子どもの給食 「食べ終わるまで居残り」は絶対NG! 「話題の管理栄養士」が明かす令和の指導とは

令和の給食最前線 #3 ~給食指導・前編~

管理栄養士・栄養教諭:松丸 奨

食育の授業中の松丸奨先生。栄養教諭として、子どもたちに栄養や食生活の正しい知識を伝える授業をしています。  写真提供:松丸奨

東京都内の公立小学校で、現役の管理栄養士として働く松丸奨先生は、栄養教諭として子どもたちへ食に関する授業をするだけでなく、給食試食会で保護者の食への悩みを聞く機会があるといいます。

そこで耳にするのは、「うちの子は好き嫌いが多い」「塾や習い事で忙しくて、家族で夕食の時間が取れない」など。

「いろいろなお話を聞いて令和時代の給食は、きちんとした献立のものをみんなで揃って楽しく食べる、3食の中で一番バランスの良い食事なのかもしれないと思うことがあるんです。

だからこそ、給食を残されないよう、目一杯の工夫をしています」(松丸さん)。

「食べ終わるまでは許さない!」なんて完食指導は、今や昔。でも、好きなものだけを食べられるわけでもありません。おかわりや、お残しのルールなど、令和時代の給食指導のあり方について、松丸先生にお話を伺いました。

(給食連載3回目。1回目を読む2回目を読む

松丸奨(まつまる・すすむ)
1983年千葉県生まれ。東京都文京区の公立小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。日本テレビ系「世界一受けたい授業」などメディア出演多数。

給食室での松丸奨先生。  写真提供:松丸奨

ストレスのかからない給食

「子どもって少しでも嫌だな、苦手だな、と思うと食べてくれないんです。

だけど、1食でバランスの良い栄養を摂れるのが給食です。せっかく考えた献立を、少しでも多くの子どもたちに完食してほしいと常に思っています」(松丸先生)


何よりも大事にしているのは、「子どもにとってストレスの少ないメニュー」にすることだといいます。

「野菜の青臭さや、魚の生臭さには下味を丁寧につけるなど、基本的な調理には手を抜きません。

できるだけ食べやすいサイズで提供することも大事で、特に1年生の口のサイズは想像以上に小さい。ストレスなく口に入るのはどのぐらいの大きさなのかも考えるようにしています。

また、料理は見た目も大切なので、緑黄色野菜などを入れて明るくしてあげるなど、食に関するマイナス要素をできるだけ排除することを常に頭に置いています」(松丸先生)

匂い、食感、彩りなどにこだわった、松丸先生が考えた献立の一例。こちらはボリュームたっぷり豚骨ラーメン。副菜のサラダもなんとも鮮やか! 「豆乳を入れることで豚骨スープの色にしつつ、カロリーと脂質を抑えています」(松丸先生)。  写真提供:松丸奨

不登校だけど給食は食べたい! という子も

子ども時代に、給食がどうしても食べられず、行きすぎた完食指導の影響で、食事に恐怖を覚えてしまい、大人になってもそのトラウマに悩んでいる、という人もなかにはいます。子ども時代の完食指導が記憶に残っているというママパパも多いのではないでしょうか。

「子どもたちにとって給食は、学校生活の大切な一部で、すごく大きな存在です。だから『給食が美味しいから学校が楽しい』と感じてくれたらいいなと思っていて。

不登校だった子が、『給食を食べに学校に行きたい』なんて言ってくれているということがあって。それを聞いたとき本当に嬉しくて、そして身が引き締まる思いがしました」(松丸先生)

毎食どこかに子どもが喜ぶポイントを必ず入れる

献立作りには、全精力を注いでいるという松丸先生。いかに子どもたちが残さず、美味しく食べてくれるのかを考えているといいますが、人気のカレーやスパゲッティの日と、地味めの献立とのバランスは、1ヵ月でどう組み立てているのでしょうか?

