赤ちゃんは「密」が愛着形成する! コロナ禍の「触れ合い」新常識

京都大学大学院・明和政子教授「コロナ禍での乳幼児の脳と心」#2〜「触れ合い」編〜

京都大学大学院教育学研究科教授:明和 政子

子どもの成長に大切な「愛着形成」の真実

授乳された赤ちゃんは、とても心地いい「内受容感覚」を感じるこのタイミングで、いつも世話をしてくれる他者から笑顔を向けられ(視覚)、声をかけられる(聴覚)という外受容感覚を経験します。

「こうした経験を日々積み重ねていくと、いつも見聞きする声や顔(外受容感覚)が、心地よさ(内受容感覚)とむすびついて脳内に記憶されていきます。

この記憶の結びつきが生じると、実際に授乳されたり抱っこされなくても、その人の顔や声を見聞きするだけで心地よさを感じる、安心感を得るようになっていきます。これが、愛着形成の科学的な説明です」(明和教授)

「この人は大丈夫。安心できる」と感じられる「特定の誰か」との信頼関係は、乳幼児期には欠かせないもの。この時期の愛着形成は、その後の脳と心の発達に大きく影響するといわれているからです。

また、「愛着がどのように形成されるかを科学的に理解すれば、子どもにとってその対象が母親、しいては血縁関係にある必要すらないこともわかります」と明和教授。

「たとえば、ある文化圏では、3人以上の愛着対象がいることも知られています。血縁に関係なく、集団で助け合って子育てをしているからです。

愛着形成というと、その対象は母親であるべき、などのイメージをもっておられるかたも多いと思いますが、それはきわめてバイアスのかかった見方なのです」(明和教授)

「触れ合う」ことが、脳と心の発達、そして愛着の形成に深く関わっていることがわかりました。しかしコロナ禍における私たちの日常では、身体接触を避けることが求められ、保育園や幼稚園でも身体接触を基本とする子どもたちの活動が制限される傾向にあります。

園でも家庭でも、絵本の読み聞かせなどの遊びの時間に、できる時にできる範囲で、子どもが心地よいと感じられる身体感覚経験を意識した活動を行っていくことが大切なのではないでしょうか。

明和教授のお話を聞くと、「互いに目を見て、笑い合いながら食事をする」といった何気ない日常の場面ですら、子どもたちの発達に大きく関わっていることもわかります。その認識をしっかり持てば、親としても普段からできることが自ずと見えてきますね。

次回は、コロナ禍だからこそ「家庭内で意識的にやっていきたいこと」について紹介します。

取材・文/稲葉美映子

※京都大学大学院・明和政子教授に聞く「コロナ禍での乳幼児の脳と心」は全3回。第3回は2022年5月12日公開予定です(公開日までリンク無効)。
#3 赤ちゃんのお世話 “脳が育つ”ひと工夫 コロナ禍だから意識すること
#1 赤ちゃんの脳の発達 コロナ禍のマスク生活が奪う学びの機会とは?

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みょうわ まさこ

明和 政子

京都大学大学院教育学研究科教授

京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、滋賀県立大学人間文化学部専任講師などを経て、現在は京都大学大学院教育学研究科教授。専門は「比較認知発達科学」。 主な著書に『ヒトの発達の謎を解く──胎児期から人類の未来まで』(筑摩書房)、『まねが育むヒトの心』(岩波書店)など多数。

京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、滋賀県立大学人間文化学部専任講師などを経て、現在は京都大学大学院教育学研究科教授。専門は「比較認知発達科学」。 主な著書に『ヒトの発達の謎を解く──胎児期から人類の未来まで』(筑摩書房)、『まねが育むヒトの心』(岩波書店)など多数。

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。