子どもの「抜毛症」 生活に支障をきたすまで自分の髪の毛や体毛を抜くことがやめられない! 症状と原因を〔児童精神科医が解説〕

「抜毛症」 #1 ~原因と症状編~

児童精神科医:宇佐美 政英

ストレスの背景に知的障害や発達障害が関係していることも

宇佐美先生:しかし、ストレスの背景は考えていかなくてはなりません。なぜならば、知的障害や発達障害など別の問題が関係していることもあるからです。

そこへの対処がされないと、ストレス要因は取り除かれないままで、一時的に抜毛行為が落ち着いたとしても、またストレスを受けたときに、毛を抜いてしまったり、別の影響が出る可能性があります。

ストレスの要因に、環境と本人の特性や個性がどのくらい関わっているのかは、慎重に見ていく必要があります。

また、今まで見過ごされてきたけど、じつは本人は困っていたことが、抜毛症の診察を機に明らかになることもあります。その場合は、抜毛症の治療と並行して、ほかの問題に対するアプローチも少しずつ行っていきます。

「なぜ抜くか」ではなく「どう治すか」を考える

──我が子が抜毛症かもしれないと思ったとき、原因に考えをめぐらせ、自身を責めてしまう保護者の方も多いと思います。

宇佐美先生:保護者の方のお気持ちもわかりますが、原因にとらわれないことが大事です。先ほども述べたように、子どもたちにも『なぜ毛を抜くのか』がわからないからです。

そもそも、多くの子どもは自分が受けているストレスに気づいていません。本人にもわからないことを聞かれ続けたら、子どもたちも困ってしまいます。

抜毛症は、あまり広く知られておらず、見聞きする機会もそう多くないと思います。我が子が抜毛症と診断されても、親御さんにとっては答えの見えない暗いトンネルの中にいるようなものでしょう。ただ、『なぜトンネルに入ったか』ばかりを考えていてもうまくいきません。

それよりも、『どうやって抜毛から脱出するか』を一緒に考える方が、お子さんにとっても前向きにとらえられると思います。

───◆───◆───

子どもが毛を抜いていると、思わず注意してしまったり、なんとか止めさせようとするかもしれません。

「わざと抜いているのではないこと」を心に留めておき、一緒に向き合う姿勢が大切だと教えてもらいました。

次回2回目は、抜毛症が与える影響について解説してもらいます。

取材・文/畑菜穂子

抜毛症の記事は全2回。

※2回目は公開時からリンク有効

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うさみ まさひで

宇佐美 政英

Masahide Usami
こどものこころ専門医

国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長、心理指導室長。 山梨医科大学卒。専門は児童思春期精神医学。 子どものこころ専門医・指導医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本児童青年精神医学会認定医・代議員、精神保健指定医、臨床研究指導医、厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー。日本思春期青年期精神医学会会員、日本うつ病学会会員。日本ADHD学会理事。

国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長、心理指導室長。 山梨医科大学卒。専門は児童思春期精神医学。 子どものこころ専門医・指導医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本児童青年精神医学会認定医・代議員、精神保健指定医、臨床研究指導医、厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー。日本思春期青年期精神医学会会員、日本うつ病学会会員。日本ADHD学会理事。

はた なおこ

畑 菜穂子

ライター

1979年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーに。主にWEBメディアで活動中。子育て、性教育、グルメ、企業の採用案件などの取材・執筆を行う。多摩地域で、小学生の娘(2012年生まれ)、夫と暮らす。 Twitter @haricona

1979年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーに。主にWEBメディアで活動中。子育て、性教育、グルメ、企業の採用案件などの取材・執筆を行う。多摩地域で、小学生の娘(2012年生まれ)、夫と暮らす。 Twitter @haricona