学校給食からパンが消える? 設備ひとつで味が変わることも……令和の給食室が抱える厳しい現実

令和の給食最前線 #2 ~給食とお金・後編~

管理栄養士・栄養教諭:松丸 奨

管理栄養士・松丸奨先生が考えたチキンカツとレーズンパンの献立。今後はパン工場の関係から、週に1回のパンの日がなくなるかも……!?  写真提供:松丸奨

2024年6月、東京都は、都内の保護者や教職員向けに「学校給食パンに関するアンケート調査」を実施。このアンケートによると、今後都内の学校給食パンの安定供給が困難になるかもしれないとのこと。

このことについて、「食品工場の閉鎖や輸送費の高騰で、今後大いにあり得る話です」と話すのは、東京都内の公立小学校で管理栄養士・栄養教諭として働く、松丸奨先生。

「かつては給食の定番だった“ソフト麺”も、工場の老朽化や、取扱業者の減少により、平成後期からはあまり見られなくなってしまいました」(松丸先生)

時代の流れで献立が変わるというのは珍しくないもの。さらに松丸さんは「給食室の設備によって、提供できる給食に全国で格差が生まれている」とも話します。

給食とお金をめぐる問題は、保護者の目につきやすい給食費だけではない模様。一体どんなことが起こっているのか、松丸先生に解説していただきました。


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松丸奨(まつまる・すすむ)
1983年千葉県生まれ。東京都文京区の公立小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。日本テレビ系「世界一受けたい授業」などメディア出演多数。

学校給食パン業者は年々減少の一途

『東京都におきましては学校給食パン加工委託工場が減少の一途をたどり、現在では全都給食実施校の配送を15社(17工場)で供給しております。
《中略》
平成元年106社あった学校給食パン業者が現在15社まで減っていて、後継者問題や工場の老朽化などから今後パン供給ができない学校が出てくる可能性があります。このことを踏まえ、皆さんのご意見をお聞かせください』

これは、2024年6月、都内の保護者向けに電子配布された「学校給食パンに関するアンケート調査」の内容です。

同調査によると、福井県福井市では学校給食パンの供給会社が無くなったことや、かつて給食の定番メニューだったソフト麺は以前から供給停止されており、当面は米飯給食のみとなったことが綴られています。

アンケートでは「学校給食にパンは必要と思いますか?」「パン給食の回数はどのくらいがいいと思いますか?」などの質問が並びます。

「主食となるご飯・パン・麺類の登場回数や頻度には、ルールがあるんです。1976年に米飯給食が開始されるまで、日本の給食ではパンが主食でした。

2009年に文科省が米飯給食の推進を通知し、現在はパンの提供は週1回と決まっているのです」(松丸先生)

大手製パン業者が給食のパン製造を断る理由

給食のパンは製パン工場(学校給食パン業者)で作られ、学校や給食センターへ届けられます。

前述のアンケートでは、学校給食パン業者が減少し続けており、また「学校給食パンは、保存料不使用の他、子どもの学年ごとに重量や塩分などの規格が決められています。それに加えて、使用当日の朝配達などのしばりがあります。そのため山崎パンやパスコなど大手製パン業者から取り扱いを断られています」とのこと。

「東京中の学校にパンを作って配るというのが、現実的に難しくなってきているのだと思います。東京は子どもが多いのに、大規模な工場を建設するほどの土地がない。これは、東京ならではの課題かもしれません。

パンの日は、1つの学校に朝決められた時刻までにパンを600個~1000個、配らなければいけない。配送のための交通渋滞もあるし、輸送費も高い。物価高騰により、人件費と物価高騰で経営がきつくなって、製パン工場が閉鎖すると、営業している工場に注文が集中することになる。

そんな現状があって、何かを変えなければいけないところまで来ているのかもしれません。そのためのアンケートかと思いますね」(松丸先生)

