「我が子を嫌いになってしまう」 人生相談が示す「子育て」の助言

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室〔06〕

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

孫・F菜と一緒に牧場へ。元気にF菜と遊ぶため、ジイジは(ゆるーく)ダイエットを始めました。いつまでも軽やかに抱っこできるジイジでいたいのです。  写真:おおしたなつか

パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。
500冊を超える人生相談本コレクターで、2歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。

今回は、「自分の子どもが嫌いです」というママ(5歳男児の母33歳)のお悩み。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?

我が子が嫌いと思う母親だって苦しい

親にとって子どもは無条件にかわいい……とは限らない。いろんな原因がからみ合って、わが子に「嫌い」という感情を抱いてしまう親もいる。息子のやることなすこと腹が立つという相談者。「母親が子どもを嫌うなんて」と自分を責め、自己嫌悪にさいなまれているという。人生相談の回答は、深刻な苦しみにどんな救いの手を差し伸べてくれるのか。

25年前(1996年)、一冊の分厚い本が世の中を震撼させた。『「読んでくれて、ありがとう」ここに192人のママがいる』(プチタンファン編集部・編)である。以前「一人っ子」の回(#2)でも取り上げた。育児雑誌の読者投稿ページから生まれた本で、口にするのはタブーとされていた「子どもをかわいく思えない」「私、虐待していました」など、ママたちの悲痛な告白や苦悩がギュッと詰まっておる。

「わが子が嫌い」に関するやり取りの一例を紹介しよう。

〈私は2歳10カ月と1歳1カ月の2児の母です。上の子との関係に悩んでいます。(中略)下の子が生まれ、次々と私を困らせようとする上の子が、だんだんとかわいく思えなくなってしまい、上の子が何かするたびにたたいたり、傷つけるような言葉を言うようになってしまいました。(中略)一度怒りだすと自分で止められなくなってしまい、たたいてしまう毎日です〉(神奈川県・匿名希望)

〈私にも同じような経験があり、本当にしんどいだろうなと思ってお便りしました。(中略)子育ては苦行だし、子どもはルールのない小悪魔。そんな中で、ストレスがたまって子どもに当たってしまうのも当然と言えば当然で、それに対して母親が罪悪感を持つ必要はないと思います。「こんなことじゃいけない」と思ってしまうのは、「母親というものは、いつも子どもがかわいくて、暖かい(原文ママ)目で優しく包み込むようなもの」という理想があって、そうでない自分は、母親失格と、自分で自分に烙印を押してしまっているからではないでしょうか。私はそんな理想の母親は、人間じゃないと思いますが〉(岡山県・KM)
(初出:育児雑誌『プチタンファン』の読者投稿ページ「プチ・プラザ」。引用:プチタンファン編集部・編『「読んでくれて、ありがとう」ここに192人のママがいる』1996年、婦人生活社)

1通目の手紙の主を「ケシカラン!」と非難するのは簡単である。しかし、それではますます追い詰めるだけで、何も解決しない。

2通目の手紙の主は、もがき苦しんでいる“仲間”に寄り添い、理想の母親を目指さなくてもいい、母親失格だと自分を責めなくてもいいと慰めている。同じ状況にある多くの母親が心救われたのはもちろん、事態を改善するきっかけを与えて、母親以上に苦しんでいる子どもにとっても救いとなったことじゃろう。

子どもと少し離れる距離も大事

続いては、ラジオ番組に電話で寄せられた【今、とても下の子が嫌いなんです】という相談。下の子の小1男子は、外ではおとなしいけど家の中ではいばっていて、母親や中1の姉の嫌がることばかりする。そういう子が「嫌い」で「この頃無視する」と言いつつ、「もっと子どもに接触することが必要なんでしょうか。この前『僕なんていないほうがよかったんだよね』ってポロッといったものですから、ちょっとかわいそうになって」という反省の言葉も。精神科医の崎尾英子さんは、電話口でこう諭す。

〈小さい時に甘やかしているのなら「親は自分を大事に思ってくれている」という安心感は、かなり身についていますから、あまり心配しなくていいでしょう。(中略)子ども同士で始末をつけるけんかはいいものだと考えて、お母さんはそこから離れるようにしてください〉
(初出:NHKラジオ『こどもと教育電話相談』。引用:NHKラジオセンター、NHKプロモーション・企画監修『NHKこどもと教育電話相談』1991年、ブロンズ新社)

回答者は母親が子どもを離れて見ていられないことが、未熟な下の子への「嫌い」を募らせる一因だと推察し、まずは距離の取り方を見直すことを提案している。やり取りの中には、休日は趣味で忙しい夫に「もっと子どもの世話をしてください」と言えない相談者と協力しようとしない夫に対して、回答者が首をかしげるくだりも。自分ですべてを抱え込もうとして、たまったストレスが下の子にぶつけられているようにも見える。

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