人見知りの内気な少女が、美大・就職・留学・そして絵本作家に 『リリとネネのどんぐりパンケーキ』のやさしい世界
子ども時代、極度のはずかしがりやだった田島かおりさんが描く、小さいりすと小さいねずみが懸命に生きる物語
2024.09.21
目次
森のかたすみにある小さな世界
小さな世界が好きなんです。道具も何も小さくて、そうした小さな世界を描いていると、とても楽しくて、いつまででも描いていられます。
主人公が、りすとねずみになったのは、もともと自分の名刺の絵にしたり、展示の際、りすとねずみ、うさぎ(後に「しろうさちゃん」に)をキャラクターとして描いたりして、ずっと親しんできたからです。
やっと描けた、りすとねずみの物語
描きたい絵のラフを並べながら、おはなしをつくっていきました。何度、ラフを描き直したでしょうか。新しいラフができあがるたびに、編集者とおたがいに読みきかせし合って、それを何度もくりかえします。読んだり読んでもらったりしているうちに、しぜんと、あ、ここは直したほうがいいなと気づいていくんです。
いったん気づいてしまうと、取り組まなければなりません。頭を冷やすために、まずはそのまま置いておくんです。そうすると、おふろの中や寝る前など、ふとしたときにはっと思いついたりして、そのたびにメモを取ります。ある程度、頭の中でできあがってきたら、机に座って取り組みます。
ひっそりとした世界
ラフづくりも楽しいですが、やっぱり本描きは、描けば描くほど楽しくて、家で絵を描いているのがいちばん好きです。8割くらいできあがって、最後の2割を描き上げるまでがいちばんよい時間。その時間が待っているので、どの絵もそこに向かって走っています。
はずかしがりやの子ども時代
当時、新宿駅西口に、ムーミンの交通安全の大きな看板があったんですが、家にあった交通安全のパンフレットからムーミンの絵を切り抜いて、画用紙に貼ってコラージュしていました。これはよほど気に入っていたようで、何年にもわたって何枚も作っています。だんだんと、おはなしのようになっていくんですよ。
絵を描くことが大好き
ただ、はずかしがりやの性格はそのままで、クラスメイトと話すということもほとんどなかったんです。なのに、そのころの同級生に今会うと、「絵と字がきれいだった」と言ってもらえるんですよ。びっくりしています。
中学、高校に進んでも、絵を描くのは好きでした。高校の体育祭などでは、看板を描いたりもしていました。ただ、絵で身をたてられるとは思っていなかったんです。美容師とか調理師とか、手を動かす職業に就けたらと思っていて、進路相談のときにそんなことを話したら、家政科をすすめられました。
そのときに、それなら美術の道に進みたいと思いました。その瞬間、美術大学を目指すスイッチが入りました。
1週間後には、美術大学に入るための予備校に通っていたんです。予備校はとても楽しくて、週6日、絵を描くためだけに通っていたのですが、なにしろ黙々と絵を描いていました。絵がだんだんとうまくなっていくのが自分でもわかりました。
自分には才能がないかもしれない
一方で、いろいろなひとがいたからこそ、自分には才能がないかもしれないとも思っていました。だから、絵の道に進むというよりは、ふつうに就職しなければと思っていたんです。
ある日、大学の就職課の募集情報を観ていて、作家・池田あきこさんの「わちふぃーるど」の企画デザイン室の存在を知りました。まともに働けるのだろうかと不安はありつつも、もともとかわいいものが好きで美大に行ったので、キャラクターを扱う会社の情報などは見ていたんですね。
池田あきこさんのデザイン室に就職
仕事は楽しかったけれど、その一方で、どこかでずっと自分にはデザインの仕事は向いていないのではとも思っていました。同僚にニューヨークの美術大学に行ったひとがいて、ときどき、その人からアメリカ留学のしかたをきいていたんです。じつは、ずっとアメリカに住んでみたいという希望を持っていました。その夢をかなえようと思いました。
夢のアメリカ留学
絵本作家の道へ
そのころ、とても好きだった絵本作家の酒井駒子さんが「あとさき塾」という絵本塾に通っていらしたのを知り、自分も通ってみようと思い立ちました。そこで、本格的に「絵本」に出会ったのです。
絵本は、読み始めたらおもしろくて、これは本気でやりたいものだと思いました。「あとさき塾」に通い始めて2~3ヵ月のころに、ひとつのラフを作りました。今から思えばややアート寄りのラフだったのですが、それをもとにした作品を、ピンポイント・ギャラリーの絵本コンペに応募したところ、良いところまで行けたんですね。
その後、気分転換にと、板橋区美術館で行われている「夏のアトリエ」に参加しました。イギリスで唯一、絵本学科があるというアングリア・ラスキン大学のマーティン・ソールズベリー教授の授業を受講し、そのときは、久々に英語に触れられたのもうれしく感じました。
その後、「夏のアトリエ」で知り合った方々と、ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアに行ったんです。海外の出版社のブースをまわり、Lirabelleというフランスの出版社にピンポイント・ギャラリーコンペ応募作品を見せたところ、まさか気に入ってもらえて、『NEIGE』の出版にたどりつきました。フランスが絵本作家としてのデビューでした。
『リリとネネのどんぐりパンケーキ』ができあがって
今、『リリとネネのどんぐりパンケーキ』ができあがって、自分がずっと絵を描くのが好きだったことを実感しています。そしてあらためて、絵を描く仕事をしている幸せをかみしめています。
リリとネネの物語は、まだまだ頭の中で続いています。ふたりの世界をもっと描きたいです。リリとネネの絵本としてシリーズ化されたらと願っています。
田島 かおり プロフィール
絵本作品に、『パパはまほうのケーキやさん』『おべんとうはママのおてがみ』(教育画劇)、『はずかしがりやの しろうさちゃん』『しろうさちゃんとおねえちゃんの かえりみち』(ポプラ社)、『ちゅんたろうのしょうがっこうたんけん』(白泉社)、『ちいさないえのりすいっか』(文・はせがわさとみ 白泉社)などがある。またフランスでは、『NEIGE』『Quand vient le PRINTEMPS』(Lirabelle)が出版されている。
田島 かおり
東京都生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。キャラクターグッズデザイナーを経て、絵本作家に。 絵本作品に、『リリとネネのどんぐりパンケーキ』(講談社)、『パパはまほうのケーキやさん』『おべんとうはママのおてがみ』(教育画劇)、『はずかしがりやの しろうさちゃん』『しろうさちゃんとおねえちゃんの かえりみち』(ポプラ社)、『ちゅんたろうのしょうがっこうたんけん』(白泉社)、『ちいさないえのりすいっか』(文・はせがわさとみ 白泉社)などがある。またフランスでは、『NEIGE』『Quand vient le PRINTEMPS』(Lirabelle)が出版されている。
東京都生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。キャラクターグッズデザイナーを経て、絵本作家に。 絵本作品に、『リリとネネのどんぐりパンケーキ』(講談社)、『パパはまほうのケーキやさん』『おべんとうはママのおてがみ』(教育画劇)、『はずかしがりやの しろうさちゃん』『しろうさちゃんとおねえちゃんの かえりみち』(ポプラ社)、『ちゅんたろうのしょうがっこうたんけん』(白泉社)、『ちいさないえのりすいっか』(文・はせがわさとみ 白泉社)などがある。またフランスでは、『NEIGE』『Quand vient le PRINTEMPS』(Lirabelle)が出版されている。