できそうなことを「お仕事」として提案
そうは言っても、まだまだ本能の方が強い時期ですし、2歳という自立の時期に向かっては、「自分でやりたい!」がますます高まっていくことも予想がつきます。
おうちで「お仕事」をすることで、心を育てるということは大前提ですが、通勤の間に、多少なりともできることがないか、考えてみましょう。
例に上げていただいたことが、どれもさせてあげられないならば、逆にできそうなことを「お仕事」として提案してみます。
たとえば、改札口でカードをタッチすることですが、時間がかかったり、タッチできずにエラーになったりすると、後ろに列ができてしまい、迷惑になりますね。
かといって、一緒にカードを持ってタッチさせようとしても、振り払ってしまうのがこの時期の子どもです。
ですからタッチ自体はお母様がすることになりますが、代わりに「カードをしまう」というお仕事を提案してみてはどうでしょうか。
もちろんカードをわざわざ出さなくとも読み込めることはわかっていますが、あえて「入れる」とか「押す」という動きをさせてあげることで、タッチできなかった、という直前の不満が少し解消できます。
その場でいきなりさせると、まごまごして時間もかかりますので、まずおうちで、入れやすく可愛らしいカード入れを準備しておき、そこに差し込むという練習をした上で、「じゃあ、明日からこれは●●ちゃんのお仕事ね」と言っておきます。
当日は、さっと通り抜けてからいったん脇へよけ、練習した通りに入れてもらいましょう。
そうしたら「できたねえ。ありがとう。助かったわ」と言います。子どもはお母様の役に立つことをとても喜びます。
モンテッソーリも、お仕事に集中せず、邪魔をするような子どもには、花を摘むことや水を運ばせることを提案するよう勧めています。
もちろんこれは一例であり、これでうまくいくとは限りませんから、他にできそうなお仕事をご自身で見つけて提案してみて下さい。
一部分だけ上手に手伝う、共同作業
この時期の子どもたちは、「自分で!」を主張するのですが、まだ完全には一人でできないことが多くあります。それを一部分だけ上手に手伝う、共同作業をするというのはモンテッソーリ教育の現場でもよくあることです。
ですから、「完全に一人で自分の足でホームから電車に乗る」ことは無理でも、抱っこのまま乗り込むのではなく、「ジャンプ!」と言いながら両手を持って吊り上げて乗せてあげるなど、地面に足が一瞬つくだけでも、満足することがあります。
もちろんこれは混み具合や持ち物によってできないこともあると思いますので、これをヒントに工夫してみて下さい。
それからもうひとつ、1歳半から2歳くらいの子どもにお勧めの方法は二者択一で選ばせてあげることです。
それも「いずれにせよする」「どちらを選ばれても困らない」選択肢を作ることがポイントです。
たとえば、「手をつなぐ?つながない?」という選択肢ですと、この時期の子どもは「つながない」を選びますし、それではお母様が困りますね。「手は1本指でつなぐ? グーでつなぐ?」と指を見せながら聞いてみると、すんなり選んでくれることがよくあります。
1本指というのは、お母様の人差し指だけを子どもが握るという方法ですが、子どもにとってはいかにも「一人で歩いている」感じがありながら、いざというときには、ギュッと握ってしまえるので危険にも対応しやすい方法です。
直接的な回答ではありませんが、どこかの場面で役立つことがあると思います。
子どもはぐんぐん成長し、変化していく
ベビーカーを押したがるのは、歩きたいというサインかもしれません。
ベビーカーは、荷物が多かったり、帰りに寝てしまったりというときに備える必須アイテムですし、1歳児に人混みを歩かせるのは危険であることは理解しています。
ただ、満員電車では折りたたむことを求められることもありますし、どこかの段階でベビーカーを使わないということも考えてみて下さい。
ベビーカーがなければこの問題は解決するはずですし、電車に乗せるときも、両手が空くので乗せやすくなるかもしれません。
また、こんなご質問もよくいただきます。
Q1「子どもは歩き始めたばかりなので、歩きたがるのですが、時間もかかるし危ないので、ついつい抱っこかベビーカーを使って移動してしまいます。この時期に歩かせないと、大きくなってからも抱っこ抱っこで歩かないようになる、と聞きましたが、本当でしょうか」
Q2「もう3歳近いというのに、抱っこかベビーカーでないとダメで、全く歩かなくなってしまったのですが、大丈夫でしょうか? 私には重すぎるので、なんとか歩かせたいのですが、断固として歩こうとしません」
Q2がみごとにQ1の回答になっていますね。
モンテッソーリも1歳半は歩行が確立する大切な時期と述べています。通勤時間帯が難しければ、休日にはたっぷり歩かせてあげましょう。そうすれば通勤のときにも思っている以上に歩けるようになります。
そのためには、ここでも多少の時間的余裕が必要となります。分刻みのスケジュールの中、難しい要求かもしれませんが、大切なお子さんの人格の形成に関わることです。
また、子どもというのは大人と違ってぐんぐん成長し、変化していくものですから、どんどん楽になっていくことを信じましょう。
本来であれば、社会全体、すべての大人がこの時期の重要性を理解し、子どもがしたがることをほんのちょっと待って、子連れのお母様を温かく見守ってくれるようになるべきだと思います。
そうすればこのようなお悩みもなくなることでしょう。モンテッソーリの理念がもっともっと一般的になることを願っています。
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田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。