【妊婦の感染症】気になる「トーチ(TORCH)症候群」 トキソプラズマ症の症状・予防を専門家が解説 

産婦人科医・竹元葉先生に聞く、「妊婦が気を付けたい感染症・トーチ症候群」 #1 トーチ症候群とトキソプラズマ症の症状・予防について

産婦人科医:竹元 葉

妊婦が特に気を付けたい「TORCH(トーチ)症候群」とは……?  写真:アフロ(※写真はイメージです)

妊娠中に感染すると、赤ちゃんへのリスクが心配されるさまざまな感染症。なかでも注意したいのが「トーチ(TORCH)症候群」です。

「トーチ(TORCH)症候群」とは、妊娠中に初めて感染すると、流産や死産、発達異常など赤ちゃんへのリスクが心配される感染症のこと。

そこで、産婦人科専門医・竹元葉先生に「トーチ(TORCH)症候群」について、症状や予防法をお聞きしました。


(全3回の1回目)

竹元 葉(たけもと・よう)
2009年順天堂大学医学部卒業、2016年世界保健機関インターンシップ、2017年順天堂大学大学院卒業。同年、はぐくみ母子クリニック勤務を経て、2019年女性のみのスタッフで診療する「sowaka women’s health clinic」を開業。医学博士、日本産科婦人科学会産婦人科専門医、女性のヘルスケアアドバイザー、ガスケアプローチ認定アドバイザー、妊産婦食アドバイザー。

胎児や新生児は免疫機能が未熟

──どうして妊娠中はとくに感染症への注意が必要なのでしょうか?

竹元葉先生(以下、竹元先生):大前提として、お腹の中の赤ちゃんや新生児は、大人と比べて免疫機能が極めて未熟だということがあります。

通常、体の中にウイルスなどの異物が侵入すると、体の防御機能である免疫機能が働いて、異物を排除しようとします。そのため、健康な人や大人であれば、病原体が体内に入っても命に関わるような影響は出ないことが多いのです。

これに対して、胎児や新生児は免疫機能が未熟なので、病原体を排除できずに感染状態が続いてしまいます。

その結果、臓器の奇形をはじめとする重篤な影響が出ることがあるのです。そのため妊娠中はそうでないときに比べて、より感染症に注意したほうがいいと言われています。

胎児期の感染で大人になってから影響が出ることも

──妊娠中に感染症になると赤ちゃんにどのような影響があるのですか。

竹元先生:ママから赤ちゃんに感染する母子感染を起こすと、赤ちゃんのときに重篤な影響があるだけではなく、成長してずっと後になってから影響が出てくることがあります。青年期に入ってから難聴になったり、40歳を過ぎてから白血病になったりなど、一生を通して影響が出ることがあるのです。

たとえば、成人T細胞白血病という白血病は、主に母乳から感染することが知られています。乳幼児期にこのウイルスに母乳から感染すると、その後何十年も感染した状態が続き、最終的に40歳以降になってから発症することもあるのです。

妊娠期間は10ヵ月と短いですが、子どもの将来の健康にも影響が及ぶ場合があります。

妊娠中の初感染でリスクが高まる「トーチ(TORCH)症候群」

──妊娠中に感染するととくにリスクが大きい感染症「トーチ(TORCH)症候群」について教えてください。

竹元先生:気をつけなければならない感染症のなかでも、妊娠中に初めて感染すると特に胎児に障がいを引き起こす病気があります。その総称として、病気の頭文字を取ってトーチ(TORCH)症候群と呼んでいます。これらの感染症は、感染してもママ自身の症状は軽いか、無症状だとしても、赤ちゃんに重篤な障がいが出たり、流産を引き起こす恐れもあるので注意が必要です。

トーチ症候群に含まれる感染症は、次のとおりです。

トーチ(TORCH)症候群

・トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)
・その他の感染症(Other infections:梅毒、B型肝炎、水痘、EBウイルス等)
・風しん(Rubella)
・サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus)
・単純性ヘルペス(Herpes simplex virus)

