「男性更年期」元気のないパパは要注意! 40代から訪れる「症状」への対策を専門医が解説

パパママの更年期#3 ~パパの更年期・基礎知識編~

泌尿器科医:今井 伸

まだまだ社会的認知が低い男性更年期障害。約9割の男性が、症状を感じながらも病院を受診せずにいるといいます。  写真:アフロ
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株式会社メディリードが2023年に実施した【男性更年期障害の実態調査】によると、男性更年期障害について「名前と治療法・症状までを認知している」と回答した男性は25%。

その一方で、「全く知らない」と回答した男性は30.7%に上りました。また、なんらか症状のある人の中で病院を受診したのは、わずか10.7%と低いこともわかりました。

「男性更年期は、2000年代前半からときどきブームになるんですよね。テレビの特集などで取り上げられると一時期ワッと患者さんが増えるんですが、まだまだマイナーです」と話すのは、男性更年期を専門とする、泌尿器科医の今井伸先生。

中高年の男性を翻弄する男性更年期。身体の中で起こっている変化のメカニズムや症状、治療法や立ち向かい方などはどんなものなのだろうか。

ママ編から引き続き、更年期トータルケアインストラクターの永田京子さんと、聖隷浜松病院のリプロダクションセンター長兼総合性治療科部長で、泌尿器科医の今井伸先生にお話を伺いました。

※3回目/全4回(#1#2を読む)

●PROFILE 今井伸(いまい・しん)
1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。近著に「射精道」(光文社新書)など。

●PROFILE 永田京子(ながた・きょうこ)
更年期トータルケアインストラクター。更年期を迎える女性の健康サポートを目的とした団体「ちぇぶら」を設立。1000名を超える女性たちの調査協力を経て“更年期対策メソッド”を研究・開発・普及に務める。国内外で講演を行い、述べ5万人が受講している。

ある日突然不調が襲いかかることも

加齢とともに女性ホルモンが低下していく女性の更年期に対して、男性の更年期の様子は全く異なります。

「女性の更年期は閉経前後に起こるものですが、男性更年期はそうではないんです。男性更年期は、男性ホルモンである“テストステロン”が急激に下がることが原因だと言われています」(今井先生)

このテストステロンの低下は一般的に中年以降に起こりますが、「年齢関係なく、急降下することがある」と、今井先生。低下の度合いや速度には個人差があり、どの年代でも起こりうる可能性があるのです。

ホルモン低下によって引き起こされる更年期障害は、男女問わず訪れるもの。しかし、時期や期間、メカニズムは全く異なる。  作成:講談社コクリコ、参照:一般社団法人日本内分泌学会HP

では、テストステロンはどんなときに急降下するのでしょうか。

「生活習慣の乱れや、慢性的なストレスなどが引き金になるケースもある」と話すのは、更年期トータルケアインストラクターの永田京子さん。実際に男性更年期障害で苦しんだ経験のある男性のエピソードをこう話します。

「とある40代の男性は、ある日の通勤中、急に症状が現れたと言います。会社に向かう電車の中で、3人隣の人にまで自分の心臓の音が聞こえるんじゃないか、というくらいにバクバクと動悸が止まらなくなった。何か大きな病気で、このまま死んでしまうのではないかと不安になり、パニックに陥ってしまったそうです」(永田さん)

それからしばらく原因がつかめず、不意に訪れる不調に怯える日々を過ごした男性。それまで順調にこなしていた仕事にも消極的になり、精神に不安をきたすように。

「男性がかかっていた内科の先生が、男性更年期に詳しく『この症状はもしや……』と、泌尿器科に回してもらったそうです。そこで初めて、男性更年期障害との診断を受けた。不調の原因が分かったことで、スッキリして心が救われたと聞きました」(永田さん)

しかし、「何か不調が現れたときに、まず初めに男性更年期障害を思い浮かべる人は多くはない」と永田さん。

「認知は少しずつ進んでいる一方で、『全く知らなかった』『思いもよらなかった』という人がまだまだ多いのも現実ですね。女性の更年期と比べると、まだまだ知られていないように感じています」(永田さん)

男性更年期障害の指標となるテストステロン値

男性更年期の症状はどんなものなのでしょう。一般的な男性更年期の症状は、大きく分けて3つあります。

「まずは関節や筋肉の痛み、発汗や頻尿、肥満などの身体的な症状。次に、イライラや不安、パニック、うつや不眠、集中力や記憶力低下などの精神症状。そして男性特有なのが、EDや性欲低下などの性機能症状です」(今井先生)

男性更年期障害では、身体・精神・性機能と大きく分けて3つの症状が引き起こされる。  作成:講談社コクリコ、資料提供:今井伸先生

男性更年期かどうか判断する指標として、身体・精神・性機能などの17の症状を問うAMSスコア(Aging Male’s Symptoms score)というセルフチェックの問診があります。

