絵本ナビ編集長がおすすめする 3歳の子どもが読むのにぴったりな絵本

絵本の情報サイト「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんが『絵本と年齢をあれこれ考える』エッセイ第6回

磯崎 園子

もちろん彼らは絵本を通して勉強をしているわけではない。純粋に絵本を楽しむ中で、少しずつ自分と重なる感情の種類を身につけていく。

『だるまちゃんとてんぐちゃん』(かこ さとし・作・絵 福音館書店)で、お父さんが家じゅうから引っ張りだしてきた帽子やうちわを並べ、その様子を眺めているのはたまらなく楽しい場面。
「だるまちゃんとてんぐちゃん」
けれど、そのきっかけとなっているのは、だるまちゃんがてんぐちゃんをうらやむ心。てんぐちゃんの持っているのと全く同じものがどうしても欲しい。幼少期からかなりの欲張りだった私にはよくわかる。一時も頭から消えないのだ。

だけど、それはつらいばかりではない。その気持ちが発端となり、新しい遊びへとつながっていくこともあるのだ。

その感情には理由がある?

こんな風に、いくら相手のことが見えてきたからといって、3歳というのは2歳の続き。

イヤイヤ期だってまだまだ終わらない。安定してくるのは、もっとずっと先のこと。よく泣き、よく笑い、よく怒る。だけど確実に違ってくるのは、その感情には理由があるのだということ。
「おむかえ」
『おむかえ』(ひがし ちから・作 佼成出版社)の中で、朝からずっと泣き続けているのはこたろうくん。保育園に入ったばかりの彼が泣くのは、とにかくお母さんが大好きだから。お母さんじゃないと嫌だから。

そんなに簡単に気持ちを切り替えられるものではない、けれど……。思いっきり泣くのも、頑張って乗り越えるのも、やっぱりお母さんに甘えるのも。どの感情も3歳の子には全部大切なもの。無理にしまい込まなくたっていい、全部包み込んであげるのが大人の役目だからねと、この絵本は語る。
「ほげちゃん」
ぬいぐるみの『ほげちゃん』(やぎ たみこ・作 偕成社)が怒るのは、堪忍袋の緒が切れたから。なにしろぬいぐるみですから、そりゃあ苦労も多いよね。その怒り方ときたら、ティッシュを散らかし、ソファーで暴れ、ごみ箱を蹴っとばし、あげくの果てに……。

でも、全てをやり終えたほげちゃんは、なんだかスッキリ幸せそう。あれだけ怒れれば立派なもの。自分のことはさて置いて、子どもたちはほげちゃんをあたたかい目で見守っている。
一方で、日常では参考にならないほど圧倒的で強烈な存在感を放っているのが『三びきのやぎのがらがらどん』(ノルウェーの昔話 マーシャ・ブラウン・絵瀬田 貞二・訳 福音館書店)に登場するトロル。なにしろ自分(やぎ)のことを食べようとしているのだ。
「三びきのやぎのがらがらどん」
相手を思うような余地なんてない。ところが、主人公である絵本の中の三びきのやぎは、その機転と勇敢さでトロルをこてんぱんにしてしまう。これもやっぱり痛快な体験なのだろう。

「低い声を出して真似をする」「兄弟でたたかいごっこをはじめる」などのレビューにもある通り、子どもたちは、読んだ後でも、このやり取りを喜んで再現しては楽しんでみせる。極端な恐怖と安堵の繰り返し、これは絵本の中でしか体験できない感情であり、彼らはそれをわかっている。

見逃せないもの

「はじめてのおつかい」
お買い物という日常のシチュエーションで、主人公の女の子の心の中にぎゅっとスポットを当てているのが『はじめてのおつかい』(筒井 頼子・作 林 明子・絵 福音館書店)。百円玉を二枚握りしめ、緊張と不安の中、お店の人に大きな声で呼びかける。

「ぎゅうにゅう くださあい」。この瞬間に、どれだけの勇気が必要だったろうか。絵本を読みながら、多くの子どもたちは励まされるのである。周りの景色が見えてくるということは、社会との関わりの始まりでもある。関係性も感情も、こうしてどんどん複雑になっていく。
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