ユニーク給食指導 現役教師の工夫とは? 当番・おかわり・食べ残し・配膳で「連続残食ゼロ」

令和の給食最前線 #4 ~給食指導・後編~

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭:沼田 晶弘

給食の完食率を高くする方法とは!? 写真:ohayou/イメージマート

「ひとつ断っておきますが、今から私が話すことは、びっくりすることも多いと思いますよ」

そう話すのは、東京学芸大学附属世田谷小学校の現役教師、沼田晶弘先生、通称「ぬまっち先生」。既存の教育の価値観に縛られない、子どもたちのやる気と自主性を伸ばすユニークな指導法で注目を集めています。

東京学芸大学附属世田谷小学校は、文部科学省から指定を受けた研究校。新しい教育体制として、異学年が集うHome(ホーム)、自分の興味・関心を探索するLaboratory(ラボ)、同級生のClass(クラス)、3つによる教育課程を試行しています。

ぬまっち先生が今年度(24年度)受け持っているのは、ホームという縦割りクラス。1年生から6年生まで、さまざまな学年の子どもたちがいる中での、給食のルールとは? 完食率が高いというぬまっち先生のクラスの給食の様子を聞いてきました。

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公教育では珍しい、ユニークな指導方法で人気を集める沼田晶弘先生。「ぬまっち先生」と呼ばれて親しまれています。

できる人から給食の準備をはじめる

4時間目終了のチャイムが鳴ると、教室にパラパラと子どもたちが戻ってきます。帰ってきた子どもたちは、給食着を身につけて配膳の準備を開始。

「できる人から給食の準備をする。シンプルにそれだけです。後から教室へ戻ってきた子どもたちは、給食着を着ている子を見て、人手が足りなさそうなら自分も参戦していますね」(ぬまっち先生)

みんなそんなに配膳が好きなのかといったら、そういうことでもないよう。

「目的はひとつ! クラスで給食をきれいに食べきること。だから、その目的のために、自分がやるべきことをやっているだけなんです」(ぬまっち先生)

集団の中で、自分が何をしてどう動けば物事が進むのか、子どもたちは毎日の給食当番をもって体験していきます。

「役割を割り振ると義務になるから、ペナルティばっかり増えるんですよ。夫婦間の家事だって同じじゃないですか。パパを皿洗い当番に任命したら、皿洗いをしてくれなかったときにイラッとしますよね(笑)。

逆に分担を決めなかったら、やってくれたときにありがたいなと思うし、最近自分はやってないからやらなきゃと感じるでしょう」(ぬまっち先生)

ぬまっち先生は、子どもたちを信頼して、任せてみます。

このぬまっち先生流の指導方法は、しばしば議論の対象にもなります。

「給食当番を決めないと、『それじゃ何もしない子が出てきませんか?』とよく聞かれます。そりゃ、やらなくていいならしないという子も、もちろんいますよ。ただ、僕のクラスでは多くはないです。

なぜなら、いつもやってくれる高学年は、低学年にチャンスをあげるため、時期をみて卒業しています。

公教育現場では、みんなができるようにしないと、みんなにやらせないと、という意見が大半。でも、子どもたちが自分で考えて、必要を感じたときに動ける人になればいいんです」(ぬまっち先生)

クラス全体で完食を目指す

前回3回目では、管理栄養士の松丸奨先生が、給食配膳の一般的なルールを教えてくれました。

ぬまっち先生のクラスは、1~6年生が混在している縦割りクラス。教室には一応、各学年の配膳量の目安が記されていますが、一人一人に向けてしっかり食べ切ろうと指導するのではなく、クラス全体で完食を目指すのがぬまっち先生流アプローチ。

「給食はチーム戦。一人では難しくても、みんなでならできる。そういう雰囲気を醸成してあげると、自然と『うちのクラスの残食ゼロ記録を途絶えさせるわけにはいかない!』なんて張り切ってくれる“給食エース”が出てくるんです」(ぬまっち先生)

そんな子を見て、「今日は自分も頑張っておかわりをしてみようかな」なんて影響を受ける子も。キレイに食べ切るって嬉しいし、気持ちが良いこと。そんな前向きな雰囲気が、ぬまっち先生のクラスにはあります。