このAMSスコアの結果が27点以上(27~36点:軽度、37~49点:中程度、50点以上:重度)であること、そして、採血して調べた「遊離型テストステロン値」が8.5pg/ml以下であれば、男性更年期障害と診断されます。

「ただ、テストステロン値はあくまで目安。その男性が元気なときのテストステロン値がわからないので、低下の程度が正確には測れないんです。急激に下がるというギャップが不調の原因なので、若いときからテストステロンが低値の人だと、更年期障害であるとは言いきれない場合もあります」(今井先生)

複雑に絡み合う男性更年期と疾患

女性の更年期障害は、症状が似ている甲状腺や子宮系の疾患と間違うことがある(#2)という話がありましたが、「男性更年期では、その可能性は低い」と今井先生。

「なぜなら、先にいろいろな疾患を疑って調べても異常がなくて、原因がわからなかった結果、ようやく“もしかして、男性更年期では?”と可能性が浮上してくることが多いからです。いろいろな標榜科(ひょうぼうか)を回っても出なかった答えが、泌尿器科に来たことで判明するのです」(今井先生)

「更年期だと思ったら◯◯(重大な疾患)だった」ということは少なく、「◯◯(疾患)だと思ったら、更年期だった」というケースが多いと、今井先生は言います。

一方で、メンタル的な不調をもたらす男性更年期は、しばしばうつ病と混同されることがあります。

「男性更年期障害でも、精神的症状が強く出ている場合は、うつ病と診断されていることも多いです。ただ、その精神症状が男性更年期によるものかうつ病によるものか、ハッキリどちらかひとつに診断するのは難しい。更年期による精神症状と、うつ病などの精神疾患による精神症状はオーバーラップしていることも少なくないんです」(今井先生)

精神科で薬をもらって飲んでいたけれど症状が改善せず、泌尿器科にかかってテストステロンを測ったら低下しており、男性更年期障害と診断された男性も。

そのうつ症状は、男性更年期の症状によるものだけではないために、「男性ホルモンを投与しながら、処方されているうつ病の薬を調整し、治療する」なんてケースもあります。

「男性更年期はストレスや生活習慣の乱れから引き起こされることもあれば、病気によって起こることもあります。心身の不調が長引く場合は、男性ホルモンの低下を疑ってみてもいいかもしれません」(永田さん)

─・─・─・─・

次回は、深刻な男性更年期症状の治療法について。引き続き、男性更年期専門の泌尿器科医・今井伸先生と、更年期トータルケアインストラクターの永田京子さんへお話を伺います。


取材・文/遠藤るりこ

【参考】男性更年期障害の実態調査/株式会社メディリード

●関連サイト
ちぇぶらホームページ
・YouTube「ちぇぶらチャンネル」
・Instagram nagatakyoko_jp
・X(旧Twitter) @nagatakyoko
・LINE ちぇぶら

※「パパママの更年期」は全4回(公開日までリンク無効)
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いまい しん

今井 伸

Shin Imai
泌尿器科医

1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。

1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。

ながた きょうこ

永田 京子

Kyoko Nagata
更年期トータルケアインストラクター

更年期トータルケアインストラクター。株式会社ウェルネスシアター代表取締役。演劇活動後、ピラティスや整体・経絡、リフレクソロジーなどを学び、出産後の母子のサポートを8年行う。その活動の中で、40代の女性たちの声や、自身の母が更年期障害でうつになった経験から、更年期を迎える女性の健康サポートを目的とした「ちぇぶら」を設立。 医師のもと女性の健康や更年期を学び、1000名を超える女性たちの調査協力を経て“更年期対策メソッド”を研究・開発・普及。全国の企業や医療機関、自治体、海外などで講演を行い、国内外で述べ5万人が受講している。 2018年はカナダ・バンクーバーで開催された国際更年期学会で日本での取り組みを発表。現在は「生きがい」研究にも力を入れている。「ちぇぶら」は更年期を英語でいう“the change of life”の意。

更年期トータルケアインストラクター。株式会社ウェルネスシアター代表取締役。演劇活動後、ピラティスや整体・経絡、リフレクソロジーなどを学び、出産後の母子のサポートを8年行う。その活動の中で、40代の女性たちの声や、自身の母が更年期障害でうつになった経験から、更年期を迎える女性の健康サポートを目的とした「ちぇぶら」を設立。 医師のもと女性の健康や更年期を学び、1000名を超える女性たちの調査協力を経て“更年期対策メソッド”を研究・開発・普及。全国の企業や医療機関、自治体、海外などで講演を行い、国内外で述べ5万人が受講している。 2018年はカナダ・バンクーバーで開催された国際更年期学会で日本での取り組みを発表。現在は「生きがい」研究にも力を入れている。「ちぇぶら」は更年期を英語でいう“the change of life”の意。

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe