子どもたちの「給食」はどうなる? 「給食無償化」「物価高騰」…現状とこれからを「話題の管理栄養士」が解説

令和の給食最前線 #1 ~給食とお金・前編~

管理栄養士・栄養教諭:松丸 奨

松丸奨先生の学校(当時)での配膳の様子。  写真提供:松丸奨
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学校給食の無償化が、全国で少しずつ進められています。文部科学省の調査によると、2023年9月時点で学校給食の無償化を実施している自治体は、全国小中学校の約3割。東京都23区に限っては、2024年4月からすべての公立小中学校が無償化となりました。

一方で、2023年には、西日本を中心に学校や学生寮、企業などの給食提供を行ってきた広島県の給食会社・ホーユーが倒産を発表。子どもたちの給食が提供できず、大きなニュースとして取り上げられました。

さらに、2024年4月には、政府広報オンラインがX(旧Twitter)で発表した「令和の給食写真」に批判が殺到。「現状はこんなに豪華ではない!」と、実際の給食写真と比較したSNSの投稿が増え、話題を呼びました。

飽食の時代と言われる一方で、子どもたちの給食は一体どういう状況に置かれているのでしょうか。東京都内の公立小学校で管理栄養士として働く松丸奨先生に、令和時代の「給食とお金の話」について聞きました。


(1回目の前編)

松丸奨(まつまる・すすむ)
1983年千葉県生まれ。東京都文京区の公立小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。日本テレビ系「世界一受けたい授業」などメディア出演多数。

戦争や気候変動 先の見えない物価高騰

東京都文京区の公立小学校にて、現役の管理栄養士・栄養教諭として勤務されている松丸奨先生。『給食の謎』(幻冬舎新書)を上梓され、給食にまつわるさまざまな課題に向き合っています。

給食無償化や会社倒産の背景には、近年の物価高騰が大きく関係している、と松丸先生。「食料品の値上がりを肌で感じるようになったのは、2022年の年明けから」と振り返ります。

「戦争(2022年2月のロシアのウクライナ侵攻)の影響で、4月の新学期のころには、多くの食材が1.2倍から2倍の額にまで上がりました。ニンジンなんて、一時期は7倍まで値上がりしたことも」(松丸先生)

小中学校の管理栄養士は、限られた予算の中で食材を調達し、子どもたちの月ごとの献立を考えるという仕事をしています。一食の給食にかけられる費用は、全国平均で260円ほど。「とてもじゃないけれど、この値上がりが続くようでは給食はやっていけない、と思った」と松丸先生はいいます。

「値上がりが少しずつ落ち着いてきたなと思ったら、昨年(2023年)の夏は猛暑を超える酷暑で、野菜が市場からなくなってしまった。北海道の玉ねぎやジャガイモが入ってこなくなってしまって……。ここ数年、学校給食は本当に苦しい時期が続いています」(松丸先生)

限られた予算でやりくりする栄養士にとっては、たった数円で大きく献立が変わってくるシビアな現状があります。

献立表を作成する松丸先生。  写真提供:松丸奨

「給食は、社会情勢や気候変動の影響をモロに受けてしまうんです。世の中がこんなに変わっているなかで、給食だけは変わらない、というのは無理がある。

そんななか、少しのおかずにご飯と汁物だけの《貧相な給食》がメディアに取り上げられることがありました。管理栄養士の立場として、これは辛いものがありました」(松丸先生)

給食費は上がるのに献立は貧しくなっている?