竹元先生:これらの感染症の感染経路は病気によってさまざまですが、感染後の症状に共通項があります。それは、子宮内で胎児が十分に大きくなることができなかったり、胎児の肝臓や脾臓などの臓器が腫れたり、心臓や肺、眼の炎症が起こるなどです。

心臓に炎症が起これば心筋炎などにつながりますし、肺に炎症が起これば肺炎を起こし、眼の炎症では視力に影響が出る網脈絡膜炎(もうみゃくらくまくえん)などにもつながります。また、生まれることができず、流産してしまうこともあるのです。

トキソプラズマ症は猫のフンや加熱が不十分な肉で感染

──では、トーチ症候群の解説をひとつずつお願いしたいのですが、まずはTのトキソプラズマ症から。どのような病気なのでしょうか。

竹元先生:トキソプラズマ症というのは、トキソプラズマ原虫という寄生虫に寄生されることによってかかる感染症です。この寄生虫が、手などを介して口に入ることで発症します。トキソプラズマ原虫は、猫のフンや土の中、加熱が不十分な肉などにいると言われています。

人種的に見ると、ヨーロッパに住む人はトキソプラズマ症の抗体保有率が高く、フランス人などは40%以上の人が抗体を持っているとされています。これに対して、日本人は保有率が低く、5~15%程度。つまり10人に1人程度しか抗体を持っていません。ほとんどの人は、抗体を持っていないと考えたほうがいいでしょう。そのため、妊娠中にヨーロッパ旅行に行って、現地で肉を食べるのは、ややリスクが高いと言えるでしょう。

──発症するとどうなるのでしょうか。

竹元先生:妊娠14週くらいまでに母体が初感染すると、胎児に重篤な影響が出ることがあります。具体的には、流産・死産、脳の中の石灰化や水頭症、生まれた後に知的障がいや、神経障害が出たりなど。また、眼球の奥にある網膜などに炎症が起こる網脈絡膜炎になると、失明のリスクも高くなります。

妊娠中期や後期のほうが胎児感染率は高いとされていますが、より重篤な後遺症が出るのは妊娠初期の感染です。ですから、とにかく初期の初感染には非常に注意が必要です。

──予防方法についても教えてください。

竹元先生:肉にはきちんと火を通したり、ガーデニングをするときは手袋をつけたりすることが効果的です。猫については、妊娠してから初めて飼うというのは避けたほうがいいでしょう。一方で、昔からずっと飼っている人は、おそらくすでに抗体を持っているでしょうから、必要以上にナーバスになりすぎず、いつも以上に丁寧に手を洗う、猫のトイレ掃除は家族に頼むといいですね。

なお、妊娠中に生肉を食べてしまったなど気になるときは、かかりつけの産婦人科などで検査できます。2週間後くらいで抗体値が上がると言われているので、心配なときは検査を受けるようにしましょう。

検査の結果、もしもトキソプラズマの初感染が疑われた場合は、早めに服薬治療などを行うことで、赤ちゃんへの感染リスクを減らすことができますよ。

───◆─────◆───

妊娠中に初めて感染するとリスクが大きい感染症である「トーチ(TORCH)症候群」。日常生活のちょっとした注意によって赤ちゃんを感染症から守ることができるのならば、ぜひとも正しい知識を身につけたいですね。

今回はトキソプラズマ症について、「肉をしっかり加熱すること」「ガーデニングの際は手袋をつける」などが予防につながることがわかりました。

次回2回目では、「梅毒」などのその他の感染症と、「風しん」について、引き続き竹元先生に主な症状や予防などをお聞きします。

取材・文/横井かずえ

トーチ症候群の連載は全3回
2回目を読む
3回目を読む。

たけもと よう

竹元 葉

Takemoto Yo
産婦人科医

2009年順天堂大学医学部卒業。2011年順天堂大学産科婦人科学講座入局、2016年世界保健機関インターンシップ、2017年順天堂大学...

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、...