赤ちゃんのお世話 “脳が育つ”ひと工夫 コロナ禍だから意識すること

京都大学大学院・明和政子教授「コロナ禍での乳幼児の脳と心」#3〜「乳児のお世話」編〜

京都大学大学院教育学研究科教授:明和 政子

オムツ替えも赤ちゃんと触れ合いながらコミュニケーションをとるタイミング。 写真:アフロ
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第1回と2回では、乳幼児期の脳発達の仕組みと、他者と触れ合うことの必要性を科学的な視点で紐解きました。

コロナ禍で求められている現行の「新しい生活様式」は、脳がすでに完成している大人目線でつくられたものであり、赤ちゃんの健やかな心身の発達を守るための新しい生活様式を、わたしたちは早急に考える必要がありそうです。

そこで、子どもにとって必要な新しい生活様式として「子育ての日常」で意識的に取り組みたいことを紹介します。

引き続き、京都大学大学院教育学研究科教授で認知科学者の明和政子教授に教わりました。
※全3回の3回目(#1#2を読む)

比較認知発達科学を専門とする京都大学大学院教育学研究科の明和政子教授。 Zoom取材にて

授乳やオムツ替えは豊かな表情で

これまで乳児期の発達を中心にお話を伺ってきましたが、パパママのなかには「うちの子は大丈夫かな……」とコロナ禍の子育てに不安を感じた方もいるかもしれません。

まずは家庭で簡単にできることについて、明和政子教授にアドバイスを伺いました。

「ご家庭では、授乳や食事、オムツ替えの時間を有効活用してみましょう。どれも日常の何気ない場面ですが、ちょっと意識するだけで、赤ちゃんの脳と心の発達を促す絶好の機会となります。

授乳や食事の時に赤ちゃんの血糖値は上昇し、身体の内部に心地いい感覚がわき立ちます。大人でも美味しいものをいっぱい食べた後は、気持ちいい、眠たくなるといった感覚がありますよね。また、信頼する誰かと身体を触れ合わせると、オキシントンが分泌され、やはり心地いい感覚が生まれます。

授乳や食事、身体接触をともなう絵本の読み聞かせなどは、このしくみを活かせる機会です。触れながら笑顔を向けて話しかけるというコミュニケーションは、言語を処理する脳内領域の活動を高めることもわかっています。こうしたやりとりこそ、赤ちゃんにとって最大の学びの場となるのです」(明和教授)

マスク生活が長期化する今、社会ではマスクを外して赤ちゃんに接することが難しくなってきています。だからこそ家庭でのちょっとした意識が大きな意味を持つ、と明和教授は続けます。

「赤ちゃんに豊かな表情を見せ、触れ合う機会を、コロナ禍以前よりも少し意識して増やしていただきたいです」(明和教授)

オムツ替えの場面も、排泄物の交換のためだけとするのは「もったいない!」と明和教授は指摘します。

「オムツを替えるときには赤ちゃんの身体にやさしく触れますよね。ここでも笑いかけ、話しかけることを少し意識していただけたら効果的だと思います」(明和教授)

ユニチャーム株式会社と共同で、子育てをする親の心を支える紙オムツを開発した明和教授。おむつの濡れ具合を示すインジケーターに「ありがとう」「大好き」という文字が浮かび上がるしかけを搭載したのです。

生後2〜5ヵ月の赤ちゃんを子育て中のお母さんに協力してもらい、このオムツを使用しているときの脳波を測定した結果、従来型のオムツ替えのときよりもポジティブな感情が高まるという結果が得られたといいます。

「赤ちゃんが実際に『ありがとう』『大好き』と思っていなくてもかまわないのです。赤ちゃんとの触れ合いのタイミングで、このメッセージがまるで赤ちゃんが伝えてくれているように感じることこそが大事です。

子育ては親にとってしんどいばかりではなく、喜びを感じられる営みとしたい。『笑顔で赤ちゃんの身体に触れる』機会を活かして、子どもだけでなく、親も支えていきたいと思っています」(明和教授)

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