子どもが車と接触事故…まずやるべきことは?〔子どもの法律相談〕

こんな時どうすればいい? 子どもに関わる法律相談〔第1回〕

弁護士:西田 穣

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公園で遊んでいた子どもが転がったボールを追いかけて道路に飛び出したり、手をつないで横断歩道を渡っていた子どもがとっさに手を振り払って走り出したりしてドキッとしたことはないでしょうか。子どもは動きが激しく、ちょっと目を離したすきに思いがけない事故が起こりがち。今回は、子どもが交通事故にあった場合、どうすればいいのかを、自身も1児の父である西田穣(にしだみのる)弁護士に伺いました。

後々のトラブルを避けるため小さい事故でも警察に連絡を!

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子どもは好奇心が旺盛で、ちょっとしたことに注意を引き付けられて衝動的に動き出してしまいます。その一方で危険を予想する能力は低く、車が迫っていることに気が付かない場合も珍しくありません。

子どもが交通事故にあった時にまず覚えておきたいのが、どんなに小さな事故でも警察に連絡を入れるということです。たいしたケガではなかったからと、お互い謝ってそのまま帰ってきてしまうケースは意外と多いのですが、子どもが泣いていないからといってケガが軽いとは限りません。事故にびっくりしているだけかもしれないし、親に怒られたくないという思いから痛みをがまんしているのかもしれません。

もし通報せずに帰ってきてしまった場合、後で痛みが出たり万が一障害が残ってしまったりしても、本来受けられるべき賠償が受けられないことがあります。なぜなら、加害者との示談交渉の根拠となるのは、警察の調査をもとに作成された「交通事故証明書」だからです。これがなければ、そもそも事故があったかどうかを証明するところから始めなければならず、実際問題としてそれはとても困難です。また、もし裁判を起こすことになった際、警察が作成した実況見分調書などは重要な証拠になります。

警察への通報は、相手のためでもあります。車のドライバーには、事故を起こした際に警察への報告義務と被害者の救護義務があります。それが守られなかったということが発覚すれば、後々相手にペナルティが課される可能性もあるのです。「事故を起こしたことがばれたら仕事をクビになる」と懇願されたり、「実費で治療費を払うから」と説得されたりしても、応じてはいけません。

早めに病院へ行くことも大切。できれば総合病院へ

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ケガの程度がひどく一刻も早く治療が必要なら、警察よりも先に119番に電話をして救急車を呼びます。消防から警察へは連絡が行くようになっていますが、車の運転手と手分けしてそれぞれが消防と警察に電話ができればベストでしょう。

救急車を呼ぶほどのケガではなく、例えば転んでしまった子どもがすぐに起き上がったような場合でも、念のためその日のうちに病院へ行っておくことが大切です。交通事故の場合、時間が経ってから症状がでてくることもめずらしくありません。また、外からはわからないダメージを受けている場合もあります。病院では交通事故に遭ったことや事故の状況などを伝えて、必要であればレントゲン等の検査をしてもらいましょう。

診察の際には医師にきちんと「交通事故によりケガを負った」ということを伝えてください。これが曖昧だと後々痛みが出てきても「交通事故の後に自分で転んでケガをしたのでは?」などと言われて、治療費などを支払ってもらえないおそれもあります。

ただし、子どもは自分の体の状態を上手に説明することが苦手です。特に医師の前では緊張してしまい、とにかく早く帰りたいという思いから「大丈夫。どこも痛くない」などと言ってしまいがちです。病院に行く前にはなるべく子どもが安心できる環境で、ぶつけたところや痛いところを確認しておき、医師が適切に診断できるよう準備しておくといいでしょう。

ちなみに、病院は何科を受診すればいいか迷うケースもあると思いますが、手足の打ち身や打撲、また念のための受診なら、整形外科に行くのが基本です。できれば総合病院など大きめの病院を選ぶと、検査でケガ以外のダメージがみつかった場合に適切な診療科に早くつないでもらいやすくなります。頭や胸、お腹を打っていたり、気分が悪そうだったり、立ち上がったものの歩き方がふらふらしているような場合には、早急に2次救急以上の病院を受診しましょう。

後々の交渉のため事故の相手との連絡先交換も忘れずに

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交通事故によって生じたケガの場合、治療費や病院までの交通費などは事故の相手に払ってもらうことになりますが、その請求の手続きのためにも、お互いに連絡先を交換しておくほうがよいでしょう。警察を呼んでいれば後から交通事故証明書で連絡先を知ることはできますが、後々のスムーズなやりとりのためにも、名前と電話番号はその場でしっかり確認しておくことをおすすめします。可能であれば免許書を写真に撮らせてもらうのが確実ですが、ナンバープレートを写真で撮っておくのも有効です。

もし事故の相手ともめそうであれば、近くにいて事故を目撃者した人に証言をしてもらうことがあるかもしれません。協力してくれそうな人がいれば連絡先を教えてもらっておくと良いでしょう。

大切なお子さんがもし交通事故にあってしまったら、たとえ程度が軽かったとしてもパニックになってしまうもの。この記事の細かいことは思い出せないかもしれませんが、
「警察に連絡を入れる」
「病院に行っておく」
「相手と連絡先を交換する」

の3つだけは、必ず覚えておいてくださいね。
(取材・文/永坂佳子)

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にしだみのる

西田 穣

Minoru Nishida
弁護士

慶應義塾大学文学部(史学科)卒業。西武鉄道株主訴訟弁護団(2004年~2016年)、日本弁護士連合会取調べの可視化本部事務局次長(2008年~2016年)、自由法曹団本部 事務局長(2015年10月~2018年5月)、関東弁護士連合会 常務理事(2020年4月~2021年3月)、東京弁護士会期成会 事務局長(2021年4月~)など。専門分野は交通事故その他民事一般、離婚等家事事件一般、刑事事件(裁判員裁判を含む)、遺産分割、遺言等相続全般、借地借家を含む不動産取引全般など。趣味はマラソン、トレーニング。    東京東部法律事務所 https://www.tobu-law.com/

慶應義塾大学文学部(史学科)卒業。西武鉄道株主訴訟弁護団(2004年~2016年)、日本弁護士連合会取調べの可視化本部事務局次長(2008年~2016年)、自由法曹団本部 事務局長(2015年10月~2018年5月)、関東弁護士連合会 常務理事(2020年4月~2021年3月)、東京弁護士会期成会 事務局長(2021年4月~)など。専門分野は交通事故その他民事一般、離婚等家事事件一般、刑事事件(裁判員裁判を含む)、遺産分割、遺言等相続全般、借地借家を含む不動産取引全般など。趣味はマラソン、トレーニング。    東京東部法律事務所 https://www.tobu-law.com/