2024年6月、文部科学省が公表した給食費の全国平均月額は、小学校で4,688円。3年前の前回調査と比べて4%以上。10年前の調査からは、なんと10%以上も値上がりしていることがわかりました。

また、都道府県ごとの平均額の差も大きく、最も高い県と最も低い県では約2,000円の差があることがわかっています。

また、2024年4月には、政府広報オンラインがXに掲載した「令和の給食写真」も大炎上に! 野菜や肉がふんだんに使われた丼物の主食、具たくさんのスープにサラダと春巻きの副菜、そしてフルーツゼリーに牛乳の給食メニューは、実際子どもたちが食べている給食の献立とはかけ離れているとして、全国の保護者から批判が寄せられました。

政府広報オンラインが紹介した「平成・令和の給食メニュー」。農林水産省HPより。

「給食費が上がっても、献立が豊かになることがない。全国的にそんな状況が続いています」(松丸先生)

2023年は給食事業者の倒産も相次いだ

また、2023年9月には、学校や学生寮などで給食調理業務を請け負っていた、広島県の給食会社・ホーユーが倒産。各地で給食の提供を停止している事態になっていることがわかりました。このような給食事業者の倒産は、2023年1~10月までに17件も発生しました。

「給食会社の運営は、全国の小中学校のケースとは少し異なっていると思います。こちらは、丸ごと行政から委託されて、食材費・光熱費・人件費などをまとめてやりくりしている中での倒産。これは、物価が上がるなかで、経営が回らない状態になってしまったということだったんだと思います。

安定した供給が約束されていないとおかしい給食の世界で、こんなことが起こっているなんて、と私も大きな衝撃を受けました」(松丸先生)

全国で給食格差が広がる

このような事態を阻止するべく、全国の自治体が動き始めます。

「不況の煽りを受けて、多くの自治体で行われたのが、追加の補助金令達です。給食の質は下げず、保護者にも負担をかけずに、どうしたらいいのか。各自治体の中で特別な予算を組んで食材費に充て、学校にお金を入れていこうという動きが始まりました」(松丸先生)

保護者が支払う給食費は据え置きもしくは減額し、補助金によって物価高騰した分の食材費を補いました。この流れがあって、無償化が現実的に考えられるようになったと松丸先生はいいます。

「補助金令達をした結果、何千万・何億円とお金がかかった。では、実際に給食費を全額無償にしたらいくらになるのか、という議論が進められるようになったんです。だから、東京など、財源がある自治体は、動きが早かった。

今、『子どもたちのために』『子育て家庭のために』と、全国的にも少しずつ無償化の議論が広がってきていています」(松丸先生)


しかし、前述の文科省の調査によると、いったん無償化に踏み切ったものの、継続が難しく「24年度以降に続ける予定はない」と回答した自治体が、全体の11.4%に上っていることもわかっています。

「無償化の取り組みは、各自治体の裁量に委ねられているのが現状なのです。一般家庭の負担が減るのは歓迎されるべきことですが、全国で格差があるのは良くない。

また、給食の無償化は政治利用されているようなところもあって、選挙では『給食の無償化を実現します!』と、公約に掲げている人が子育て世代の票を集めたりしますよね」(松丸先生)

松丸先生が勤める給食室の様子。  写真提供:松丸奨

給食の無償化は、表面的ではなくもっと深いところで議論されるべき社会課題、と松丸先生は語ります。

「給食無償化は、都道府県や市区町村などのレベルに留まらず、国が助けてあげないといけない問題では、と私は思うんです。子どもたちは全国どこに住んでいても、平等でなくてはいけない。住んでいる場所によって、給食の費用やクオリティに差が出てくるのは良くないことです。

すべての子どもたちに、安定した給食を提供するためには、日本全体で給食の無償化を真剣に考えていったほうがいいと感じています」(松丸先生)

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さらに松丸先生は、「給食費や献立の内容だけでなく、目を向けてほしいことがある」といいます。

施設や設備、関連する工場の置かれている状況によって、子どもたちの給食の中身は大きく変化しています。令和の給食は今後、どのようになっていくのでしょう。

次回2回目では、「給食とお金」後編として、さらに視野を広げたお話を伺います。

取材・文/遠藤るりこ

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(5回目は2024年7月19日、6回目は7月20日公開。公開日までリンク無効)

「給食の謎」著:松丸奨(幻冬舎新書)
『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』著:松丸奨(講談社)
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まつまる すすむ

松丸 奨

Susumu Matsumaru
管理栄養士・栄養教諭

1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe

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1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe