Nスペ「不登校から考える」が大反響 教育現場・不登校経験者たちの〔徹底討論〕で分かった学校に足りないもの・必要なもの
NHKチーフプロデューサー・岡本朋子さんに聞いた「“学校”のみらい」#2~学校の課題
2024.01.27
ライター:星野 早百合
『NHKスペシャル“学校”のみらい~不登校30万人から考える~』(NHK総合)が1月27日(土)に放送されました。
第1部では国内外の子どもを主体とした学校やフリースクールの取り組みを紹介。第2部では文部科学省の初等中等教育局長や、学校改革に取り組む教師、子どもを支援する専門家の方々、不登校経験のある若者などで徹底議論。現在の学校の在り方、また、日本の教育に対してさまざまな立場から話し合いました。
不登校の小中学生が30万人に迫る今、子どもたちが意欲的に通う学校に変わるために必要なものとは――?
番組を制作したNHKチーフプロデューサー・岡本朋子さんと共に番組の名シーンを振り返りながら、“学校”の未来について考えます。
※2回目/全2回(#1を読む)
学びたい気持ちが学校へ行くモチベーションに
――「“学校”のみらい~不登校30万人から考える」の第1部では、今までの学校の常識をくつがえすような国内外の教育現場が紹介されました。岡本さんは、どのシーンが印象に残っていますか。
岡本朋子さん(以下、岡本さん) ひとつは、山形県の天童中部小学校ですね。今から6年前、前校長が「子ども主体の学校にするんだ」と熱い思いを持って学校改革を行った小学校です。
一斉授業が全体の8割、子ども自身が学び方を選択する授業が2割あり、その中には「フリースタイルプロジェクト」という、自分の興味のあることを自由に学んでいい時間があります。
大好きな漫画を100話も描いた子どももいれば、「透明感を出すには、こうやって……」と、熱心にお化粧に励む子どもも(笑)。いろいろな子どもたちがいて、おもしろかったですね。
大人はどうしても「子どもの学力にどうつながるのか」ばかりを考えがちですが、自分の好きなことが学べたら子どもは当然楽しいし、周りから褒められたら自信になり、学校へ行くことへのモチベーションになります。
天童中部小学校の子どもたちの真剣な表情は素敵でしたし、イキイキとしていましたよね。そもそも学校改革は不登校対策で始めたことではありませんが、今、不登校の子どもはいないそうです。
――その一方で、戸惑い苦悩する先生たちの様子も取り上げられていました。
岡本さん 日本の学校には学習指導要領があり、それらを必ず終えなければならない。加えて、学校改革の結果も残すにはどうしたらいいのか。子どもたちのために試行錯誤する先生たちの姿が印象に残っています。
子どもに任されている授業ではなく、一斉授業のほうが向いている子どもももちろんいますから、「どこまで手を出せばいいのか悩む」とおっしゃっている先生もいました。
ただ、「すぐに結果には結びつかないかもしれないけれど、子どもたちの生きる力になるはずだ」と、手ごたえを感じているようでもありました。子どもを思う先生の気持ちは、必ず子どもたちに伝わりますよね。
大切なのは子どもたちの選択肢を増やすこと
――第2部では、日本の教育の課題についてさまざまな議論が交わされました。特に印象的だった出演者の言葉は何でしょうか。
岡本さん 麴町中学校の元校長で学校改革を実践されてきた、横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生の「子どもたちは、生まれたときはみんな主体的な生き物。教育を受ける中で、どんどん主体性を失って、受け身になっていく」との言葉です。
悲しいことですよね。私を含め、大人たちは良かれと思って、子どもに「あれやれ」「これやれ」と言ってきましたが、今までの日本の教育のままでは、子どもが受け身になってしまうと問題提起してくださっています。
また、小学3年生から学校外の学びの場・デモクラティックスクール(※1)で育った現役大学生の蓑田道(みのだ・たお)さんは、「5教科的な学びをやらないスクールに通ったが、そのなかで自分は何がやりたいのかをとことん考え、探求することができたのはよかった」と。「学校でもそうした時間があるといいな」とも話していました。
※1=子どもたちが自ら学びたいことや運営方針を決める学校
「あれやれ」「これやれ」と言われない場合、子どもは自分で何がしたいのかを考えなければなりません。言われたことをやればいいわけではない学び、工藤先生とは表裏の問題提起ですよね。
また、工藤先生は「不登校が問題にならない社会、学校になればいい」ともおっしゃっていました。学校に行きたければ行けばいいし、行きたくないなら行かなければいい。教室にいたければいればいいし、嫌なら学校のどこにいてもいい。
昔に比べれば選択肢は増えたかもしれませんが、第1部で放送した韓国やフランスのように世界を見ると日本はまだまだ。「教育=学校」という考えが当たり前のように根付いていますが、そうではない。
学校が合う子もいれば、合わない子もいるわけですから、自分に合った道を選べるように、もっと選択肢が増えることが大事なのかなと思います。
――学びにもいろいろな種類がある、ということですね。
岡本さん そう思います。進学や受験が力になる子ももちろんいます。一方で、勉強が不得意な子、興味を持てない子もいて、そういう子どもたちは「学校へ行ってもしょうがない」「どうせできないし」と思いがちです。
いろいろな子が自分に必要な学びができるように学校が変わるといいなと思いますし、どういう学校ならいいのか、子どもと一緒に考えられたらいいですね。
大切なのは子どもの声を聴いて話をすること
――番組では放送できなかった取材時の裏話などはありますか。
岡本さん 自由な学びを重んじた韓国の「代案学校」では、一般的な学校と比べて必修科目が半分程度と少なく、残りはAIでも漫画でも何を学んでもいいのですが、先生からもう少し5教科的な学び、いわゆる勉強を増やしたほうがいいのではないかと意見が上がったそうです。対して生徒たちからは、「増やしたくない」との声。
そこで、先生と生徒たちの話し合いがあったのですが、生徒は「今でもやりたいことを学べる時間が少ないのに、さらに減ってしまう。先生が増やしたい5教科的な学びが、僕らの人生に何の意味があるのかわかりません」と、先生に自分の意見をしっかりと伝えていました。
素晴らしいなと思いましたね。日本でも校則をどうするか、先生と生徒が共に話し合う学校が取り上げられることがありますが、学校の在り方、カリキュラムの組み方まで子どもの意見を聞くなんて、日本の学校ではなかなかないと思います。
でも、“子どもの声を聴く”って、こういうことですよね。きちんと声を聴けば、子どもは大人から対等に扱われているとわかります。すると、子どもは本当のことを言えるようになる。自分に自信が持てたり、自己肯定感を高めることにもつながるのではないでしょうか。
――日本の学校には、まだまだ考えるべき課題が山積みですね。
岡本さん 本当にたくさんの課題があると思います。いじめ、不登校、先生たちの多忙さ。教育格差ということも言われていますが、家庭環境もそうですし、発達障害の子どもや、外国にルーツを持つ子どもも増えています。性的マイノリティの子どもたちも可視化されるようになったことで、自分で認識する子も以前より多くなっただろうと思います。子どもが多様になっているのです。
そもそも時代は変わり、子どもたち自身がインターネットなどでいろいろな情報を手に入れられるようになりました。
そうしたなか、学校で一斉に同じことを同じ進度で勉強することの意味は何か。学校での勉強が、本当に子どもたちが求めているものなのか。その現状に日本の学校は対応しきれていないのかなとも感じます。
日本の学校は今まで、子どもたちに“言うことをきかせる”ことに注力しすぎてしまい、子どもたちが本当の意味で“言うことができる”学校はどれだけあるのかなと思います。
番組でご紹介した海外の学校や取り組み、日本で変わろうとしている学校は、子どもたちが“言うことができる”学校、子どもたちの“声を聴ける”学校をめざしているのではないでしょうか。
それが現実となり、ひとりひとりの子どもと丁寧に話ができる環境さえ整えば、学校が抱えているさまざまな課題は、大きな問題にはならないのかなと思います。
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【再放送】『NHKスペシャル“学校”のみらい~不登校30万人から考える~』(NHK総合)
2024年1月31日(水)
・第1部再放送 午前0時35分~1時20分(火曜深夜)
・第2部再放送 午前1時20分~2時9分(火曜深夜)
【ラジオ特番】
ラジオ特番生放送『ラジオでNスペ・“学校”のみらい』(NHKラジオ第1)
・2024年2月3日(土)午後8時5分~
ラジオ特番『ラジオでNスペ・“学校”のみらい』を生放送!!『NHKスペシャル“学校”のみらい~不登校30万人から考える~』を見て、視聴者が感じた意見を「君の声が聴きたい」プロジェクトのHPで募集中。
●関連サイト
・『NHKスペシャル』公式
・『NHKスペシャル』“学校”のみらい~不登校30万人から考える~第1部
・『NHKスペシャル』“学校”のみらい~不登校30万人から考える~第2部
・「君の声が聴きたい」プロジェクト
・NHKスペシャル公式X(旧Twitter)@nhk_n_sp
・「君の声が聴きたい」公式X(旧Twitter)@nhk_kimikoe
取材・文/星野早百合
星野 早百合
編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。
編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。