火事、母の病…幼少期のアン ミカが身をもって実感した 子どもの運命を変える「大人の言葉」

【アン ミカさんと考える子どもの未来 後編】悩むことは素敵なこと! 自分で考えて答えを見つけよう

アン ミカさん訳 絵本でわかる“ありのままの自分”

2024年3月、アン ミカさんは新刊絵本『スパゲッティになりたいラーメン(KADOKAWA)』の訳を担当しました。

アン ミカさんが翻訳を手がけた絵本
『スパゲッティになりたいラーメン』(KADOKAWA)

物語は、スーパーに並ぶインスタントラーメンが、向かいの棚に陳列されているスパゲッティに憧れるというエピソードから始まります。

自分をスパゲッティのようにスマートにカッコよく見せたいと思うラーメンの気持ちと、親しみが持てるポップなイラストに思わずクスッと笑ってしまうような一冊です。

ですが、読み進めると自分にも身に覚えのあるような感覚が起きてきます。アン ミカさんは、現代人がよく使うSNSの画像ツールに例えて話してくださいました。

「今はSNSに投稿するときに、自分を良く見せるアプリがたくさんありますよね。やってみるととても楽しいものです。

ただ、やりすぎてしまい過剰になると、本来の自分を否定することにもなりかねません。いい悪いではなく、使い方がとても大事かと思います。

人は比べてしまう生き物です。でも、成長する過程で一度くらいは自分を嫌いになる時期があっても私はいいと思っています。

そこを経て、最後は顔や足の長さよりも、今のあなたを好きといってくれる人がちゃんといるかどうかが大切です。

絵本では、自分の良さに気づけないラーメンくんに、なるとやチャーシューたちが楽しそうに声をかけてきて、ポチャンと同じどんぶりのお湯に入ってきます。

ラーメンの具材たちとの仲間意識が芽生えるなかで、自分の考えに変化が出てくる様子などが見どころです。終盤にはラーメンくんが自分自身をどう思うのか、親子でラーメンくんの立場になって読んでもらえるといいかもしれません」(アン ミカさん)

アン ミカさんも以前は口がコンプレックスでしたが、自分が嫌いだと思っている部分こそ、周りの人たちから愛されることにつながるのだと、仕事を通して学んだといいます。

「イキイキしている仲間たちの姿を見てハッと気づかされる、そういうことって私たちにはあると思います。

自分の存在にはちゃんと意味があって、ご先祖様から受け継いだそのままの姿を自分自身が愛せるといいですよね。

今のあなたがいるのは、愛情を持って育ててくれた両親のおかげで、すべてはご先祖さまや両親から与えてもらえたものと気づいてもらえたら素敵だなと思います」(アン ミカさん)

子どもだけでなく、大人も読んでみるとストンと腹に落ちるようなそんな絵本です。

夢を持ち、前に進むことの意味

最後に、コクリコ読者に向けてアン ミカさんからメッセージをいただきました。

「私の父の話になりますが、モデルになるときに、家を出ろといわれたんです。

親子の約束として、モデルで一流になるまでは実家に帰らないこと、新聞を読むことや人の役に立つ資格を取得するようにいわれました。

それくらいの覚悟を持ってやりなさいと背中を押してくれたんです。

何か資格を取ったらそのときは連絡していいともいわれたので、秘書検定や漢字検定、校正技能検定を学んだりしました。合格したら家族に『こんな資格を取れたよ』って報告してたんです。

というのも、そのころ、私は最初のモデル事務所を辞めて高校生でフリーランスになり、自称モデルという立ち位置だったんです。

オーディションで趣味を聞かれると、一緒に並んでいる人たちはみんな同じようなことを伝えるので、私だけは『◯◯の資格を取る勉強をしています』ってアピールをして、違う魅力を伝えられたと思います。

それと、私がモデルを続けられなくなったとしても、勉強してきたことはいざというときの保険といいますか、社会と手をつないで生きていけるという自信にもなりました。

父の言葉がきっかけですから、やはり私の両親は導き上手だったと感じます」(アン ミカさん)

中学を卒業してから、すぐにモデルとして生きようとする娘の姿を見て、お父さんも心配していたことでしょう。ですが、アン ミカさんは決して父親から頭ごなしに「モデルはやめろ」といわれたことはなかったといいます。

「これをお読みの親御さんが、我が子からお金にならないような職業に進みたいといわれたなら、『趣味にしておきなさい』とかではなく、『今は楽しいかもしれないけど、大人になったときに、誰かの役に立てるようにどう持っていけるのか』などと聞いてみるといいかもしれません。

例えば、子どもにはゲーム好きな子が多いですよね。我が家は兄たちがゲームばかりしていると『社会に出たらそれがどう役に立つといいのか』と両親から質問されていました。

親にしかいえないシビアなことってありますし、ときにはそれが図星だったりして、耳の痛いことをいわれてウッと言葉を詰まらせてしまうこともあるけれど、信頼関係があれば厳しいことでも、子どもも親が愛情でいってくれているとわかると思うんです。

親子で、質問し合いながらいっぱい子どもに話してもらい、応援していくという見守り方がいいのかなと。子どもながらに遊びを通して、将来のことをリアルに考えてみることは大事ではないでしょうか。

私の家族ではそれが昔からあったので、今でもきょうだいで会えば『厳しかったけど、褒めて伸ばして考えさせてくれたよね』って話をします。

早く2人とも天へ逝ってしまったけど、私たちはあの両親から生まれてきて、とてもラッキーでした」(アン ミカさん)

穏やかな口調で、「大人たちからの言葉」をテーマにずっと微笑みながら話してくださいました。

大人の言葉一つ、愛のある導き一つで、こんなにも子どもの運命が大きく開かれていくことを、アン ミカさんは現在の活躍を通して身を持って証明されています。

我が子の長所を伸ばすために、親ができることは何か。

本人の好きなことや特性を、そばにいる親が理解することで、お子さんが将来を決める際に何らかの手助けになるかもしれません。

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◆アン ミカ
モデル、タレント。1972年生まれ。韓国出身。大阪育ち。1993年パリ・コレクションに出演。モデルのほか、ジュエリー・ファッションデザイナー、化粧品プロデュース、エッセイスト、歌手、バラエティー出演など幅広く活躍。

取材・文/飯塚まりな

『アン ミカさんと考える子どもの未来』は、前後編。
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