「学び直し」子育て中は難しい! 「自分に合う学習法」「お勉強ごっこ」「生活の中の学び」…解決方法を専門家が伝授

ママパパの学び直し(リスキリング)#4~時間の作り方と学び方の工夫~

ライター:桜田 容子

忙しいママパパの学び直しはオンオフと時間を切り分けるのではなく、ベッドの中でも5分だけなど隙間時間の有効活用が重要なポイントと専門家は語ります。  写真:アフロ

大人の学び直し(リスキリング)が注目されています。『メタ認知』(中央公論新社)などの著書がある、教育心理学が専門の大阪大学名誉教授・三宮真智子さんは、「変化の激しい今の時代、勉強は何歳になっても必要」と言います。

とはいえ、子育て中のママパパは、育児・家事・仕事で毎日がハード。そこに勉強の時間まで加わると、スケジュールが破綻するのでは、あるいはすべてが中途半端になるのでは──といった懸念も生じます。

しかし三宮さんは、「時間に追われるママパパでも、やり方次第で子どもと向き合う時間を確保しつつ勉強を続けることは可能です」と力強く言います。今回は、時間の作り方と、効率的な学び方について教えてもらいました。

※4回目/全5回(#1#2#3#5を読む)公開までリンク無効

●三宮真智子(さんのみや・まちこ)PROFILE
大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授。専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。著書多数。

認知心理学、教育心理学の専門家・三宮真智子先生。

睡眠時間は絶対に削ってはいけない

家族との時間をキープしつつ勉強時間を作るには、睡眠時間を削るしかない──そう考える人もいるかもしれません。しかし、大阪大学名誉教授の三宮真智子さんは「睡眠時間を削ると逆効果になりかねない」と警鐘を鳴らします。

「十分な睡眠を取ることは、体だけでなく脳にとっても必要なこと。人間の脳は、寝ているときに日中に得た情報や知識を整理しています。ところが睡眠時間を削ってしまうと、大事な情報整理がうまくできなくなり、結果として時間をかけて学んだことが頭の中に定着しなくなる可能性が高くなってしまうのです」(三宮さん)

では、どれだけの睡眠時間を取ればよいかというと、必要な睡眠時間は人それぞれ。

「自分自身の頭の働き具合を日ごろから注意深く観察して、“これ以上、睡眠時間を削ると頭の働きが落ちる”というラインを知っておくことが大事です」(三宮さん)

子どもがいる空間で勉強する工夫とは?

睡眠を確保しつつ、子どもと過ごす時間もできるだけキープしたいもの。三宮さんは、子どもが起きている間でも工夫次第で勉強する時間は作れると話します。

「子どもがある程度聞き分けられる年齢になっていれば、例えば『今からママ(パパ)と一緒にお勉強ごっこしようよ』『小学校に行くための準備だよ』などと持ち掛けて、“ごっこ遊び”にしてしまうのも一つの手。

『お勉強ごっこを今から30分やるよ。時計の針があの数字を指すまで、黙って勉強するルールだよ』と、机を並べて、あるいは同じテーブルでそれぞれのお勉強をするのです。

子どもが幼児であれば、お絵描きや工作などでもいい。そうすると、子どもは親のそばにいながら時間を区切って何かに集中できるかもしれません。そしてあとで作品を親が見てくれるという形を取れば、子どもも親子で時間を共有していると感じられるのではないでしょうか。

もちろん、途中で質問されたりしてスムーズにいかないことも多々あるでしょう。ですから、子どもと一緒に勉強する時間は、あまり難しい複雑な内容ではなく、気が散ったり中断したりしても大丈夫なものに取り組むとよいですね」(三宮さん)

そのためにも、事前に勉強するものを仕分けしておくことをおすすめしています。

例えば【A】一人きりの時間に集中して取り組むもの(テキストの読み込みや問題を解く作業など)、【B】隙間時間にサッと取り出して学べるもの(暗記ものなど)、【C】子どもと一緒にいるときに学ぶもの(資料の整理など)というようにです。

生活の中に常に学びを混ぜる

上記の仕分けは、隙間時間の有効活用につながります。

三宮さんは、“何時から何時までは勉強の時間”といった具合に、生活と勉強を切り離すのではなく、子育て世代には生活の中に学びを溶け込ませる方法がおすすめと言います。具体的な3つの方法を教わりました。

【1】就寝前におさらい

「前述のとおり、記憶は就寝中に脳に定着されます。ですから、5~10分でもいいので、寝る直前のごくわずかな時間にその日学んだことを効率よくおさらいしましょう。ポイントだけマークして、寝る前にそれをチラっと見てから寝るのでも構いません。

そして短時間のおさらいの後はできればすぐに寝てしまうこと。何かを勉強した後、スマホをつい触ってネットニュースなど他の情報を頭に入れてしまうと、後から入ってきた情報が優先的に定着してしまいます。

そして可能であれば、朝起きてすぐ、脳がまっさらな状態で同じ部分を見ると、より頭にインプットされやすくなります」(三宮さん)

その日に勉強ができなければ、以前学んだことのおさらいでもOK。覚えたいものリストを、常に枕元に置いておくのもいいかもしれません。

【2】隙間時間に暗記

「いわゆる暗記ものは、家事や仕事の合間、通勤時間、人との待ち合わせの間に生じるような、数分の隙間時間を有効活用することがおすすめです。

例えば英単語や専門用語の暗記など、細切れの時間に適した課題を常時用意しておき、いつでもすぐに取り出せるようにしておくのです」(三宮さん)

【3】“苦手”はテレビCMの原理でインプット

「テレビCMは何度も見聞きしているうちに、商品のキャッチコピーなどを勝手に覚えてしまいますよね。その原理を学びにも当てはめるのです。

“これは覚えにくい”と感じるものは、お手洗いの壁やベッド周りなど普段から目に届くあらゆるところに掲示します。常に目に入るところに文字があれば、知らず知らずのうちに覚えることができます」(三宮さん)

例えば、試験の過去問アプリをスマホにインストールしておき、隙間時間で問題を解いて、間違えたところを就寝前におさらいしつつ、壁の“暗記ポスター”に書き加えるのも一つの方法でしょう。

自分の特性に合う学習法を取り入れる

隙間時間の活用のほか、少ない勉強時間で効果をあげる方法も知っておきたいところ。そのためには、まず学習者としての自分の特性を熟知することが大切だと、三宮さんは説きます。

「例えば、まとまった時間に集中して勉強する“集中学習型”と、短時間に分散させて学ぶ“分散型”、自分はどちらが合うのか。

また、具体例から入るほうがいいのか、まずは原理を理解してから具体例に進むほうがいいのか。自分に向いている学習方略を選び、自分流にアレンジしてみては。

暗記に関しては、まず子ども時代と同様の学び方では通用しにくい年齢だと念頭においておきましょう。大人になると加齢に伴い記憶力も落ちていきます。その半面、さまざまな社会経験があるのが大人の武器。丸暗記に挑むより、経験と結びつけて理解するほうが覚えやすくなります」(三宮さん)

そうしてインプットした内容は、随時アウトプットすることで記憶として脳に定着していきます。

「ある程度読んで頭に入ったなと思ったら、問題集を使ったり、穴埋め問題を作ったりしてテストに切り替えてみて。テスト中は、間違えないように、ちょっと緊張しながら頭の中を探索し記憶を思い出していきます。この記憶をたぐり寄せるアウトプットの行為こそが、記憶の定着を促すのです」(三宮さん)

アウトプットの方法として、学んだ内容を口に出して家族や周りの人に説明するのも、効果的だと言います。

「難易度の高い勉強であっても、小学生でも理解できるくらい嚙み砕いて丁寧に説明してみましょう。そこで説明が詰まってしまうのは、わかったつもりでも本当は十分にわかっていなかったということ。自分が何を理解して、何を理解していないのかが明確になれば、弱点の補強になります」(三宮さん)

このとき、相手からどんどん質問を受けて答えていくと、より記憶に定着しやすくなるといいます。

家族と過ごす時間の中で学びを深められれば、家族との時間もある程度確保できそうです。

心理学の専門家である三宮真智子先生が、賢い頭の使い方を指南する新書『メタ認知‐あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)。

※ママパパの学び直し(リスキリング)は全5回(公開日までリンク無効)
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さんのみや まちこ

三宮 真智子

Machiko Sannomiya
大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授

専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。大阪大学人間科学部を卒業後、同大学大学院で学びを続け、1985年に大阪大学で学術博士を取得。その後は鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。 主な著書に『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)、『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)、『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など。

専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。大阪大学人間科学部を卒業後、同大学大学院で学びを続け、1985年に大阪大学で学術博士を取得。その後は鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。 主な著書に『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)、『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)、『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など。

さくらだ ようこ

桜田 容子

ライター

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。