禅僧が教える 「禅」で子どもの「自分で考える力」が伸びる理由とは

【特別対談】 禅僧・大愚元勝 × 教育ライター・佐藤智

子どもの情緒的な能力と学力の深いつながり

佐藤さん:
私は自著のなかで、「頭のいい子」を「自ら関心を持ち、学び続けられる子」と定義づけています。というのも、学ぶことを楽しめる子どものほうが、結果として勉強の成果が出てくるからです。ただ実際のところ、そうではない子も少なくないのが実情です。

たとえば、小学校の先生に取材で聞いた話ですが、子どもたちに「この授業の資料をつくるために、先生はすごく勉強したんだよ」と伝えると「え! 大人なのに勉強してるの!?」と驚く子がいるんです。つまり、「大人になったら勉強しなくていい」と思っている子が一定数いるということです。これって学ぶことは「したくないもの」であり、大人になればそれから解放されるという考え方ですよね。

大愚さん:
どれだけ知識を詰め込んでも、そこからさらに自主的に学び続ける姿勢が身につかなければ、ほとんど意味がありませんよね。とくに刻一刻と変わり続けるいまの社会では、変化に合わせてそのときどきの自分に必要な知識を学んだり、経験を積んだりすることの重要性が高まっているのではないでしょうか。

佐藤さん:
そのことにも教育関係者の人たちは気づいていて、「探究学習」を重視し、「総合的な学習(探究)の時間」が必修科目になりました。子どもたち自らが問いを立てて、その問いを解決するために情報を収集・分析し、ほかの人と協力する学習です。

ただ、いざ子どもたちにやってみてもらうと、そもそも「問いが立てられない」という子どもが多いんですね。「なにを学べばいいかわからない」「なにをしたいのかがわからない」という子がたくさんいます。

撮影:講談社児童図書出版部

大愚さん:
私なんかだと、「なにを学べばいいかわからない」という子どもは素晴らしい体験をしていると思います。

だって、大人も「自分がどういう仕事をしたいのか」とか「自分はなんのために生きているのか」についてわからない人が多いじゃないですか。

でも、そういうふうに「自分はなにを学びたいのかがわからない」ということを自分で認識していることが大事なのではないでしょうか。

佐藤さん:
なるほど。大愚さんの本の冒頭で、禅について「自分の感情や思考を客観視すること」と説明されていますが、そのことですね。

じつは教育の世界でも最近は「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング」(SEL/社会性と情動の学び)というものが注目されています。これはもともとアメリカの問題行動を起こしてしまう子どもたちの支援ためのプログラムの一環としてスタートし、自分と他人の感情を客観視して理解しようという試みです。

SELはEQや非認知能力ともつながる概念で、アメリカでは多くの学校で取り入れられるようになり、じつは結果として学力も向上したという報告がされています。それまで、子どもたちの情緒的な能力と学力には関係性が見出されていなかったのですが、じつはそういった情緒面で自らをコントロールする能力が学力に結びついているのではないかといわれています。

大愚さん:
子どもたちがそういうふうに悩んでいるときに、その悩みを解決してあげようとまわりの大人たちがアドバイスをしたり、助けてあげたりすると、むしろ、子どもたちから「悩み、考える力」を育む機会を奪ってしまっているかもしれない、ともいえますね。

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