全クラスが「探究」する渋谷保育園
渋谷保育園の階段を登ると、天窓からやわらかい光が注ぐ開放的なスペースが目に飛び込んできます。
ここは「アトリエ」と呼ばれる探究活動の拠点。棚には図鑑や観察用の機材、子どもたちの活動を記録した写真が並び、大人も好奇心をくすぐられる空間です。
渋谷保育園が探究活動をスタートさせたのは2021年度のこと。渋谷区が独自に東大CEDEPと連携を始めたことがきっかけでした。2023年からは東京都の「とうきょう すくわくプログラム」の助成も加わり、他園の参考になるような活動事例を生み出す園(実践協力園)として、東大CEDEPの知見を借りながら先進的な実践を積み重ねてきました。
探究活動は、子どもが抱く「なんで?」という問いを、大人も一緒に楽しみ、対話をとおして深めていく「プロセス」そのものをいいます。自分が感じた疑問や好奇心が尊重され、じっくり考えたりお互いのアイデアを交換したりできると、子どもたちは夢中になって観察や実験を繰り返します。そうした経験がものごとへの興味関心、自分で考える力、協同性といった「非認知能力」につながっていくのです。
*乳幼児の探究活動については、こちらの記事で詳しく解説しています。
東京都は、こうした「非認知能力の育ち」を応援したいと考え、「とうきょう すくわくプログラム」を開始。乳幼児期の発達や教育・保育実践などを研究する国内唯一の専門機関である東大CEDEPと連携し、都内の幼稚園や保育園、こども園などにおける探究活動の実践をサポートしています。
渋谷保育園も「すくわくプログラム」を活用し、今では0歳児から5歳児の全クラスで探究活動を推進。「アトリエコーディネーター」と呼ばれる探究活動専任の保育士を独自に配置するなど、積極的に活動に取り組んでいます。
「すくわくプログラム」では次のような流れに沿って進められています。
アトリエコーディネーターの高橋彩(たかはしあや)先生を中心に、2025年度もクラス担任と話し合いながら準備から実践、振り返りまでを協力して進めてきました。
実際どのように探究活動を行っているのか、3歳児クラスの様子をのぞいてみました。
「どう思う?」正解を教えない問いかけが子どもの思考を加速させる
取材した日は、2025年度における探究活動3回目の日。テーマは「身近な自然」です。
子どもたちが自宅から持ってきた「自然だと思うもの」を見たり触ったりしたのが1回目、虫眼鏡や小型マイクロスコープなどの道具を使ってさらにじっくり観察したのが2回目の活動でした。
3回目の今回は、友だちが持参した「自然」を観察します。
「今日は何をするか、みんな覚えてる?」アトリエコーディネーターの高橋先生が、子どもたちに元気に話しかけると、「今日は自分のだけじゃなくて、お友だちのものも触っていいんだよね」と一人の子がニコニコして答えます。
「よく覚えていたね。まずは目で見たり手で触ったりしたあとで、マイクロスコープでも見てみようか。Aちゃんはどれを見てみたい?」と高橋先生が続けます。
ほかの子にも気になるものを聞いたあと、クラスメイトが持ってきた「自然」がずらりと子どもたちの前に並びました。
葉っぱ、枝、どんぐり、松ぼっくりなどの植物、貝に珊瑚、塩、図鑑まで! 子どもたちが持ち寄った「自然」が整理されています。それを見て、子どもたちはそれぞれ気になるものを手に取り始めました。
一人の子は「こっちには葉っぱがついているのとついてないのがあるね、なんでかな?」と、自分の疑問を先生に話します。
向かい側には、肩を並べて仲良く話す二人の子がいて、「ボコボコしてる」「中はツルツルだよ」と、うれしそうに珊瑚の大きな塊を持ち上げたり、表面をなでたりしています。
渋谷保育園の3歳児クラスの探究活動は、1グループ3~4人に先生が2人の小人数で実施しています。子どもがじっくりと自然物に向き合い、感じたことや考えたことを互いに共有するためです。
先生に話しかける子もいれば、あまり言葉を発さず一人でじっと見入る子、友だち同士で観察する子がいるなど、方法はそれぞれ。先生たちはその子のやり方を尊重しながらも、あまり話さない子には要所要所で、「これが気になる?」などと対話を促します。
しばらく様子を見ていると、先生たちの言葉には、共通した特徴があることに気づきました。それは「どうしてだろうね?」「○○ちゃんはどう思う?」と、常に子どもの内側に問いかけていることです。
「子どもたちが自分の考えや感じていることを意識できるように、繰り返し声をかけています。わからないと答える子や黙ってしまう子もいますが、その場で反応が返ってこなくても、心の中では考えているかもしれません。問いかけを続けていると、『なんでかな?』と自分で疑問を掘り下げる子も出てくるんです」と話す高橋先生。探究の専門家であり、活動開始当初から東大CEDEPと連携して継続的に伴走・助言している津田純佳(つだあやか)氏の助言を受けてから、子どもへの問いかけを大切にしてきました。
この日も、高橋先生らの言葉をきっかけに自分の考えを話したり、「形が違うからかな? 大きさかな?」と問いを深めたりする子どもの姿が見られました。
答えを教えるのではなく、自ら考えることを大切にする。対話を楽しみながらじっくり観察する。「プロセス」を味わう探究活動ならではの光景です。































