課題発見→課題解決できる子どもを育てる「森」での遊びかた

森が引き出す子どもの可能性『水はどこからやってくる? 水を育てる菌と土と森』浜田久美子2/3

作家:浜田 久美子

自然教育に参加する子どもたち。参加した子どもたちのそれぞれの「やりたいリスト」を書き出している。さあ森の中へ!(NPO法人 (浜田久美子提供)

子どものやりたいことを存分にやらせてあげたい! でもいったいなにをやらせてあげたらいいの? と思う親もいると思います。せっかくなら体にも心にも頭にもいいことを提案してあげたいと思うのが親心です。そんな親子のお出かけスポットにおすすめしたいのが「森」です。

森林ライターの浜田久美子さんが森の効能について伝える3回シリーズの2回目です。2回目では自然遊びを通じた「課題発見」「課題解決」について伝えていきます。自然のなかには学びがいっぱいです!

●浜田久美子さんプロフィール
東京生まれ。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業。横浜国立大学大学院中退。精神科カウンセラーを経て、木と森の幅広い力と魅力に出合い作家に転身。森との接点が失われた時代に、もう一度森と人がより良い関係をつくるために挑む人々を取材している。

1回目 『ストレス解消や腸活に「森遊び」がまさかの好影響。最新技術でわかった「森の効能」を森林ライターが解説』を読む。

●浜田久美子さんプロフィール
東京生まれ。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業。横浜国立大学大学院中退。精神科カウンセラーを経て、木と森の幅広い力と魅力に出合い作家に転身。森との接点が失われた時代に、もう一度森と人がより良い関係をつくるために挑む人々を取材している。

自然のなかでは子どもたちは「アイデア即噴出、即行動」

5月。新緑の淡い緑の葉が光を受けてキラキラまぶしい森は、風が吹くとまるで緑の波が押し寄せてくるかのようです。まっ青な空が広がる森の入り口で、小さいボードを手にしたNPO法人くにたち農園の会のスタッフのゆりさんが「何やりたいー?」と自然遊びの会に参加する子どもたちに投げかけました。

「基地づくり!」「ターザンロープ!」「つり橋!」「ブランコ!」「すべりだい!」「テント!」……。間髪を入れずに続々とアイデアが子どもたちの口から飛び出したことにまずびっくり。そんなにやりたいことがすぐに出てくるとは想像していませんでした。子どもは赤ちゃんから小6までが十数人。小さい子たちにはお母さん、お父さんが一緒です。

出てくるアイデアをボードに書き出しながら、「いいねぇ。ロープがたくさんあるから切って使っていいからね。結び方とかわからなかったら、言って。ノコギリやハサミはここ。わからなかったり、こんなのが必要!とか困ったら言ってね。じゃ、やろう」とゆりさんが言うと、子どもたちはワーッと森の中へと散っていきました。

(え!?)とそこで固まったのは私です。出てきたアイデアの中から、相談してみんなでいくつかを作るのかと思っていたのです。(それぞれ自分で作るの!?)と驚きながら「ポンポンとアイデアが出るんですねえ。それに、パッとすぐにやり始めたことにびっくりしちゃいました」とゆりさんに近づき話しかけました。

「慣れている子がいるし、今日の子たちは知っている子同士も多いので。これこれをします、と指示されないと動けない子もいますけど、みんなに引っ張られる感じで始められたりもしますね」と笑いながらアカマツの大きな木とサクラやコナラ、クリなどの細い広葉樹が雑多に混じる森へ入っていきました。

やってみたい、の連鎖と後押し

私も森の中へついていくと、入り口で早速ブランコづくりを始めている子がいました。木に三角型ハンモックをぶら下げようとしています。ぶつからずに揺れる場所、高さ、木の太さを見て目当ての木が定まると、今度はどうやって吊り下げるか、です。ロープを定めた木の枝に投げてから、さて、どうやって縛るか?

そこに大人登場。「大丈夫?」とスタッフのゆきさんが声をかけると「あそこにつけたいの」と指差す枝に向かってゆきさんが木登りを始めました。子どもたちに自力で全部やらせるのではない様子。大人が協力するだけではありません。自分の「やりたいこと」をやっていても、ロープを縛るのに苦労しているのを見た他の子が「貸して」と手を出して木に登って軽々と上まで行って手伝い始めました。

なるほど、これは、みんな自分のやってみたいことをやるけれど、その「やりたい」を大人も子どもも協力しあって実現する、という形なのか、とわかり出しました。誰か助けたり協力してくれる人がいれば、やったことがないことでも「やってみたい」を口にしやすいし、実際に始められます。

さらに森の中に入ってみると、低木の茂みを利用して見えないような場所に木の枝で区画を作った子、枝を地面に突き刺して柵のようにした空間に「テーブルが欲しい」と大人に丸太を半割りにしてもらう子、木の枝を組んでテントのようにした子、いろんな基地?やマイルーム?が出現しています。枝の使い方もさまざまです。
大物は、立っている木を利用して地上から2m以上高い場所に作った子。渡した2本の枝にロープをまわしかけて座れる場所づくりに精を出していました。

それを手伝う子、出来上がっていくその基地にハシゴをつけたいと言い出す子、人のやっていることに触発されて次なるやりたいが展開していっていました。

ブランコを吊るために協力してロープをかける。木登り上手に助けてもらっています(NPO法人くにたち農園の会提供)

一緒に遊ぶ先生

ゆりさんは、元小学校の先生です。自分の子どもが生まれて育休中に出合った森のようちえん*でボランティアとして関わるうちに、そちらのほうが面白くなって教師に戻らずそのままスタッフとなってしまった、という経歴の持ち主です。ただし、小学校時代も「遊ぶ先生」でした。後押しをしてくれたのは、新任時代に組んでいたベテランの先生です。

「若いうちはとにかく子どもたちと遊びなさい」と言ってくれたその先生は、テストの採点や事務的な書類仕事などを「私がやっとくから」と言って、ゆりさんと子どもたちができるだけ一緒にいる時間を確保してくれたそうです。ベテラン先生のサポートで日々時間を作っては勉強以外の遊び時間を捻出していきました。

「ちょっとした時間でも遊べるんですよ」と教えてくれたコツは、そもそも遊ぶのが好きな子どもの心をつかむものでした。授業時間やそうじ時間に子どもたちが集中してできていたり、さっさと終わらせられると、捻り出した時間を使ってクイズや椅子取りゲームなどを数分やる、というものです。子どもたちは、遊びたいために集中し、やるべきことを素早くやるようになり、そうやって作った時間をさまざまな遊びに使う、という形ができていきました。

確かに、子ども時代、先生と遊ぶのが楽しかった思い出はないでしょうか? 先生のことが大好きになれば尚のこと。遊びも先生も好きならば、子どもはその時間を作るために集中するのもうなずけます。

*森のようちえん
北欧で1950年代に始まった自然環境を利用した幼児教育や子育て支援などで、園舎の有無には関係なく日々森や野外でさまざまな体験をすることを柱にした活動。保育園や幼稚園で実践されるものからサークル的に親たちが主宰するものまで全国に展開されている。

成長のスピードが速い

シンプルに子どもと遊ぶのが楽しいから始まったことでしたが、その遊びの時間に授業で勉強に向かう姿とは異なる子どもの様子がいろいろ見えてくることにゆりさんは気づきました。

「あ、こんなふうに友だちを気づかうんだ、とか、こんなズルするんだなとか(笑)。こういうところでトラブりやすいんだな、とか。遊びの中に子どものいろんな姿、性格的なこととか、勉強のときとは違う姿が出てくるんだなと思いました。授業をよく聞いて言われたとおりにする子が、逆に自分では遊べなかったりとか」と遊びを通じて子どもの姿が多面的に見えるようになったと言います。

そして、育休中に出合った森のようちえんは、実はようちえんだけがあるのではなく、畑を通じた地域づくりをするNPOが多角的に行っている部門の一つで、ゆりさんは森のようちえんと共に「フリースペースはたけんぼ」*という居場所部門の事業担当者にもなっていきました。

そこで実感していったのが、外で身体を動かせたほうが何かが発散できて成長のスピードが速い、ということでした。

「学校でももちろん子どもたちは成長するんですけど、教室の中よりも自分の好きなことを見つけて思い切りやるのには解放的な外のほうがずっとやりやすいんです。それはまたお母さんたちにも言えて」と、お母さんたちが同じようにのびのびとしていく様子を見るにつけ、自然の中で過ごすことの必要性を強く感じていくようになったと言います。
はたけんぼには、発達障害と診断されたお子さんがしばしば来るもののゆりさんは、「え? 本当に?」と思うことが実に多いのだと言います。

発達障害のいろいろな症状と言われることが、ここではその子の個性にしか見えないんですよね。だから、お母さんから学校ではこんなに大変、家でもこんなに大変、と話されるんですが、自然の中だとほんとに気にせず遊べるんです。でも、教室とかだと大変になるんだろうな、とわかるんですよね」とゆりさん。

