2 お金を扱うのに数の単位の知識が必要なことは言うまでもありません。
そして、お金というのは、完全なる具体量ではありません。1万円札1枚よりも、1000円5枚の方が多いと思ったり、500円玉1枚よりも100円5枚の方を喜んだりという子どもには、お金の本当の価値はわかりません。
連載第10回でも紹介したように、モンテッソーリ教育では幼児期に4桁の加減乗除をしますが、数字のみを扱うのではなく、ビーズという具体量から入ります。
この活動は「銀行ごっこ」と呼ばれており、繰り上がりや繰り下がりの際には、「ビーズを両替しましょう」と言いますから、まさにマネー教育の準備段階かもしれません。
そういった経験をしている子どもは、たとえば1354円ならば、頭の中には、ビーズのような具体量が浮かびます。
モンテッソーリ教育では、いつまでも具体の段階に留めておくのではなく、切手遊びや色ビーズのそろばんといった数々の教具が、抽象化へと導いてくれます。
3 奉仕の心は、一見お金とは関係ないように思えますが、もしもこうした心が育っていないなら、お金さえあればいい、お金でなんでもできるといった人間を育ててしまわないでしょうか。
奉仕の心、無償の愛といったものは無理に育てなくても、子どもの中にはそもそも備わっているものです。だれかの役に立ちたい、困っている人を助けたいという気持ちは、子どもが自然のプログラムを歪められることなく成長していけば、大人よりもずっと強いことをモンテッソーリは発見しています。
一つ例を挙げましょう。
私の勉強会にいらしている別の会員の方のお子さんは、現在6歳1ヵ月ですが、リンゴの皮むきもできるほど手先が器用です。朝晩のお皿ふき、洗濯物たたみ、お米とぎ、お風呂掃除、洗面所掃除、テーブルふき、階段の雑巾がけ、洗濯物干し、玄関掃き、味噌汁作りなど、たくさんの家事ができるようになりました。
どの家事をするのかは自由選択で、1つ家事をするたびに、楽しんでシールをノートに貼ります。それがいっぱいになると、わずかなお金をもらうことになったそうですが、お子さんは、「お金がほしいからやってるわけじゃないよ。みんなが楽しく暮らすためにやるんだよ」と言っているとのこと。
お金に左右されない奉仕の心をしっかりと持ち続けていますね。3歳8ヵ月になる下のお子さんも家事をしますが、「ありがとう」「助かったよ」という言葉で十分なのだそうです。
子どもの中の判断基準を養う
最後に、質問に戻りましょう。大人の基準で首をかしげてしまうようなものを、子どもが買ってもいいようにするために、お小遣いを渡すことについて、考えてみます。本当の意味での自由選択になるのでしょうか。
モンテッソーリ教育の自由とは、制限ある自由と呼ばれます。なんでもかんでも好き勝手にさせるのではなく、自由の裏には責任があるということも、しっかりと伝えていきます。
大人の基準があいまいで、時には買ってあげたり、ときには断ったりしていては、子どもの中に判断基準が育ちません。子どもの中にしっかりとした判断基準をまず育てておき、「これなら子どもに任せても大丈夫」と思ったときに、初めて子どもが自分で選んで買うことをさせられるのではないでしょうか。
上記のママも、最初はお店も値段もしっかりと制限をつけた中で、自由選択をさせていたそうです。そうしたところ、じっくりと時間をかけて選ぶようになり、今ではたまったお金を文房具や本などに使っているそうです。
子どもが教えてくれる
お金に関する考え方というのは、子どもにおこづかいをあげるかどうかも含め、それぞれのご家庭で違いがあるのは当然ですし、最終的にはご自身で判断すべきことだと思います。
モンテッソーリ教育では、それぞれの時期に必要なことは、子どもが教えてくれるということが大原則です。子どもを観察、研究した結果、幼児期には報酬を求めずに全力を出し切る体験や奉仕の心、判断力、段取り力、さらには数の概念をしっかりと把握すること、いやなことをきっぱりと断れるような言語力といったものを育てておくことが大事だと考えます。
それが、最終的には、本当のマネー教育につながるのではないでしょうか。
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第20回「赤ちゃんには何をしてあげればいいでしょうか?」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!
田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。