕もないとおっしゃるかもしれません。
でも、モンテッソーリが人生でもっとも重要視している幼児前期ですし、この時期の対応次第では、幼児後期にさまざまな問題が生じてしまい、かえって大変になることは多くの事例からわかっています。
なんとかここは、お子さんの欲求をかなえてあげる時間を、少しでも確保してみて下さい。

野菜の断面と絵本を比べる 本物の体験  1歳10ヵ月
冷蔵庫でマグネット合わせをする おうちならでは  1歳7ヵ月

通勤の朝、こうして心が満足した状態で出発できるのと、そうでないのとでは大きな違いが生まれます。
なぜかといいますと、制限というのは、自由が保障されている、という安心感が土台となって、初めて受け入れられるものだからです。
通勤時には、お子さんの安全を確保することが最優先ですから、やむを得ず制限を課すことになりますが、自由の保障という安心感があれば、それも受け入れられるようになるでしょう。

子育てをしていると、制限ばかり設けて、自由を保障することを忘れがちです。
モンテッソーリ教育では、教師が大声を張り上げなくても、子どもたちが秩序ある行動が取れるようになりますが、その理由はここにあるのです。心が満たされた子どもはびっくりするほど穏やかで素直になります。

はさむ練習を先にしておく 1歳8ヵ月

干せるようになる 2歳4ヵ月

もちろん今日させてあげたから、すぐに明日の朝はうまくいくというわけにはいきませんが、継続することで、だんだんと制限を受け入れられるようになってくるでしょう。

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