研修を受けた地域のボランティア「ホームビジター」が家庭を訪問し、ママパパの「ちょっとしんどいな」「話を聞いてほしい」「こんなふうにしたい」に対して、一緒に取り組んでいく家庭訪問型の子育て支援「ホームスタート」。就学前の子どもを持つ家庭なら、誰でも無料で利用することができます。
実際には、どのような親が利用し、どのような良い面があるのでしょうか。引き続き、ホームスタート・ジャパン代表理事でもある「わこう子育てネットワーク」の森田圭子(もりた・けいこ)さん、理事・事務局長の山田幸恵(やまだ・ゆきえ)さん、「ホームスタート・こうとう」の磯野未夏(いその・みか)さんにお話を伺いました。
最後には子育て専門家として多方面で活躍する、子育てアドバイザー・高祖常子さんにも意見を聞きました。
※全3回の2回目(#1を読む)
斜めの関係だからこそ安心して話ができる
子育てをしていると、「なんだかしんどい」「頑張っているのは私だけ?」とちょっと悲しくなってしまったり、周りの親はみんなうまくやっているように見えたりと、多かれ少なかれ不安な気持ちになってしまうことが誰にでもあると思います。環境によっては誰にも相談できず、一人で抱え込んでしまうことも。
「そんなときはぜひ私たちを頼ってほしい」と、ホームスタート・ジャパン理事・事務局長の山田幸恵(やまだ・ゆきえ)さんは話します。
ホームスタートの活動拠点は全国31の都道府県で117ヵ所。各拠点で活動母体は異なり、おもにNPO法人や社会福祉法人などの子育て関連の非営利団体が担っています。
なかでも利用家庭数が国内最大なのが、東京都江東区に拠点を置くNPO団体「こうとう親子センター」。江東区は、再開発によりタワーマンションが立ち並ぶエリアと、昭和の下町風情が残るエリアが共存する街。子育てしやすい街というイメージを持っている人も多いでしょう。
「こうとう親子センター」でホームビジターを調整する役のオーガナイザーとして活動する磯野未夏(いその・みか)さんに最近の江東区の傾向を伺いました。
「タワーマンションが立ち並ぶエリアからの申し込みが多いですね。親御さんやきょうだいが近くにいない方、また、出産直前まで仕事をしていたなどから近所に知り合いがいないという方たちが多いです。
コロナ禍の影響で里帰り出産ができなくなってしまったり、故郷の両親になかなか来てもらえなかったり。ここ2~3年では、出産前にご連絡をいただいて『産後すぐ来てほしい』というケースが増えてきています」(磯野さん)
実家も遠く、友達もいない土地では、子育てに煮詰まってしまったときなど「ちょっと誰かと話したい」と思っても、なかなか難しいのが現実です。
「子育て期の悩みって、実はほとんどが一過性です。子どもの成長とともに状況がどんどん変わるので、同じ悩みがずっと続くわけではない。でも、ネガティブなことってなかなか人に話せないですよね。
その点、守秘義務もあり、“斜めの関係”でもあるホームビジターはちょうど良い存在で、ママたちも安心して気持ちを話しやすいんだと思います。
パパのグチを言っても、『あの旦那さん、こんな人なんだって』と後から噂になることもない。『友達に話せないことも話せてラクになった』という声が結構多いんですよ」(磯野さん)
ホームビジターは友達の「ような」、お母さんの「ような」存在。この「ような」が大切だと山田さんは話します。助けの「手」にもなるけど、それだけではない。おせっかいをしすぎず、お互い依存関係にならない支え合いや繫がり方はホームスタートならではといえるでしょう。
まるで別人!? ママの表情が変わった
磯野さんは、ホームビジターの調整役・オーガナイザーになって初めて担当したママについて、とりわけ印象的だったと振り返ります。ママが2人目の里帰り出産を終え、自宅に戻ったタイミングでの訪問でした。
「初回の訪問時は、けわしい顔つきで上の子を𠮟っていて。自分の身なりにかまう暇もないといった感じで、とてもイライラした様子でした。
ホームビジターによる6回の訪問の後、様子を聞くためご自宅に伺うと、玄関から出てきたママが全く別人のようだったんです。『おうち間違えたかな!?』と思ったほど(笑)。
お洋服も髪の毛もきれいにしていて、顔つきもにこやか。上の子に対する話しかけ方も以前と違っておだやか。きっと、それがママのもともとの姿だと思うんですよね。
ホームビジターに、ママの変化の理由を聞いたら『とくに何もしてないのよ』と。ママとおしゃべりして子どもと遊んだだけって。ちょっとしたきっかけでこんなに人って変わるということを体感し、この活動はすごいかもしれないと感じました」(磯野さん)