【子どもの歯列矯正】わかりやすい専門医解説 「ワイヤー」か「マウスピース」か 親だからわかる本当に重要なポイントとは
歯列矯正専門医に聞く「子どもの歯並びと歯列矯正」#2 治療装置の選択
2024.03.08
はやし矯正・歯列育成クリニック院長:林 亮助
近年、需要が拡大している小児歯科。なかでも子どもの歯列矯正への注目度は年々上がっています。
第1回に引き続き、長年、歯列矯正を専門として多くの子どもたちの歯を見守ってきた「はやし矯正・歯列育成クリニック」の林亮助先生に、子どもの歯を守るためのヒントと子どもの歯列矯正について伺います。第2回は、歯列矯正の具体的な治療方法について。
※2回目/全3回(#1を読む)
●林亮助PROFILE
はやし矯正・歯列育成クリニック院長。歯学博士・日本大学兼任講師・日本矯正歯科学会認定医。20年以上、矯正歯科を専門に研究と臨床を行う。2022年、小児矯正から成人矯正までを扱う矯正歯科専門の「はやし矯正・歯列育成クリニック」(東京都世田谷区)を開院。
子どもの歯列矯正で使う装置
一般的に歯列矯正というと歯に長期間、ブラケットと呼ばれるワイヤー(針金)をつけるイメージがありますが、最近ではマウスピース矯正もよく知られています。実際、子どもの歯列矯正にはどのような装置が適しているのでしょうか。
「いわゆるベーシックなのはワイヤー(針金型)の装置です。歯の表につける場合と裏側につける場合があります。また、最近、問い合わせが多いのはマウスピースです。樹脂などでつくったものを一日の中で決めた時間数、口の中に入れて矯正していくものです。
費用はうちのクリニックの場合、子どもはどちらも同料金ですが、大人はマウスピースのほうがやや割高です。期間は症状による面も大きく一概に言えませんが、マウスピースのほうがやや早く終えられるケースもあります」
装置は患者側が好みで選べるのかも、気になるところです。
「どの装置を使用するかは、基本的には患者さんと歯科医師で相談しますが、その子の症状によってワイヤーがいちばん効果的だったり、マウスピースが最適だったりということもあるので、最初から希望の装置を決めてしまうのはおすすめできません。
それぞれの装置には、できること、できないことがあるので、やはりその子に合っているものは何かをまず考えるべきだと思います」
マウスピース矯正のメリット・デメリット
一般的なワイヤーは痛みを伴ったり、食事がしづらくなったり、審美的に苦手意識が高い場合も多く、針金よりはやわらかそうな樹脂のマウスピースで矯正ができるならと「そのほうがラク!?」と考えてしまいがちですが…。
「マウスピース矯正は私もとても力を入れて研究しています。マウスピースの良いところは、例えば奥の歯の位置のずれを直しながら前歯を治すといったことを同時にできることなどがあります。
ワイヤーでは、奥歯を治すのに半年、前歯を治すのにさらに半年、合計1年かかったものが、マウスピースでは同時にできるから半年で両方が治せることもありますね」
一方で、デメリットは?
「私は、マウスピース矯正こそ厳密さがより必要だと考えています。マウスピースの型はコンピューターがシミュレーションして作り出すので、途中で想定外のことが起こったときに対応が難しいのです。
コンピューターの想定どおりにはいかないケースのほうが多く、その都度どんな方向で治療していくかの検討が必要になります。それには歯科医師の高い専門性が必要です」
また、林先生曰く、マウスピース矯正は患者本人が、よりがんばる治療になるとのこと。当たり前ではありますが、本人の意思によって簡単に外すこともできるし、決められた時間は装着しなければいけないという強い意志が必要でプレッシャーもかかってくるとのこと。
「特に、子どもの場合は自分で食事の時間をコントロールすることは難しいですよね。学校で給食を食べるときには外して、それを食後に必ずつけ直すかというと、実際はかなり難しいと思います。
また、実は学校では外していてそれを親に隠していても、診察に来ればわかってしまうから、そこで親に怒られて余計に嫌になってしまうこともよくあったりします。
あくまでもその子に合っている装置を見つけていくことが、もっとも重要ですが、子どもの場合は、一番スタンダードなワイヤー装置が適している場合が多いです」
装置を決めるときに大切なこと
治療方法を決定する前に、親が歯科医師に装置の特性を質問することは大切だとも語ります。
「子どもが本当にこの装置を使いながら生活していけるかどうかを、親御さんが想像してみてほしいです。子どもだけではその装置がどんなふうに生活に影響を及ぼしてくるか、その生活が実現可能なのかは想像しきれません。
でも、親御さんには想像できると思うんです。親御さんが我が子の生活や性格を考えて、どの装置ならスムーズに生活できるか、我が子がどれくらいなら我慢できるかなどとじっくり考えてみることはとても大切です。実際、そのほうがうまくいく場合がとても多いです」
不自由さによりストレスも生じる矯正治療。自分の意思で矯正を選ぶことが多い大人は、自らコントロールしながら治療を継続できますが、子どもにとっては難しい点が多いのも事実です。
だからこそ、歯科医師だけでなく、親も一緒に治療中の生活を想像し、その子に合った最適な治療方法を見つけ出すことが重要だといえるでしょう。目先の情報や先入観だけにとらわれないことも大切です。
次回は、日常生活の中でできる、子どもの歯の成長のチェックポイントについて教えていただきます。
取材・文/関口千鶴
※歯列矯正専門医に聞く「子どもの歯並びと歯列矯正」は全3回(公開日までリンク無効)
第1回
第3回
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はやし矯正・歯列育成クリニック
関口 千鶴
大学卒業後、出版社にて編集者として数多くの雑誌・書籍を手掛ける。その後、親子カフェ経営を経て、独学で保育士免許を取得。現在は、幼児教育・子育て支援・絵本などを中心としたフリーランスの編集者・ライターとして活動中。 ●Instagram chise_kanon
大学卒業後、出版社にて編集者として数多くの雑誌・書籍を手掛ける。その後、親子カフェ経営を経て、独学で保育士免許を取得。現在は、幼児教育・子育て支援・絵本などを中心としたフリーランスの編集者・ライターとして活動中。 ●Instagram chise_kanon
林 亮助
はやし矯正・歯列育成クリニック院長。歯学博士・日本大学兼任講師・日本矯正歯科学会認定医/代議員。日本歯科大学卒業後、日本大学松戸歯学部歯科矯正学講座に入局。20年以上にわたり、矯正歯科を専門に研究と臨床を行う。大学病院退職後は、小児歯科専門クリニックに従事し、2022年、東京都世田谷区にはやし矯正・歯列育成クリニックを開院する。 共著に『子育ての基本 お口を育てよう!わが子に贈る最高のギフト』(現代書林)などがある。 ●関連サイト はやし矯正・歯列育成クリニック
はやし矯正・歯列育成クリニック院長。歯学博士・日本大学兼任講師・日本矯正歯科学会認定医/代議員。日本歯科大学卒業後、日本大学松戸歯学部歯科矯正学講座に入局。20年以上にわたり、矯正歯科を専門に研究と臨床を行う。大学病院退職後は、小児歯科専門クリニックに従事し、2022年、東京都世田谷区にはやし矯正・歯列育成クリニックを開院する。 共著に『子育ての基本 お口を育てよう!わが子に贈る最高のギフト』(現代書林)などがある。 ●関連サイト はやし矯正・歯列育成クリニック