子どもの【発達の困りごと】卑猥な言葉を繰り返す、食べ方がヘン、挨拶できない、ボタンをとめられない…背景と様々な可能性を〔専門家〕が探る

多様な子どもに関する反響記事“まとめ”7選

さまざまな背景や疾患を持つ子どもについての記事で、反響のあったものを紹介。  イメージ写真:アフロ
すべての画像を見る(全2枚)

世の中には私たちが知らない事情を抱え生きている子どもとその家族がいます。言動によっては、「親の育て方が悪いのでは?」「わがままな子だな」と不信感を抱いたり、「怖い」と感じて距離をとることもあるかもしれません。

しかし、そのなかは本人ではどうにもできないない病気・症状によるもので、本人はもちろん、ママパパも深く悩んでいることも。それらの困りごとに関して少しでも正しい知識があれば、相手を理解し寄り添うこともできるかもしれません。

人は一人ひとり違うことを理解するにも、さまざまな事情を知っておくのは大切なこと。そこでコクリコでは医師や専門家、親、当事者などに話を聞き、いろいろな子どもの背景や疾患について取材してきました。

さまざま子どもを知ることから、“誰も取り残さない”多様な社会への一歩を進められるかもしれません。反響のあった7記事をまとめました。

1)「低出生体重児」「極低出生体重児」に寄り添う「リトルベビーハンドブック」

最初に紹介するのは、「リトルベビーハンドブック」、リトルベビーとママのための手帳です。

リトルベビーとは、体重が2500g以下で生まれた「低出生体重児」と、さらに低い体重(1500g以下)で生まれた「極低出生体重児」の赤ちゃんのこと。日本国内では新生児の約10%が低出生体重児、極低出生体重児は全体の0.7%。決して少ない数字ではありません。

妊娠がわかり、市区町村に妊娠届を提出したら「母子健康手帳(母子手帳)」が交付されますが、母子手帳の多くは、乳児身体発育曲線が、体重1kg、身長40cmから記入できるようになっており、低出生体重児や極低出生体重児の体重や身長を記録できる目盛りはないのです。

母子手帳を持っているのに我が子の記入ができない……、この現実はリトルベビーを産んだママたちをより悲しませ孤独にすることは想像にかたくないでしょう。

このような状況の中、2011年、静岡県のリトルベビーサークル「ポコアポコ」が当事者の親として初めて「リトルベビーハンドブック」を制作しました。リトルベビーの体重は0kg、身長は0~20cmから記入可能に。欄外には先輩ママパパ、成長した子どもたちからのメッセージも記され、「ひとりじゃないよ」とあたたかく寄り添ってくれます。

その動きは徐々に広がり、今や「リトルベビーハンドブック」は46道府県7市区で運用(2024年4月段階)されています。配布は基本的にNICU(新生児集中治療管理室)のある病院や、市町村の母子保健担当課などです。

全国のリトルベビーサークルの活動を支援する国際NGO国際母子手帳委員会事務局長・板東あけみさんは、リトルベビーハンドブックはママへのサポート面でも“必要不可欠”と強く訴えます。成長記録を残せるだけでなく、リトルベビーのママパパにとって大きな心のよりどころにもなっているからです。

板東さんは、この手帳があるだけでリトルベビーの親子が抱えている課題が全部解決するわけではないのはわかっていると前置きしつつも、大きな存在意義を訴えます。

「これ(リトルベビーハンドブック)があることで、①県などの自治体、②医療、③地域保健、④当事者の4者のきちんとしたサポートネットワークが成り立っていくきっかけになっていると確信しています。そんなサポート体制を作り“誰も取り残さない”という思いを広げていくことが何よりも大切だと考えています」(板東さん)

➡注目記事➡低出生体重児は「母子手帳」には何も記録できない…ママやパパを救う「リトルベビーハンドブック」のリアル

2)「チック症状」は5人に1人 一過性かどうかをチェック

本人の意思とは関係なくまばたきや咳払いをしたり、「んんん」などの声を出したりする「チック症」。原因はストレスともよく聞くため、「自分の育て方が悪いのかも?」と不安になったママパパも少なくないでしょう。

しかし、「育て方やしつけ、ストレスが発症の直接の原因ではありません。よく聞かれる『育て方が悪いから』という俗説はまったくの誤解」と断言するのは20年以上、チック症の臨床経験をもつ、瀬川記念小児神経学クリニック理事長で小児神経科医の星野恭子先生。

発症は、脳の神経回路において「ドパミン(dopamine)」という神経伝達物質の分泌異常が関係し、その出やすさは、生まれつきの脳の仕組みによるものが大きいと考えられています。

チック症状は、咳やしゃっくりと同じように、自分でコントロールすることが難しいもの。軽度のものを合わせると、子どもの約5人に1人は成長過程でなんらかのチック症状があるのです。

症状の継続期間で、大きく3つの病型に分けられます。一番多いのは1年以内に症状が消える一過性チック、1年以上続く場合は慢性チック、さらに運動・音声チックの両者が1年以上続くとトゥレット症と呼びます。

爪が変形するまで嚙み続けるなど、日常生活に影響を及ぼす場合と、1年以上続く場合は小児科で相談してみましょう。

チック症状は、子どもがわざとやっているのではなく脳のしくみに原因があること、我慢しようとしてもできないことだとわかると、ママパパの気持ちもラクになるかもしれません。そして一過性ではないチック症もあることを頭に入れつつ、子どもを見守り、必要を感じたら小児科医を訪れましょう。

➡注目記事➡まばたき、咳払い、鼻を鳴らす……子どもの変な癖 5人に1人は「チック症」!? 誤解と真実を専門医が解説

3)「トゥレット症候群・汚言症」言ってはいけない言葉を発してしまう症状

「トゥレット症」は、先に述べたチック症状が1年以上続く場合に診断される病型です。症状の出方には個人差がありますが、まずは「子どもがやりたくてやっているのではない」ことを知るのが大切です。

トゥレット症の一つに、言ってはいけない言葉を本人の意思に反して口にしてしまう「汚言症(おげんしょう)」があります。

「小学校高学年から中学生にかけての思春期にあたる時期、男子に多く出てきます。自分の意思とは関係なく、『しね』や『うんこ』、性器の名称など卑猥な言葉、社会的に受け入れられない言葉を発してしまいます」(星野恭子先生)

原因は、脳内の一部の神経回路が過剰に反応し、異常な興奮状態にあるのではないかと考えられています。異常な興奮状態で『言ってはいけない』と思うほど、『言わないと気がすまない』というチック症のメカニズムが働いてしまうのです。

公共の場で子どもが性器の名称を発したら、ママパパとしては、つい「やめなさい!」と𠮟ってしまいそうです。しかし、困っているのは言葉を発した本人も同じなのです。

街なかで突然、汚言症の症状に出くわしたときに、知らなければ周りは驚いたり、怖がってしまうかもしれません。無理解によって子どもの自尊心を傷つけてしまうことがないように、正しく知り理解することが、より大切だといえるでしょう。

➡注目記事➡街で「しね」「うんこ」性器の名称も声に……言ってはいけない言葉ほど出てしまう“汚言症・トゥレット症候群”とは

4)好き嫌い、過食、偏食…「普通に食べられない」から確認できる課題とは

子どもの好き嫌いや過食、偏食など、食のトラブルに悩むママパパもいるでしょう。成長とともに食べられるようになったり、子どもは困っていないのに大人が過剰に問題視しているなど、心配しすぎないほうがいいケースもあります。

しかし、「だからと言って、子どもとちゃんと向き合わなくていいというわけではない」と、指摘するのは医学博士・児童精神科医で“子どものこころ専門医”として活動する宮口幸治先生。

例えば、特定の発達特性を持つ子どもの場合、食に関しても何らかの問題が出てくることがあり、親がきちんと向き合って早く気づくことができれば、適切な対処ができるからです。

ASD(自閉症スペクトラム)やADHD(注意欠陥・多動症)といった発達特性を持つ子どもや、中等度から重度の知的障害がある子どもの場合、過食気味になることがあります。

また、給食の時間に「食べるのが並外れて遅い」などの課題がある場合、体育の着替えも遅かったり、黒板の文字をノートに書き写す板書が苦手だったり、食事以外でも困りごとを抱えている可能性が考えられます。

食トラブルがどうも気になる場合、授業中はどうか、着替えはどうか、睡眠はどうか──というように、日常生活を再確認してみましょう。多くの課題があることに気づければ、早めに専門機関に相談することができます。

➡注目記事➡子どもの発達特性「普通に食べられない」食事トラブルから見える事実とは? 児童精神科医が解説

5)「場面緘黙症」 極度の人見知りではなく発達障害の可能性

家では会話ができるのに、幼稚園や学校などの特定の社会的状況で声を出したり、話したりすることができない状態が続く「場面緘黙(ばめんかんもく)症」。TVドラマ『放課後カルテ』(日本テレビ)で取り上げられたことで、SNSのトレンドワードに上がったこともあるので、耳にしたことがある方もいるかもしれません。

場面緘黙症は、発達障害の一つとされています。学校教育では情緒障害に分類され「特別支援教育」の対象となっています。

しかし、「先生が『もともと無口な子』『おとなしい子』だと思い込んでしまい、問題視せずに見過ごしてしまうことも。そうすると保護者は緘黙症状に気づくのが遅れてしまいます」と語るのは公認心理師で、場面かんもく相談室「いちりづか」代表の高木潤野先生。

記事では、「大人になれば話せるようになる」「自分で話さないことを選んでいる」「人と関わる経験をたくさんさせれば治るのではないか」といった、親がやりがちな誤った対応についても触れています。まずはママパパが場面緘黙症について正しく理解し、適切な支援につなげることが大切だとわかります。

➡注目記事➡外で話せない〔場面緘黙症〕の子どもに「挨拶しなさい」はNG! 我が子を追い込まない親たちの心得を専門家が解説

6)運動オンチと「発達性協調運動障害(DCD)」の違い

「DCD(発達性協調運動障害)」という言葉を聞いたことがありますか? 発達障害の一つで、その特徴にボタンを1つとめるのに何分もかかるなど、日常生活に支障が出るほどの「極端な不器用さ」があると言います。

社会的な認知度が高くないことから、障害に気づかれなかったり、適切な支援を受けられないことも。「極端な運動オンチ」だと思っていたら、DCDという可能性もあると言います。DCDを抱える割合は5~6%といわれ、1組30人のクラスだと、クラスに1~2名はDCDの子どもがいることになるのです。

DCDだと気づかれず、改善策が見つからないまま「困りごと」だけが増えてしまうのは、子どもにとってつらいもの。運動嫌いから過食や肥満になるなど、二次的な悪影響も出やすくなると言います。

この記事では、小児精神科医でDCDについて詳しい古荘純一先生(青山学院大学教授)に、DCDの特徴や乳児期~学童期によく見られる症状について解説していただいています。「我が子がDCDかもしれない」と気づくきっかけになれば幸いです。

➡注目記事➡【見逃される発達障害】不器用・運動オンチは「発達性協調運動障害(DCD)」の可能性 専門家が解説

7)「境界知能」の子どもたちの困難と対応を知る

最後に紹介するのは、IQが70~84の範囲にあり、知的障害と平均値のボーダー上にある「境界知能(知的ボーダー)」の子どもたちです。

日本では約1700万人、約14%いるとされていますが、知的障害や発達障害などの診断名がつかないことから、特別支援学校や特別支援学級に進学できず、通常クラスの勉強や活動についていけなくなってしまうと言います。

学校で「やる気がない」と見なされてしまう子どもの中には、「何をしてもうまくできずに怒られる」というネガティブな経験を重ねた境界知能の子どももいる可能性があります。心身の不調や不登校などの二次的な問題につながる可能性も。お子さんに境界知能の疑いがあれば、学校やスクールカウンセラーに相談し、適切な支援につなげるといいでしょう。

記事後半では、家庭でできる「社会に出てからの困難をやわらげる準備」も紹介しているので、参考にしてみてください。

➡注目記事➡日本の14%が「境界知能」“知的障害と正常域のはざま”の子ども・小学校入学(就学期)からの困難&対応を医師が解説

=・=・=・=・=・=・

これらの記事から、子どもの発言や行動には見えにくい症状や事情があり、そのことに困っている子どもやママパパもいることがわかります。

「知る」を重ねるうちに「知らなかったこと」の多さに気づくことができるかもしれません。困っている子どもへの接し方のヒントとしても役立ててみてください。

文/畑菜穂子

この記事の画像をもっと見る(全2枚)