「一食単位で見たら少なくても、一年を通して、このクラスの雰囲気の中で食べられるものや量が増えていけたら」とぬまっち先生。

社会の当たり前を教室の中で教えていく

東京学芸大学附属世田谷小学校は、毎週水曜日がお弁当の日。

「給食では少なめでおかわりをしない子が、お弁当には好物をぎっしり詰めて、すごい量を持ってきたりする。家庭の方針なので何も言わないですが、食べられるものだけ、好きなものだけ食べていればいいという子が多くなったと感じますね」(ぬまっち先生)

好き嫌いが多くて困ることがひとつだけある、とぬまっち先生。

「好きな子とデートに行くときに困るでしょう? 『私はしいたけが食べられない』『僕は魚が嫌い』なんて言い始めたら、食事ができるお店の選択肢が減ってしまうじゃないですか。

そんな話をすると、子どもたちは『私、デートとかしないし~』とか、ひねくれたことを言うんですけど(笑)。友達でも恋人でも、私は食事をしないで交流が深まることはないと思っています。だからコミュニケーションツールとしても、食事ってすごく大事なんです」(ぬまっち先生)

給食で食事の仕方を伝える役も

給食の時間は、正しい食べ方を伝える機会でもあります。

口に食べ物を入れながら話さない。食べこぼしをしない。ごはん粒が一つでも残っていると、おかわりに来てもやり直し。どうしても食べ残しをしてしまう場合には、食べ切れなかったものをお皿の隅に寄せておく……などなど。

「あと誰かが食べているものに対して、『これ、美味しくないよね』なんて言うのもマナー違反。こういうこと、本当は家庭で教えてほしいことなんですけどね……(苦笑)。

だから今、誰が丁寧に食事の仕方を教えてくれるのかと考えたら、自分の役割なのかなって思っています」(沼田先生)


ぬまっち先生が子どもたちとかかわる上で大切にしているのは、「学校教育の場が、ガラパゴス化してはならない」ということ。

「給食だけでなく、すべてにおいてそうなのですが、すでに残念ながらそういう状況に陥っていることがとても多い。教室にいるうちは甘やかされて見過ごされてきたことでも、社会に出たら許されないことって、実は山ほどありますよね。

うちのクラスの子どもたちには、社会に出ても通用する人間になってほしい。だから小学生に対して少し厳しいんじゃないか、なんて批判もたくさん受けますが、大事なことはしっかりと伝えていく。それが、社会に出てからも子どもたちを守ることにつながると信じています」(ぬまっち先生)

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机を突き合わせて、食卓を共にする喜びや、みんなで楽しく食事をすることを大切に思う気持ち。ぬまっち先生のクラスの給食の時間には、大切なことがたくさん詰まっていました。

次回は気になる「給食トラブル」について。食物アレルギーや、誤飲・窒息、宗教食への対応など、令和の時代に考えられる給食にまつわる課題について、引き続きぬまっち先生と、管理栄養士・松丸奨先生のお二人にお話を伺います。

撮影/日下部真紀
取材・文/遠藤るりこ

令和の給食連載
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(※5回目は2024年7月19日、6回目は7月20日公開。公開日までリンク無効)

『もう「反抗期」で悩まない! 親も子どももラクになる“ぬまっち流”思考法』著:沼田晶弘(集英社)
ぬまた あきひろ

沼田 晶弘

Akihiro Numata
東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。 東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。子どもの自主性を引き出す斬新でユニークな授業が数多くのメディアで話題に。 主な著書に『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社)、『もう「反抗期」で悩まない! 親も子どももラクになる“ぬまっち流”思考法』(集英社)など。 Instagram @numatch16 X @88834 公式note https://note.com/numatch16

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1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。 東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。子どもの自主性を引き出す斬新でユニークな授業が数多くのメディアで話題に。 主な著書に『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社)、『もう「反抗期」で悩まない! 親も子どももラクになる“ぬまっち流”思考法』(集英社)など。 Instagram @numatch16 X @88834 公式note https://note.com/numatch16

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe