あざの治療で悩みが解消…子ども〜高齢者まで 「母斑」治療の最前線を専門医が解説

レーザー専門医・矢加部文先生が解説【後編】あざ治療の進歩で変わる人生

日本形成外科学会専門医、日本レーザー医学会専門医:矢加部 文

今まであきらめるしかなかった「あざ(母斑)」の治療もより身近に。あざ治療の進歩について専門医に聞く(写真:アフロ)
すべての画像を見る(全6枚)

一般的に「あざ」というと、打ち身などでできる出血斑を思い浮かべる人も多いでしょう。一方、生まれつきや成長と共にあらわれるあざを「母斑」といいます。自然に治癒する出血斑とちがい、母斑は自然にきえることはありません。

以前は手術を受けるしかなかったあざ(母斑)の治療。しかし、あざ治療の進歩は目覚ましく、レーザー機器の精度や安全性の向上によって赤ちゃんからシニア世代まで治療が可能になっています。今まであきらめるしかなかったあざの治療がより身近なものになり、多くの患者さんがその効果を実感しています。

赤ちゃんから高齢者まで幅広い年齢層が悩むあざについて聞く連載は前後編。前編では、あざ治療のスペシャリストである、レーザー専門医・矢加部文先生に、あざにまつわる疑問にお答えいただきました。

後編となる今回は、「あざ治療の進化と治療の効果」について、前編に続き、矢加部文先生にお答えいただきます。

▲矢加部文先生

【矢加部文(やかべ・あや)】日本形成外科学会専門医、日本レーザー医学会専門医・指導医。長崎大学医学部卒業後、長崎大学形成外科入局。長崎大学病院・長崎医療センター・福岡徳洲会病院で形成外科勤務を経て、福岡大学形成外科 レーザー外来・美容医療を担当。2016年に「形成外科・美容皮膚科 みやびクリニック」を開院。赤ちゃんからシニア世代まで1万人以上のあざ治療に関わる。

あざの専門治療 その魅力と難しさとは

──先生があざの専門治療を始められたきっかけを教えてください。

矢加部先生:
あざは所詮見た目の問題と片付けられがちですが、外見に関わるがゆえに患者さん自身、そして家族が深刻に思い悩む原因となる大きな問題だと思います。

「あざがあることで人目を気にしてしまい、自信が持てず引きこもっている」と、本人や親御さんが涙ぐんで相談に来られることも多かったのです。

そんな患者さんも、治療を進めていくうちにあざが目立ちにくくなり、笑顔が増えていくように。それが嬉しくて、難しい分野だけれど究めていきたいと強く思うようになりました。

──レーザー治療が難しい理由はどのようなところでしょうか?

矢加部先生:
あざ治療を専門で行っている医師が少ないため、教えてもらう機会が少ないことがひとつ。もうひとつが、治療結果がすぐには出ないところですね。

手術の場合だと、病巣を切って縫ったり、皮膚移植したりすれば、結果はすぐわかります。しかし、レーザー治療の場合、レーザーを1回当てて色素を壊して3ヵ月経たないと結果がわからない。赤あざの場合だと、血管が増えてくることがあるので、定期的なレーザー治療が必要になるケースもあります。

あざの状態だけでなく、お母さん・お父さんの心のケアもかなりナイーブで難しいところです。

「治療が受けやすく効果も高いあざ治療」へ

──あざの専門治療が受けられる「みやびクリニック」を開業されたのはどんな背景があったのでしょうか?

矢加部先生:
私が大学病院でレーザー外来の担当をしたとき、毎週新しい患者さんが受診に来られ、あざ治療の必要性を強く感じました。

とくに幼い子どもの患者さんが多かったのですが、レーザー外来は週に1回。しかも午前中のみでしたので、3~4時間待ちが当たり前の状態でした。子ども本人はもちろんお母さん・お父さんにもとっても大きなストレスになっていたでしょう。

多くの患者さんを限られた時間で診るため、患者さんやその家族と向き合う時間も不十分でした。そんな状況に悩んでいたときに、福岡県春日市で開業する話を受け、あざ治療をメインとした完全予約制のクリニックを開業しました。


──院内はかわいらしい壁紙や白、淡いピンクを基調としていて、温かい雰囲気ですね。

▲待合・受付(「みやびクリニック」ウェブサイトより)
▲診察室(「みやびクリニック」ウェブサイトより)

矢加部先生:施設内には子どもが安心できるような壁紙の部屋を用意し、ぬいぐるみやおもちゃも置いています。

保育士も勤務していますので、お母さん・お父さんが受診される場合や、きょうだいの預け先がない場合にも安心して受診してもらえます。

長年の夢がかなった患者…あざ治療の普及による変化

──あざのレーザー治療が普及する前はどのような治療法だったのでしょうか?

矢加部先生:
レーザー機器の発展によって、あざ治療が一般化したのが2010年代です。それより以前、20年前のあざ治療と言えば、病変を切り取って皮膚移植を行っていました。

あざのない部分から皮膚をとってきて移植するのですが、あざはなくなっても皮膚の色など違いが出ることに。レーザー治療が始まってからも、大学病院でしか治療が受けられず、全身麻酔も必要なため、断念する人も少なくありませんでした。そのため、40代以上の方はあざ治療の機会がほぼなかったのです。

それがレーザー治療の安全性が向上したことで、当院のようなクリニックであざ治療を受けられるようになり、長年あざに悩んできた人も治療が受けやすい環境になりました。

──レーザー治療が普及したことで、患者さんにどのような変化があったのでしょうか?

矢加部先生:
60~70代で顔に広範囲の赤あざや太田母斑(おおたぼはん:顔の青あざ)のある方ですと、ずっとコンシーラーで隠す人生を送られてきたという方も少なくありません。ご家族のすすめでレーザー治療を受けたことで、あざが目立ちにくくなって隠す必要がなくなった方や、友人と温泉旅行に行けるようになった方もいます。

家族や友人から「こんな短期間(おおよその方が3ヵ月ペース、5回程度)で目立ちにくくなって本当に良かった」と喜んでくれたという話も聞きました。

本当に医学の発展は素晴らしいことです。

自分や家族の「あざ」の悩み 医療機関に相談を

前後編にわたり、子どもや大人のあざについて、矢加部先生にうかがってきました。

レーザー治療の進歩によって、以前よりも安全かつ治療効果の高いあざ治療が可能になっています。今まで治療を受けられなかった方も、レーザー治療によってあざが薄くなることが期待できます。

「あざを治療すべきか、様子を見ていいのか、悩まれたり不安になったりすることがあれば、ぜひ医師に相談してください。そのために私たちがいます」と矢加部先生。

自分自身や家族のあざに悩んだら、一度、医療機関に相談してみましょう。

きっと、前に進むための材料を手に入れられるはずです。

【赤ちゃんから高齢者まで幅広い年齢層が悩む「あざ(母斑)」について聞く連載は前後編。あざ治療のスペシャリストである、レーザー専門医・矢加部文先生に、あざにまつわる疑問にお答えいただいた前編に続き、後編では「あざ治療の今」についてうかがいました】

取材・文/広田沙織(メディペン)

こどもの「あざ」への不安がなくなる本(著:矢加部 文)
この記事の画像をもっと見る(全6枚)
やかべ あや

矢加部 文

Aya Yakabe
日本形成外科学会専門医、日本レーザー医学会専門医

日本形成外科学会専門医、日本レーザー医学会専門医・指導医。長崎大学医学部卒業後、長崎大学形成外科入局。長崎大学病院・長崎医療センター・福岡徳洲会病院で形成外科勤務を経て、福岡大学形成外科 レーザー外来・美容医療を担当。2016年に「形成外科・美容皮膚科 みやびクリニック」を開院。赤ちゃんからシニア世代まで1万人以上のあざ治療に関わる。

日本形成外科学会専門医、日本レーザー医学会専門医・指導医。長崎大学医学部卒業後、長崎大学形成外科入局。長崎大学病院・長崎医療センター・福岡徳洲会病院で形成外科勤務を経て、福岡大学形成外科 レーザー外来・美容医療を担当。2016年に「形成外科・美容皮膚科 みやびクリニック」を開院。赤ちゃんからシニア世代まで1万人以上のあざ治療に関わる。

メディペン

medipen
医療ライターズ事務所

医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen

医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen