【子どもの口のケガ】タイプ別「緊急度と受診の目安」 〔小児歯科専門医指導医〕がわかりやすく解説

子どもの口のケガ〔宮新美智世先生〕#1

日本外傷歯学会副理事長:宮新 美智世

永久歯が抜け落ちたら水道水で洗わず1時間以内に受診

宮新先生:「永久歯が抜け落ちた」場合も、すぐに歯を探しだして、歯を持って歯科医院を受診してもらうのがよいですね。

──それは、抜けた歯を戻すために急いだほうがいいということですね。

宮新先生:そうです。詳しくは次回2回目で説明しますが、特に永久歯は、1時間以内に受診することで、歯を元に戻せる可能性が高くなります。

その際、抜け落ちた歯は、水道水で洗うと塩素と低浸透圧により細胞が死んでしまうため、血がついたままラップにくるんで乾燥を防いでから歯科を受診してください。

どうしても受診まで1時間以上かかる場合は、歯を牛乳にひたして冷蔵保存すること。ただし、牛乳アレルギーがないお子さんの場合に限ります。

折れ・揺れ・ズレは当日受診で痛み最小化

──命に関わらず、歯も抜けていない場合は、どのタイミングで受診すべきですか?

宮新先生:「歯が折れた」「ヒビが見える」「揺れる」「ずれた」「歯と歯肉の境目から血がにじむ」「食品を嚙んで痛い」などの場合はできるだけ早めに、なるべく当日中に小児歯科を受診しましょう。

ケガをした直後は痛みを感じにくいことがありますが、半日~1日で痛みがピークになります。その時点で食事が取れていないと、子どもの体調とメンタルに悪影響も。早めに受診することで痛みが少なく、回復も早く、好きなものが食べられる状態になります。

また、唇のケガで砂や汚れがついている場合、放置すると傷跡が残るリスクがあります。粉状の汚れは当日中に病院で除去してもらうことをおすすめします。

すぐに受診できない場合は定期検診で申告

──逆に、「自宅で様子を見てもよい」ケースはありますか?

宮新先生:頰の粘膜や唇の裏側のケガ、舌をかじった程度のケガは、自宅で様子を見ていても構いません。また、歯をぶつけた場合でも1時間以内に食事をして痛みがない場合は、問題ないことが多いです。

ただし、口のケガは安易に「様子見で大丈夫」とは言えないのです。ケガ直後はどのような外力が加わったのかわからないため、見た目で判断が難しいからです。

例えば、「歯」の外傷といっても同時に下記の部位が損傷されるケースがあります。

●歯……歯冠、歯根、歯髄、乳歯の外傷は跡継ぎの永久歯

●歯の周り……歯肉、歯根膜、歯の周りの骨

ケガを放置してしまい「やっぱり早めに病院に行っておけばよかった」と後悔するケースも少なくありません。

脳外科のケースですが、子どもが頭を打った直後は何もなくても、その後2週間以内は異常が出ることがあると言われています。歯のケガも同様で、初めは軽傷に見えても、実はその時点で隠れた損傷が存在していることがあります。

例えば、地震で壁の内部に目に見えないヒビが入っていても、あとから亀裂が大きく現れるように、歯も食事や会話など日常の刺激を受けるうちに、当初は検出できなかったダメージが顕在化してくることがあるのです。

──どうしても当日中に病院に行けない場合はどうすればよいでしょうか?

宮新先生:可能であれば1週間以内に受診を。それも難しい場合は、ケガした日付、状況、症状をメモしておき、次の定期検診などで受診するときにかかりつけ医に相談してください。

歯のケガの跡は、時間が経っても消えない部分が多いです。歯科医も「これはケガの影響かな」と確認しながら診察できるため、ケガをしたときの記録や情報があると、的確な治療を行いやすくなります。

乳歯外傷の約半数が後継ぎの永久歯に影響 定期検診がカギ

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