【こども基本法・お悩み相談】法律が「子どもをわがままにする」って本当?​

教育学者・末冨芳先生の「こども基本法お悩み相談」~子を守り、親を救う答えとは?~#1「こども基本法でわがままになる?」

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳

子どもの幸せのために重要な「自己決定」

■子育て中の保護者の方へ
みなさんは、わが子に幸せな人生を生きてほしいですか? 不幸な人生を生きてほしいですか?

わが子には幸せな人生を歩んでほしいと願うのが、親としてごく自然な感情ですよね。

ところで、大人になったときに、どんな人生だったら、自分の人生が幸せだったと思えるのでしょうか。

所得や学歴より、自分自身の人生を「自己決定」してきたかどうか、が影響するというデータがあります。日本人2万人を対象とした調査からの分析(※1)です。自分の意思で進学や就職を決めてこられた人ほど、幸福度が高いのだそうです。

子ども自身が自分の意思にもとづいて人生を「自己決定」する、これは、子どもが一人の人間として権利を認められた状態でもあります。

私はわが子の子育てでも、子どもの権利を重視しています。それは、親が子どもの自由や意思を尊重して育てることができれば、子ども自身が自分で幸せに生きる力を育むことができるからです。

・自分自身のことが好き

・自分のしたいこと、好きな食べ物や人、苦手なことや人が自分でわかっている

・自分にとって嫌なことや、つらいことがあったとき誰かに相談できる


大人になっても大切なこのような力は、子ども自身が自分のことを「自己決定」することで、成長します。だからこそ、親が子どもの権利を理解し、尊重することが大切なのです。

もしも、親が、子ども自身の権利を尊重せず、親の顔色をうかがっていたり、親の言うとおりにさせている人生なら、子どもからは「自己決定」をはじめとする、さまざまな権利が奪われていることになります。

それは、子どもが自分自身の人生を幸せに生きていく力を奪うことでもあるのです。

親は気を付けているつもりでも、実は、子どもの権利を尊重できておらず、「自己決定」を奪っていることもあるかもしれません。

ランドセル選びで自己決定を奪っていない?

今年(2023年)の2月1日に公開されたセイバンの「ランドセル選び」の動画(※2)がSNS等で話題になりました。

子どもたちのランドセル選びを、モニター越しに見守るママとパパ。親御さんが「こんなのを選ぶんじゃないかな」と予想したとおりのランドセルを、次々に手に取る子どもたち。

喜ぶ保護者に渡されたのは、こんなカードでした。

「選んでもらったのは、自分が使いたいランドセルではありません」
「保護者の方が選んでほしそうだと思うランドセルを、選んでもらいました」

そして、次に子どもたちは、「本当に自分が使いたいランドセル」を選ぶのです。その笑顔は、さきほどとはまったく違って、明るく輝いていました。

「ピンクが好き」だとお母さんは思っていたけれど、「青にした!」とにっこりする女の子。「ピンクのやつが好き」とまっすぐ指差す男の子。

そう、子どもの「自己決定」は、親の予想とは違ったのです。

子どもたちは、親の様子をつねによく見ています。親が喜ぶことも、子どもたちにとっては幸せなことだからです。

でもそのことは、知らず知らずのうちに、子どもの意見表明権を封じ、子ども自身の「自己決定」を奪っていることにもつながってしまうのです。

「子どもが権利を知るとわがままになる」、「子どもに権利なんて生意気だ」、このように明確に子どもの権利を否定する人は、子どもから幸せを奪う名人だと言っても良いでしょう。

しかし、そこまであからさまでなくても「親心」や「親の好み」が、知らず知らずの間に子どもの自己決定を奪ってしまうこともあるのです。

「ランドセルが汚れると嫌だから薄い色はやめたほうがいいよね」「女の子だからならいごとはスポーツじゃなくてダンスとか音楽がいいよね」

ママやパパたちのこうした会話を、子どもたちは、親の思う以上に気に留めているのです。親の好みや顔色を読ませてしまうタイプの子育ても、「自己決定」を奪いやすく、子どもの権利の実現にはつながらないのです。

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