夜中に泣き叫ぶ「夜驚症」 症状が改善しない子どもの性質や環境とは 専門医のわかりやすい解説
小児科医・今西洋介先生に聞く「夜驚症」 #3 発達年齢ピーク後と子どもの睡眠について
2024.03.09
小児科医・新生児科医:今西 洋介
環境の影響でピークを過ぎた時期に発症することも
──前回では、子どもの眠るときの光と音の刺激を最小限にすることで、家庭で夜驚症の症状を改善させることができるというお話を伺いました。ちなみに、発症年齢のピークが過ぎた後は、もう夜驚症を発症することはないのでしょうか?
今西洋介先生(以下、今西先生):夜驚症は思春期にはピークが過ぎて、自然と収まっていきます。しかし、ピークが過ぎた学童期から中学生の思春期の時期こそ、睡眠のリズムが大幅に崩れていく場合が多くあります。
たとえば受験。年齢的にせっかく症状が改善し始めても、中学校受験や高校受験で睡眠のリズムが大幅に崩れてしまい、そこにストレスも加わり悪化してしまうということが見受けられます。
とはいえ、勉強をしない、塾に行かないという選択をするのは、受験生には難しいですよね。その場合は、平日の塾の日程を時間に余裕のある休日に移すなど、塾のスケジュールを調整することも考えてみてください。睡眠が子どもたちに与える影響の大きさをというものは親御さんが思っているよりも大きい。このことはもっと認知されていいと思います。
──確かに、塾があると小学生であれば帰宅が20~21時ごろ、中学生に至っては22時ごろになるのもざらです。そこからちょっと休みながら夕飯を食べて、お風呂に入り、また勉強をするとなると眠りにつくのは日付が変わるころに。眠るのが遅くなれば、起きるのも自ずと遅くなり、生活リズムが狂っていきますよね。
今西先生:そうです。夜驚症とは少し話がずれるのですが、眠る時間が遅くなって、朝起きるのが遅くなる。つまり、睡眠時間がずれていくと、朝は時間がないから朝食を食べなくなることが多くなります。
そうすると、昼食で「どか食い」をするようになり、夜は夕食を食べた後、寝る時間が遅いから夜食も食べてしまう。すると想像のとおり、子どもは肥満になってきます。夜驚症だけでなく、こういった健康被害のリスクも、睡眠リズムの乱れは引き起こしていきます。
発達障害の背後に隠れている夜驚症
──夜驚症は成長とともに治るとはいえ、成長とともに変わる子どもたちの環境も考えてあげなくてはいけないのですね。
今西先生:もう一つ、発達障害の子どもは夜驚症になりやすい傾向があります。発達障害でお子さんが受診をされている場合、夜驚症を引き起こす可能性があるということは心に留めてもいいかもしれません。これを知っていれば、子どもの睡眠環境から、より危険なものを事前に排除したり、ベランダや窓など、危険な環境にも注意を向けられるはずです。
ただ、夜驚症を示す子どもが全て発達障害を持っているというわけではなく、逆もまた然りです。発達障害のお子さんは脳機能の発達に偏りがあることから、発症する確率が高いと考えられます。
しかし、発達障害だけでなく今までお話ししたとおり、子どもの生活環境の変化や睡眠不足、発熱など、さまざまな要因が夜驚症を引き起こすと言われていています。その発症率は子ども全体の2~7%にもなります。
──どんな子どもにも起こり得る。でも、睡眠環境を整えてあげれば改善も見られるし、時が解決してくれる。そう思えば親もどっしりと構えてパニックになっている子どもを落ち着いて見守ってあげられそうな気がします。
今西先生:そうですね。ただ、親も子も「時間がくればなんとかなるから」と無理をしないことです。前回もお話ししましたが、ママパパが疲弊しては共倒れになってしまいます。「夜驚症は、受診をしてもいいんだ」という気持ちで、困ったときは病院のドアをノックしてくださいね。
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小さいうちからもデジタルメディアに時間を問わず触れる機会が増え、成長すれば夜遅くまで塾と勉強……。子どもの睡眠に関わる環境はこれまで以上に大きな変化を迎えています。
たかが睡眠、されど睡眠。心と体の健やかな成長のベースとなる睡眠の重要性を親が認識し、整えてあげることが大切だということがわかりました。
夜驚症の正しい知識を持って、子どもも親も上手に付き合っていきたいですね。
取材・文/知野美紀子
今西 洋介
小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を努めた。 NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。 SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。 最新著書『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社) Twitterのフォロワー数は14万人。 Twitter @doctor_nw
小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を努めた。 NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。 SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。 最新著書『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社) Twitterのフォロワー数は14万人。 Twitter @doctor_nw