子どもとアレルギー 「免疫機能」は牧場やペットでアップするの? 専門医がわかりやすく「予防効果」を解説 

子どものアレルギー予防を考える #1 動物との触れ合いでアレルギーの予防ができる?

小児科専門医・アレルギー専門医:岡本 光宏

子どもがちいさいころから動物にふれるとアレルギー予防になるのでしょうか?  写真:Hakase/イメージマート
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清潔な環境で過ごしていると、アレルギー疾患のリスクが高まると言われています。そのため、子どもが小さいうちから、さまざまな菌や微生物に触れさせるために、「牧場や動物園に連れていったほうがいい」という声を耳にした親御さんもいるのではないでしょうか。

しかし実際に、動物と触れ合うことで、子どものアレルギー予防に役立つのかを、兵庫県三田市の「おかもと小児科・アレルギー科」の岡本光宏先生にお伺いしました。

(全2回の前編)

岡本光宏(おかもと・みつひろ)
日本小児科学会小児科専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医。
2009年奈良県立医科大学部卒業。同年神戸大学大学院医学研究科小児科学分野に入局。姫路赤十字病院などを経て、2019年より兵庫県立丹波医療センター 小児科医長。
2023年7月、兵庫県三田市で「おかもと小児科・アレルギー科」を開院。新生児から思春期の心の疾患まで幅広く診察している。3児の父として、子育てにも積極的に関わる。

牧場は「住む」以外にアレルギー予防効果はない

──「子どもが小さいうちに、牧場や動物園に行くとアレルギーの予防になる」という話を子育て中に、一度は耳にした親御さんも多いと思います。それは本当なのでしょうか?

岡本光宏先生(以下、岡本先生):「牧場に暮らしている子どもにアレルギーが少ない」という調査結果はありますが、私は「牧場や動物園に行くとアレルギーの予防になる」という話を聞いたことはありません。おそらく、この調査研究に尾ひれがついて、世間に広がったのでしょう。

なぜ牧場に暮らしている子どもにアレルギーが少ないのかというと、牧場は、豚や牛、ニワトリ、馬などの動物が持つ菌や微生物、また土や埃など、たくさんの抗原曝露(こうげんばくろ〔アレルギーの原因となるアレルゲンとの接触〕)がある環境だからです。そして早くからそのような環境で育った子どもは、細菌などにさらされることで免疫機能が鍛えられ、喘息や鼻炎の発症率が低くなる。つまり、幼少期に多様な抗原にさらされる機会があるほど、アレルギーが減ると言われているんですね。

しかし、牧場や動物園にどれくらいの頻度で行けばアレルギー予防に効果があるのかというと、そもそもエビデンス自体がないため定かではありません。

──単純に、牧場や動物園に連れていくだけでは予防になることはなさそうですね。

岡本先生:そうですね。たとえば、花粉やダニのアレルギー症状の根治を目指す治療法として、舌下免疫療法というものがあります。これはアレルギーの原因物質となるアレルゲンを含んだ錠剤を毎日服用し、少しずつ体内に吸収することでアレルギー反応を抑えていく方法なのですが、治療期間は3年~5年ほどかかり、長期間にわたって治療をしていかなければなりません。

そうした免疫療法を鑑みると、牧場や動物園でアレルギー予防を目指すのであれば、ある程度の抗原曝露が必要です。そのため「週1回行っています」「月1回行っています」や、「生後半年で連れていきました」といった程度では、アレルギー予防の効果は期待できないんですね。

また、動物を遠くから眺めるだけでも意味があるとは思えません。厩舎に入り動物に直接触れる。それも短時間ではなく、長い時間、動物と接触する必要があると。そうすると、極端な話、牧場に「住む」以外に効果的な方法がなく、これは現実的とは言えません。結論として、牧場や動物園に行くだけではアレルギー予防にはつながらない、ということです。

子どもと牧場や動物園へ行かれるのであれば、アレルギー予防という観点ではなく、むしろレクリエーションとして、動物との触れ合いから命の大切さを学んだり、自然環境の雄大さを感じたりするほうが子どもにとってメリットは大きいと感じますね。

赤ちゃんは早期からペットと接触したほうがいい

──「牧場で暮らしている子どもはアレルギーが少ない」と認識できましたが、そうするとペットを飼っている家庭の子どものほうが、飼っていない子どもと比べてアレルギーの発症率が少ないということでしょうか。

岡本先生:はい。そうした研究報告はあります。例えば生まれたときから犬や猫などのペットと共に暮らしている子どもは、ペットを飼っていない家庭の子どもよりも、喘息や鼻炎などのアレルギー症状の発症率が低いと言われています。先ほどお話をしたとおり、小さいころからアレルギーの原因となるアレルゲンに接触することによって、免疫機能が発達するためだと考えられています。

──子どもがペットと触れ合うのは、どの時期からが適切ですか。

岡本先生:アレルギー予防の観点から言うと、早期からペットと接触をしたほうが望ましいとされています。ですから、ペットが家庭にいる場合、生まれてすぐの赤ちゃんでもペットとの接触を制限する必要はないというのが私の見解です。理想的には、お子さんが生まれる前からペットを飼われておくといいですよね。ただし、妊娠中に猫を飼う際には、トキソプラズマ感染に注意が必要です。

岡本先生:ただ、ここで誤解してほしくないのは、アレルギー予防のために「ペットと一緒に住んだほうがいい」「一緒に住むべきだ」とおすすめしているわけではありません。なかにはアレルギー症状を発症してしまうこともありますから。

ペットを飼う理由としては「猫が好き」「犬が好き」という気持ちのほうが大切です。また、実際に子どもが動物に触れてみてアレルギー症状が起きないかどうか、確認することも重要です。

──もし子どもがアレルギーを発症した場合、ペットとどのように暮らせばよいでしょうか?