「一般的な学校の授業は、一斉で、そして教える─教えられる、という上下の関係になるじゃないですか。それが遊びって、大人も子どもも対等になれるっていうか。そこで得られた信頼感で、先生は次はどんなことするのかなと興味を持ってくれて、するとこちらの話もよく聞いてくれて、とそんな関係が作りやすいんです」と授業と遊びの違いを表現しました。信頼関係ができて安心してなんでも話せる状況は、子どもたちをのびのびとさせ、それが彼らの伸び方の背景になっているという流れです。

外の中でも、森はとにかく使えるものが無尽蔵にある場所で、子どもたちの「やりたい、やってみたい」を広げてくれると言います。立っている木、落ちている枝に木の実に葉っぱ、土、動植物……。確かに子どもたちが作ったあれこれを見ても、森の中にあるものを工夫して使うことと、「これが欲しい」を作り出したり、どこかから持ってきたり、と展開の仕方は実に多彩でした。発想とトライ、そして協力してくれる人の存在が、次々に遊びを展開させてくれるポテンシャルがとても大きいのです。

*フリースペースはたけんぼ
東京国立市にあるNPO法人くにたち農園の会の中の一活動。くにたち農園の会は農体験を柱にしたまちづくりと子育ての2本の柱を持ち多角的な10の活動を展開している。

枝とシートでデブリテント(枝と枯葉や葉っぱで作るシェルターのこと)完成。落ち着くなあー(NPO法人くにたち農園の会提供)

ふぞろいが引き出す多様さ

森林療法の研究者、上原巌さん(東京農大森林科学科)は、森の特徴としてカッチリとしていなくて全てがバラバラ、同じ形が一つもない状態が、人工的な室内との大きな違いを持つと言います。自然には人工物の特徴である均一性がありません。直線や直角、真円などがないのです。

「外に出て、安心して遊んでいるときの子どもたちの表情の変化はなかなか数値化できずに難しいものですが、周りの大人たちの多くが子どもの表情の違いに気づくと思います」と言う上原さんの言葉で、森で「やりたい」を実践していたときの子どもたちの顔を思い出していました。ロープを結ぶために集中した顔、高さが怖くて何度も止めようとした後にトライできて喜びを爆発させた顔、何がおかしいのかわからないけど笑いが止まらずにケタケタと笑う顔、手頃な枝を探す真剣な顔、これは何?と不思議そうに見つめる顔……。

ストレートに感情が表に出てきて、それが場面場面でくるくると変わる様子が思い出されました。その多彩さ、積み重ねが、子どもたちの心身を少しずつ少しずつ作っていくことの確かさを感じます。

脳の成長に重要な自然

虫好きで有名な解剖学者の養老孟司さんは、子ども時代の自然体験の必要性をさまざまな形で発信していますが、『子どもが心配 人として大事な三つの力』(PHP新書)という対談集の中で脳科学者の小泉英明さん(日立製作所名誉フェロー)が次のような発言をしています。

(乳幼児期の)「基本的な神経回路が構築される時期に必要なのは、自然環境からの本物の刺激です。情報が削ぎ落とされた人工物では、基本的な神経回路が正しく形成されません」と、人工物ではない豊かな生の情報を乳幼児期に取り込むことが一生の宝になる、と説いています。

「バーチャル体験と決定的にちがうのは、意識下にまで多くの“生の情報”が入り、脳神経を活性化させることです。実体験では脳は、意識するまでもなく五感を総動員して無数の情報を取り込んでいきます。(中略)だから、脳が柔らかな幼少時は特に、自然のなかに身を置き、同時にたくさんの人と接して、できるだけ多くの実体験をさせることが大事なのです」と、人工的なものが人による抽象化を必ず経るのに対して、自然がもつ生の情報がいかに脳にとって重要かが説明されます。

森林療法研究者の上原さんは、ノーベル賞受賞者について調べたことがあり、その結果は、ほとんどの受賞者には子ども時代に、自宅近くの川での水遊びや雨の中でのどろんこ遊び、山地を駆け巡って遊んでいたことなどがわかっているそうです。

自然の中で過ごして、これはなんだろう? どうなっているんだろう?と思う気持ちは、言い換えれば課題発見力と課題解決力という、これからの学力に必要とされている主要な二つの力と大きく関係している、と指摘しています。その上に、さまざまな感情を出すことができる環境は、子どもたちの気持ちを落ち着かせてくれます。どんなに持っている能力が高かったとしても、精神的な安定を欠けば、その能力が発揮できないことは大人も子どもも一緒です。