パン給食の日より。この日はバゲットを添えたチーズフォンデュ。  写真提供:松丸奬

給食室の環境で味が変わってくる

パンが消える以外にも、学校給食の現場が抱える問題は多面的です。

「給食室の環境に、全国の学校で大きな格差がある」と松丸先生は言います。

「私が働いている小学校の給食室も、2年前まではエアコンがない状態でした。窯の近くは、調理をしていると50度を超える熱さ。栄養士や調理士は、長袖長ズボン、マスクに帽子が義務付けられているので、汗が止まらなくて……。毎日サウナにいながらにして働いている、という大変厳しい状況でした」(松丸先生)

給食室の設備は、子どもたちの献立や給食の味にも関わってきます。

「学校によって、使える設備が異なります。最新機器で早く、美味しく調理ができるところはいい。しかし、設備や機材が古く、子どもたちに満足がいく献立が提供できないという学校もあるんです」(松丸先生)

たとえば食パンなら、そのまま提供するよりも一工夫加えたほうが、おいしさが増して子どもたちが食べやすくなります。

「コッペパンにジャムを塗って、スチームコンベクションオーブンで蒸し直すと、しっとり感がアップ。食パンならニンニクとバターを混ぜたものを塗ってカリッとオーブンで焼き上げると、食欲をそそるガーリックトーストに変身するんです」(松丸先生)

こういった工夫も、調理する環境が整っていればこそできることです。

給食室の老朽化と子どもの減少が抱える問題

給食室や設備の老朽化により、改修工事が実施・検討されている学校もあります。しかし「子どもの数が減っているなかで、給食室の改修に何億円もかけられないと判断する自治体も少なくない」と松丸先生。

「今後は、学校内で調理する自校式を取りやめ、給食センターでの調理に集約されていく可能性があります。あとは、横浜市が開始したデリバリー型給食も、新しい給食のカタチとして主流になってくるのかもしれません。

そうすると献立も変わってくるし、ますます我々の知っている給食とは違うものに変わっていくのかなと思いますね」(松丸先生)

給食室の設備も、時代と共に変化。「これは業務用の回転釜で、一気に数百人分の調理をすることができます」(松丸先生)。  写真提供:松丸奨
写真提供:松丸奨

令和は給食のあり方が変わる過渡期

学校給食の現場から、変わりゆく給食を見つめている松丸先生。大の給食オタクでもあり、メディアへの露出も多いですが「あまりこういう給食に関する社会課題を話す場はないんですよ」といいます。

「子どもたちの給食のために、いろいろな取り組みが行われています。家庭の負担を減らす給食無償化も歓迎されるべき流れではありますが、子どもに対してお金を使っていこうと言うならば、子どもたちが食べるものを作るための予算もきちんと入れてください、と思いますね。

全国の給食室を整備したり、機器を入れたりと、給食を作る環境を整えていくことが、子どもたちの口に入るものをよくすることにつながる。そのことを改めて多くの人に知ってもらいたいですね」(松丸先生)

焼いた魚の中心温度も、毎食しっかり測定しています。  写真提供:松丸奨

子どもたちの給食のために、早朝から働く栄養士や調理師。食材を届けてくれる業者の方たち。給食は、多くの方たちに支えられています。

「豪華じゃなくてもいい。ちゃんとしたものを食べてほしいなと思うんです。全国の子どもたちが、みんな平等に、美味しくて安心な給食を食べられる環境がこれからも続いてほしいと願っています」(松丸先生)

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安心・安全な給食で、お腹いっぱいになってほしい。親の立場でも給食が続くことを祈っています。

次回3回目では、子どもたちが気になるおかわり・食べ残しなどの給食ルールについてです。

「食べ終わるまで、廊下に机を出して居残り」なんていう完食指導は昭和の時代の話。一方で、食品ロス削減や、SDGsの促進で、令和の給食風景はどうなっているのでしょう。

引き続き、管理栄養士の松丸奨さんにお話を伺いました。

取材・文/遠藤るりこ

「令和の給食」連載
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(※5回目は2024年7月19日、6回目は7月20日公開。公開日までリンク無効)

「給食の謎」著:松丸奨(幻冬舎新書)
『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』著:松丸奨(講談社)
まつまる すすむ

松丸 奨

Susumu Matsumaru
管理栄養士・栄養教諭

1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe

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1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe