子どもが政治を自分事にする「こども選挙」 ハードルは“一部の大人の無理解と偏見”だった

子どもによる、子どものための「こども選挙」#2〜投票日まで〜

「こども選挙」発起人:池田 一彦

町・民主主義・候補者を知るワークショップ

茅ヶ崎市長選挙と同日の2022年10月30日に、「こども選挙」は投票日を迎えました。運営したのは、茅ヶ崎市在住の子ども15名による「こども選挙委員」と、大人10名の「こども選挙実行委員」、そして30~40名のボランティアのみなさんです。

こども選挙委員は、公募で集まった小学3~6年生の女子14名、男子1名。彼らは『子どもが主役になる』を念頭に、この日までにワークショップや勉強会を4回にわたり体験してきました。

各回の内容は、住んでいる町・茅ヶ崎や民主主義を知ること、市民活動家による講義、候補者へのインタビュー等々、すべて子どもが一票を投じるための内容です。

●模擬投票に向けて行われたワークショップ&勉強会

・第1回 茅ヶ崎について考えるワークショップと民主主義についての勉強会
・第2回 市民活動家に茅ヶ崎の話を聞く
・第3回 実際の候補者にインタビューする質問を考える
・第4回 候補者からの回答動画を見る

民主主義の考え方についての勉強会。難しい内容もあるなかで真剣に耳を傾ける子どもたち。  写真提供:こども選挙実行委員会
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第1回のワークショップでは、茅ヶ崎の「好きなところ」「残念なところ」を考えました。意見をそれぞれ付箋に書き出し、「残念なところ」については、その解決策もみんなで案を出し合います。

●子どもたちの意見(一部抜粋)

<好きなところ>
「海であそべる」
「歩いていて声をかけると返してくれる」

<残念なところと解決策>
「海にゴミがいっぱい」→(おもしろくないと解決しない)→「ビーチクリーンしてビンゴをする」
「ららぽーとがない」→(作るためにはお金がかかる)→「茅ヶ崎のお店をバエるお店にしてお客さんが来ればお金が貯まってららぽーとが作れる」

第2回は、3組の市民活動家の講義を聞き、茅ヶ崎の環境問題・歴史・音楽文化について学びます。「後ろで聞いていた親たちからも『めっちゃ良かったです』と好評でした」(池田さん)。

そして第3回では、これまでの内容をふまえ、実際の候補者への質問を考えます。2022年茅ヶ崎市市長選候補者は3名。投票先を選ぶためには、候補者の考えを知らなければなりません。

2時間以上かけてみんなで考えた質問はビデオ収録して候補者へ届けます。公示後に、その回答動画を「こども選挙」HPで公開。市内の子どもたちは、その動画と、インタビューを書き起こした「こども選挙新聞」を参考に投票する、という流れです。

「全部で50を超える質問が出ました。全ては聞けないので、子どもたち自身で話し合い、3つに絞りました。

そのうちの1つは、移住者増加に伴ってマンションが増えていることについてです。ただでさえ人数が多く教室も増やせない現状があり、マンションを増やすことが本当にいいのかどうかを純粋に聞きたいという子どもの気持ちからなんですが、この質問がのちのち波紋を呼ぶことに……」(池田さん)

●候補者への3つの質問

・子どもと大人の意見をどのようにして取り入れますか? また、どのようにして実行しますか?

・市長になったら何をがんばりたいですか? その目的はなんですか?

・茅ヶ崎の中で、マンションを増やすことについてどう思いますか? またマンションを建てるメリットがあると思いますか?

子どもたちが自分の暮らす町や身近な疑問についてあらためて考え、市長候補者に直接投げかける機会は、「社会に自分の意見を表明する」という体験でもあります。そして候補者たちが実際に自分たちの質問に真剣に答えてくれたことで、子どもたちは社会参加への実感や手応えも感じたのではないでしょうか。

根深いタブー意識と子どもを信じない大人たちの存在

「こども選挙」を進めるにあたり池田さんらは、多くの場面で苦渋しました。それは子どもが原因ではなく、一部の大人たちによる「選挙や政治に対するタブー意識」や「子どもの力を軽視するような偏見」です。

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