子どもたちに大人気のスパゲッティミートソース。  写真提供:松丸奨

「人気メニューはそれだけで喜んでくれます。だからその翌日に、魚の照り焼きや、ひじきの煮物などの地味な和食メニューをもってきます。でも地味なメニューだと子どもたちのテンションがどうしても下がるので、その場合はデザートをつけるようにしたり。逆にカレーはそれだけでテンションが上がるので、デザートは必要ありません(笑)。

『今日はこのゼリーがある』『明日はこのおかずが楽しみ』など、ずっと給食に対するテンションが高い状態をキープしてあげたいんです。子どもたちには内緒ですが、そうやって給食を通して、学校のテンションを操作させてもらっています(笑)」(松丸先生)

給食にちりばめられた工夫

献立作りの他にも、小さな工夫をちりばめます。

「子どもたちの前に給食が配膳されて、『いただきます』するまでが勝負。普段のメニューなら4時間目に仕上げにかかるのですが、カレーやニンニク料理など、食欲をそそる匂いのメニューの日には、2時間目くらいから学校中に匂いを充満させながら調理します(笑)

子どもたちが、『あ~、今日の給食が待ち遠しい!』となるように、助走をつけてあげるんです。先生たちには、授業中に匂いを漂わせてすみませんって、思っていますが(笑)」(松丸先生)


子どもたちが給食を食べ始めたら、各教室を回るのも松丸先生の仕事です。

「今日のおかずのポイントはこれだよって教えたり、季節の野菜や果物の話をすると、子どもたちは『食べてみたいな』と思ってくれるんです。そうやって、少しずつ食事に対する興味を持って、もっと給食を楽しく食べてもらえたらと思っています」(松丸先生)

松丸先生の食育授業の様子より。「子どもたちからの感想や何気ない一言が、献立作りの参考になることもあります」(松丸先生)。 写真提供:松丸奨

喫食のルールは担任が決める

とは言え、「生きるためだけでなく、おいしく楽しく食べる『喫食』のルールを決めるのは担任の先生。クラスによっておかわりのルールも違いますし、そうなると食べ残しの量も違います」と松丸先生。

「例えば、配膳のルールでよくあるのは『いただきますをしたら、手をつける前に、食べられない分は戻していい』というもの。

配膳された量が多いなと思ったら、自分で考えて戻していいのですが、どんなに嫌いなおかずでも、全部戻してしまうのはダメ。苦手なものは少し減らしてもいいけど、減らしてもお皿に残っている分は頑張って食べようね、という指導をしています。

でも栄養士の立場で正直に言うと、私はこのルールを推奨していません。

最初から盛り付けた量を減らすというのは、せっかく栄養価の計算をしている給食を、全量提供していないことになってしまうからです。だから理想を言えば、最初から基準量をきちんとみんなに盛り付けをして、全部食べてほしい。

とはいえ、食べられなかったら廃棄されてしまうし、『食べる前に戻す』というのは、折衷案かなと思っていますね」(松丸先生)

他によくあるのは、「おかわりは食べ終わった子から」のルール。すべてのメニューを食べ終わった子から、おかわりにエントリーできるというもの。人気メニューでおかわりしたい子が多く、数や量が限られていたら、ジャンケンなどで決めることも。

「でも、小学校高学年ともなると、周りの目が気になって、なかなかおかわりに来られない子もいるんです。本当はもっといっぱい食べたいんだけど、おかわりすることが恥ずかしいと思ってしまう。

そんな子に対しては、『ちょっと誰か食べてくれる子いないかな~』とか言いながら、バットを持って担任の先生が回って、『少しお願いできる?』なんてよそってあげるんです。こういうところが上手な先生のクラスだと、完食率が高いですね」(松丸先生)

───◆─────◆───

令和の完食指導は、献立の工夫や絶妙な担任の声掛けなどのアプローチが隠れていたんですね。

次回4回目では、ユニークな指導方法で話題のぬまっち先生こと、東京学芸大学附属世田谷小学校の教師・沼田晶弘先生にお話を伺いました。ぬまっち先生のクラスの給食完食率についてと、給食を通して子どもたちに伝えたいことを語っていただきました。

取材・文/遠藤るりこ

令和時代の給食連載
1回目を読む。
2回目を読む。
4回目を読む。
5回目を読む。
6回目を読む。
(※5回目は2024年7月19日、6回目は7月20日公開。公開日までリンク無効)

「給食の謎」著:松丸奨(幻冬舎新書)
『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』著:松丸奨(講談社)
まつまる すすむ

松丸 奨

Susumu Matsumaru
管理栄養士・栄養教諭

1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe

  • x
  • Instagram

1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe