70歳から独学でティッシュアートを始めた藤田孝士(ふじた・たかし)さん(78歳)。動物や植物、城などの建造物を精巧に表現した作品や、「うわっ!」と驚くようなカラクリを施した素朴でユニークな作品の数々は、インスタグラムで大バズり!
フォロワー数は14万人(2023年9月現在)、再生数が900万回を上回った動画もあるほどですが、そんなティッシュアートの魅力は、「見て楽しいだけじゃなく、作って楽しいところにある」。
そして、「小さい子どもさんからお年寄りまで、誰にでもできるけれど、特に子どもさんにはおすすめしたい」と、藤田さんは力説。さて、そのココロは──。
※2回目/全2回(#1を読む)
手作りの素朴な味わいの作品がウケる理由
藤田孝士(ふじた・たかし)さんは、ティッシュペーパーで生み出したアートの数々をインスタグラムで紹介して注目を集めています。どこからどう見ても本物にしか見えない松の盆栽、今にも大空に羽ばたきそうな白鷺など、実在のものをリアルに表現した作品も喜ばれていますが、中でも特に人気があるのは、カラクリを施した“劇場型”の作品です。
──ティッシュでスイカを作りました。何が出てくるのかなぁ?──
藤田さん自身が登場し、優しげな、なんとも和む声でのナレーション。そして、ティッシュ製の大きなスイカをパカっと割ると、中から、ライオンやキリンなどアフリカのサバンナで生きる動物たちが登場するというカラクリ。動物ももちろんティッシュ製です。
このほか、キャベツを開くと世界遺産の白川郷の景色が広がったり、メロンの中からキャンプを楽しむ人々が出てきたり、カボチャの中から蝶やカブトムシなどの昆虫が飛び出したり。
創意工夫を凝らした作品には、「見ていてワクワクする」、「子どもはもちろん、大人もテンションが上がる」といった称賛の声が続々寄せられています。
「このカラクリの作品は、みなさん、特に楽しみにしてくれとってみたいなんですわ。今はAIでなんでもリアルに表現できる時代じゃろぉ? 怪獣とかでも、あたかも、そこに本物がおるような映像ができる。
もちろん、それはそれで素晴らしいことじゃと思いますよ。じゃけど、そういう世の中だからこそ、私の作品が受けとるんじゃないかとも思うとります。手作りで素朴な味わい。みんな、こういうものも求めとってんじゃあなかろうか」
自分で考え創作する機会を子どもたちに
手作りの素朴な味わい。藤田さんは、そんなティッシュアートの魅力を、自分の作品を通して世の中に広めたいと思っています。単に「ティッシュアートは素晴らしいね」と知ってもらうのではなく、「みんなにチャレンジしてほしい」と。
「大人ももちろんじゃけど、特に子どもには、ぜひともチャレンジしてもらいたい。頭で考えて手を動かして何かを創作することが、どれだけ大切か」
人間はオギャアと生まれてから、自分の頭で考えて何かを手作りして、人とコミュニケーションを取って……。そうやって成長していくもの、というのが、藤田さんの持論。
「ところが、現代はどうじゃろうか。コンピュータが発達して、自分で考えんでも、自分で作らんでも、ボタン一つ押せば、なんでもできる、なんでも手に入る。便利な世の中になったけど、もしボタンが押せんような状況になったら、どうするんかなぁ。生きていくことさえできんようになるんじゃないかと、私は危惧しとります」
便利な世の中になったがゆえに、現代の子どもたちは、「自分の頭で考え、創意工夫して、自分の手で何かを生み出す」という大切な機会を奪われているのではないか。そう考える藤田さんは、ティッシュアートを通して、子どもたちにその機会を与えられれば、と考えているのです。
「私は子どもが大好きでね。60歳過ぎまでのおよそ40年間、剣道教室をやって子どもに剣道の技だけじゃのうて、剣道を通して、生きる術みたいなもんも教えとったつもりです。
夏休みの合宿では、段ボールをいっぱい持ち寄らせて、『そいじゃあ、これから基地を作るど』言うてね、体育館に段ボールの家みたいなのを作らせて、その夜は、そこに全員で寝るんよ。子どもらはみんな、なんも教えんでも、自分らで工夫して、嬉々として段ボールの家を作りょうたです」
子どもたちにとってこうした創作の機会はとても大事、と藤田さんは力説します。
「その創作の機会を与えてやるんが大人の役目でもあるでしょうが、その手始めとして、ティッシュアートはええんじゃないかと。ティッシュさえあれば、いつでも、どこでもすぐできますからね。難しいことをせんでもええんですよ。
例えば、てるてる坊主だって、立派なティッシュアート。ティッシュをくるくるっと丸めて、上からティッシュで覆って輪ゴムで頭と胴体を分けて、頭の部分にへのへのもへじを書くだけ。これなら親御さんも簡単に教えられるし、保育園児でもできるでしょう。『うわぁ、僕にもできた!』と喜び、創作の楽しさを知るんじゃないかと思いますよ」
子どもたちの創作意欲を引き出すティッシュアート
ティッシュアートを世の中に広めたいと願う藤田さんは、インスタグラムで作品を紹介するだけではなく、請われて人に教えに出向くこともあります。
「敬老会や高齢者施設で教えたこともありますが、認知症の人でもできるんです。小学校へ行ったこともあります。そのときは3年生を教えたんじゃけど、大人と違って、子どもに教えるときは、まず、子どもの興味を惹くことが大事です。
じゃけぇ、私は、ティッシュで作ったスイカを持っていって、まず見せたんですよ。そりゃあもう、子どもは大喜びですわ」
──ティッシュでおいしそうなスイカを作りました。何が出てくるのかなぁ?──
こう言いながら、ティッシュ製の大きなスイカの中から動物たちを登場させると、子どもたちの目は輝きを増し、「うわーっ!」と歓声が湧き起こるのだとか。
「こうなったらしめたもの(笑)。『僕も作りたーい!』とあちこちから声が上がるんで、『へえじゃあ作ろうや』言うて、教えに入ります。このときは、小鳥の作り方を教えたんじゃけど、基本だけ教えたら、あとは子どもの好きにさせます。そうすると、こっちが驚くような奇想天外な反応が出てきて、面白いんですわ。
例えば、片目の鳥を作りょうる子がおったんで、『どうしたん? 目が一つしかないんね』言うたら、『うん、僕が作りょうるんは(作っているものは)海賊の鳥じゃけぇ』ときた!
おもしろいじゃろうぉ? 子どもはとんでもないことを考える。その自由な発想を伸ばしてやるにも、ティッシュアートはちょうどええんじゃないかと思うとります」
ティッシュなら、たとえ失敗しても使い回しがきくため、エコにもなるし、第一、子どもたちの自由な発想を妨げない、と藤田さん。
「例えば動物を作るときには、ティッシュをぐるぐる丸めて水で濡らしてかためて顔や胴体にしていきます。ちょっと紙粘土に似とるけど、粘土よりはるかに、みやすい(やりやすい)。
思うようにできんかったら、もう1回水で濡らして広げて乾かして、また一からやればええんじゃけぇ、いくらでも自分の好きなようにできるじゃろう? 創作意欲を引き出してくれる。これもティッシュアートのええところなんですわ」
藤田さんによれば、「適当にやってもそれなりの形になる」のもティッシュアートの魅力。さっそく家でも子どもと一緒に試してみたくなりますね。芸術の秋。今年はティッシュアートに挑戦してみては?
●アトリエ兼ギャラリー『ティッシュアート 紙の城』
住所:広島県福山市新市町新市628‐4
※開館日時、休み等は不定期