
【子どもの熱中症】「汗をかかせたほうがいい」は危険な誤解! 正しい暑さ対策とは〔小児科医が解説〕
#10 令和の「子どもホームケア」~子どもの熱中症~
2025.07.23
小児科専門医:森戸 やすみ
今年(2025)も全国的に厳しい暑さが続き、心配なのが子どもの熱中症。「子どもは汗をかいたほうがいい」「冷房は子どもの体に悪い」と言われて育ったママパパ世代の中には、暑さとどう付き合えばいいのか、迷ってしまう人もいるのでは?
令和の現在はどう考えられているのか、森戸やすみ先生に聞きました。
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「子どもは汗をかかせたほうがいい」といわれる理由のひとつは、「汗をかかないと汗腺が発達しない」という説があるからだと思います。でも、少し誤解している方が多いかもしれません。
そもそも汗には、「体温を一定に保つ」という大切な役割があります。暑さを感じると脳の体温調節中枢が指令を出して汗をかき、その汗が蒸発するときに、皮膚の表面から熱を逃がして体温を下げているのです。
汗を分泌しているのは、全身の皮膚にある「汗腺」という器官。実はすべての汗腺が汗を出せるわけではなく、汗を出す力のある「能動汗腺」と、出せない汗腺があります。
ある研究によると、能動汗腺の数は2歳半ごろまでに決まり、大人になっても変わらないことがわかっています。2歳半ごろまでに適度に汗をかく習慣をつけて、一定程度の数の汗腺を能動汗腺にすることが大切なのですね。
ただ、「汗をかく習慣をつける」というのは、「暑い環境で無理にでも汗をかかせる」という意味ではありません。近所を散歩したり公園で遊んだりすると、自然と汗をかきますし、涼しい室内にいても動いたり踊ったりすれば汗が出るでしょう。通園があるお子さんなら、行き帰りの時間でも暑さを感じるはずです。
このように1日にトータルで1~2時間ほど、暑い環境にいたり、運動したりすれば、数日から2週間程度で体が暑さに慣れ、汗をかけるようになるといわれています。これを「暑熱順化(しょねつじゅんか)」といいます。「意外と短い時間でいいんだな」と思われたのではないでしょうか。
元気に生活をしていれば、汗をかくチャンスはたくさんありますので、それで充分です。熱中症のリスクもある中、子どもに暑さをがまんさせたり、無理に汗をかかせる必要はないでしょう。
冷房は子どもが快適な温度設定に
では、「冷房は子どもの体に悪い」というのは、どうでしょうか。実は、この説に医学的な根拠はありません。もちろん、体の冷やし過ぎはよくありませんが、それは大人も同じですよね。
温暖化によって年々気温が高くなり、毎年夏は災害級の暑さが続いています。そんな過酷な暑さを昔のように自然の風だけでしのぐのは無理ですし、むしろ危険です。特に子どもは暑さに弱く、熱中症になりやすいので、積極的にエアコンを使っていただきたいと思います。
子どもが暑さに弱く、熱中症になりやすい理由のひとつは、体温調節機能が未熟なことが挙げられます。「能動汗腺の数は2歳半ごろに決まる」とお伝えしましたが、汗腺から汗を出す機能は、7~9歳ごろまではまだ未熟です。
年齢が低いほど、暑さを感じてもすばやく十分な量の汗をかくことができません。子どもが汗っかきに見えるのは、大人に比べて体表面積が小さいのに、汗腺の数は変わらないから。汗腺の密度が高く、たくさん汗をかいているように見えるのですね。
また、気温の影響を受けやすいこと、体が温まりやすく冷めやすいこと、もともと体内に水分と塩分のたくわえが少ないうえに自分で補給するのが難しいこと、年齢にもよりますが、自分で脱ぎ着して体温調節できないことなども、熱中症になりやすい理由に挙げられます。特に幼い子どもは「暑い」「気分が悪い」と言葉で訴えることが難しいので、お子さんの様子をよく見るようにしてください。