岡本先生:アレルギーを発症した場合は、原因となるペットとの触れ合いはなるべく避けたほうがいいです。ただし、ペットは家族の一員なので、簡単に手放すことはできないですよね。また、以前は屋外で犬を飼うご家庭もありましたが、今の時代はペットを屋外で飼うという選択肢はほとんどないと思うんです。

そこでアレルギー対策としては2つ。1つは環境整備です。例えばクッションやカーペットにはアレルゲンが付着しやすいため使用は避けたほうがいいでしょう。しかし、ペットの足腰の負担を考えると、滑りやすいフローリングよりもカーペットを選択される方も多いはず。そのため、こまめに掃除をしてアレルゲンを取り除いてあげることが大事になります。

そしてもう1つは、抗ヒスタミン薬の使用です。アレルギーによる鼻水やくしゃみにより睡眠の質が下がり、それが子どもの日中の勉強や運動のパフォーマンスに影響を与えることがあります。睡眠の質と子どもの能力は密接に関連していますので、ペットと暮らす上では、ある程度、お薬で症状を軽減してあげたほうがいいと思います。

動物との接触を避けたり遅らせたりする必要はない

──アレルギーの発症後は、アレルゲンを除去することが大事になる一方で、アレルギーを発症する前であれば、子どもは動物の菌や微生物などに触れさせたほうがいいということですね。

岡本先生:そうですね。それは動物だけに限ったことではなく、砂場遊びや泥遊びなど、いろんな菌や微生物に触れさせることで免疫機能の強化につながります。

親が「アレルギーが心配だから……」と思い込んで砂場や泥遊びを避けてしまうのはもったいない。子どもが砂場や泥遊びをして、くしゃみや鼻水が出る、手が荒れてしまうといったアレルギー症状がなければ、積極的に自然と触れ合っほうがアレルギーの予防に繫がると考えています。

──なるほど。アレルギーの発症前であれば、アレルゲンを過度に避ける必要はないということですね。

岡本先生:はい。また同時に「アレルゲンとの接触をあえて遅らせる必要もない」ということです。例えば、きょうだいがいるご家庭で、上の子が「動物園に行きたい」と言った場合、下の子がまだ赤ちゃんであっても、「赤ちゃんがいるから動物園はまだ早い」と動物との触れ合いを遅らせる必要はありません。

だからこそ、私は家族や子どもたちが無理なく楽しめる範囲で、牧場や動物園を訪れて、早くから動物や自然との触れ合いを経験することが一番いいのではないかなと思います。

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今回の岡本先生のお話では、「赤ちゃんを牧場や動物園に連れていくべき」という噂には、具体的なエビデンスはないものの、子どもが早い時期に動物や自然と触れ合うことは、アレルギーの予防に効果がある。そして、「まだ小さいから」や「アレルギーが心配だから」という理由で、子どもたちを動物や自然から遠ざける必要はないことがわかりました。

次回は、アレルギー予防における生活環境について、引き続き岡本先生に解説していただきます。

取材・文/山田優子

子どものアレルギー予防の記事は全2回。
後編を読む。
(※後編は2024年3月5日公開。公開日までリンク無効)

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おかもと みつひろ

岡本 光宏

小児科専門医・アレルギー専門医

おかもと小児科・アレルギー科院長。日本小児科学会小児科専門医、認定小児科指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床研修指導医、日本周産期・新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命処置法インストラクター。 2009年奈良県立医科大学部卒業。同年神戸大学大学院医学研究科小児科学分野に入局。姫路赤十字病院、明石医療センターを経て、2019年より兵庫県立丹波医療センター 小児科医長。 2023年7月、兵庫県三田市で「おかもと小児科・アレルギー科」を開院。新生児から思春期の心の疾患まで幅広く診察している。3児の父として、子育てにも積極的に関わる。 著書に『研修医24人が選ぶ小児科ベストクエスチョン』(中外医学社)、『小児科ファーストタッチ』(じほう)など。 サイト「笑顔が好き」 https://pediatrics.bz/

おかもと小児科・アレルギー科院長。日本小児科学会小児科専門医、認定小児科指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床研修指導医、日本周産期・新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命処置法インストラクター。 2009年奈良県立医科大学部卒業。同年神戸大学大学院医学研究科小児科学分野に入局。姫路赤十字病院、明石医療センターを経て、2019年より兵庫県立丹波医療センター 小児科医長。 2023年7月、兵庫県三田市で「おかもと小児科・アレルギー科」を開院。新生児から思春期の心の疾患まで幅広く診察している。3児の父として、子育てにも積極的に関わる。 著書に『研修医24人が選ぶ小児科ベストクエスチョン』(中外医学社)、『小児科ファーストタッチ』(じほう)など。 サイト「笑顔が好き」 https://pediatrics.bz/

やまだ ゆうこ

山田 優子

Yamada Yuko
ライター

フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。

フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。