脳の成長に不可欠で、気持ちを安定させ、気持ちを発散させふぞろいが当たり前の自然。そんな中で解放されていく身体という自然を持つ私たち。都市化された暮らしが当たり前となり、デジタル社会が進んでいく時代だからこそ、自然を感受できる身体、大切です。

森の効能について、近刊の『水はどこからやってくる?』でも書きました。この本では、森の土が水を安全にきれいにして、生き物を豊かにし、土砂災害など災害を起こしにくくするメカニズムを、多くのイラストや図版で解説しています。この本を読むと、生命に欠かせない「きれいな水」を永遠にリサイクルするためには「森の手入れ」が欠かせないことがわかります。森や水に関心が高まったら、ぜひ見てみて下さい。

次のシリーズの最後となる3回目は、森での教育の最先端を行く北欧教育について書きます。

3回目を読む。
(3回目は8月31日公開。公開日までリンク無効)

1回目「夏休みのストレス解消&腸活には森遊びが効きます!」を読む。

『水はどこからやってくる?』(浜田久美子)

『水はどこからやってくる? 水を育てる菌と土と森』

●内容概要

森の土が水を安全にきれいにして、生き物を豊かにし、土砂災害など災害を起こしにくくするメカニズムを、多数のイラストや図版で解説する「水育」ガイドブック。20年以上にわたって「水のための森づくり」を試行錯誤してきたサントリーへの取材をもとに、水のサイクルや日本のいまの森の姿に迫ります。

この本を読むと、生命に欠かせない「きれいな水」を永遠にリサイクルするためには「森の手入れ」が欠かせないことがわかります。森や水に関する調べ学習や、自由研究の参考書に、ぜひご活用ください!

●目次
序章 きれいな水をつくってたくわえる「森の土」
1章 日本は森に助けられてきた
2章 飲み物会社、森づくりを本業に
3章 森づくりもいろいろだった
4章 どうして森は水を育むの?
5章 森に入れない!?
6章 二つの手ごわい敵〈前編・シカの巻〉
7章 二つの手ごわい敵〈後編・竹の巻〉
8章 豊かに見える森の中で起きていること
9章 自然の姿に近づけたい
10章 わかりだした地下世界
終章 水の未来に向かって

●著者:浜田久美子
東京生まれ。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業。横浜国立大学大学院中退。
精神科カウンセラーを経て、木と森の幅広い力と魅力に出合い作家に転身。森との接点が失われた時代に、もう一度森と人がより良い関係をつくるために挑む人々を取材している。2000年から長野県伊那市と東京三鷹の二ヵ所に暮らす二住生活中。『森をつくる人々』『木の家三昧』(コモンズ)、『スウェーデン森と暮らす』『森がくれる心とからだ』(全国林業改良普及協会)、『森の力 育む、癒す、地域をつくる』(岩波新書)、『スイス式森の人の育て方 生態系を守るプロになる職業教育システム』(亜紀書房)、『スイス林業と日本の森林』(築地書館)など著書多数。

はまだ くみこ

浜田 久美子

Kumiko Hamada
作家

東京生まれ。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業。横浜国立大学大学院中退。 精神科カウンセラーを経て、木と森の幅広い力と魅力に出合い作家に転身。森との接点が失われた時代に、もう一度森と人がより良い関係をつくるために挑む人々を取材している。2000年から長野県伊那市と東京三鷹の二ヵ所に暮らす二住生活中。『森をつくる人々』『木の家三昧』(コモンズ)、『スウェーデン森と暮らす』『森がくれる心とからだ』(全国林業改良普及協会)、『森の力 育む、癒す、地域をつくる』(岩波新書)、『スイス式森の人の育て方 生態系を守るプロになる職業教育システム』(亜紀書房)、『スイス林業と日本の森林』(築地書館)、『水はどこからやってくる?』(講談社)など著書多数。

東京生まれ。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業。横浜国立大学大学院中退。 精神科カウンセラーを経て、木と森の幅広い力と魅力に出合い作家に転身。森との接点が失われた時代に、もう一度森と人がより良い関係をつくるために挑む人々を取材している。2000年から長野県伊那市と東京三鷹の二ヵ所に暮らす二住生活中。『森をつくる人々』『木の家三昧』(コモンズ)、『スウェーデン森と暮らす』『森がくれる心とからだ』(全国林業改良普及協会)、『森の力 育む、癒す、地域をつくる』(岩波新書)、『スイス式森の人の育て方 生態系を守るプロになる職業教育システム』(亜紀書房)、『スイス林業と日本の森林』(築地書館)、『水はどこからやってくる?』(講談社)など著書多数。