考えるのが好きな人、描くのが好きな人
矢部太郎
僕は芸人ですが、今はマンガの仕事も多くいただいています。そこらへんも、絵本作家を軸として活動しているひろたくんとは近いものを感じていて。
ひろたあきら
確かに、日々思っていることとか、似ているでしょうね。僕もお笑いが好きだし、ネタを見るのも楽しいので、M‐1とかを見るとめちゃくちゃ感動するわけです。で、「僕ももっと面白いのを作ろう」と机に向かって作り出したのが、絵本だった。そのとき、「僕はもう絵本作家なんだな」と思いました。
矢部太郎
ああ、ひろたくんの気持ちの向かう先が絵本だったんですね。
ひろたあきら
矢部さんはマンガ以外で、何か考えたりすることはありますか?
矢部太郎
うーん、僕の場合は今は日常的にネタを作ったりもしませんし、普段から「考えよう」という意識はなくて、「締め切りが来るから、考えるか」という感じなんです。だから前、ひろたくんに「絵本を作るときに、いちばん好きな作業は何ですか?」って聞いたら、「考えることです」と言っていて、すごいなと思いました。
ひろたあきら
はい。描くのは大変だしつらいから、あまり好きじゃないんです。でも矢部さんは僕と逆で、考えるのはつらくて、描くほうが楽しいとおっしゃっていましたよね。
矢部太郎
そうです、そうです。
ひろたあきら
だから「絵本を一緒に作りましょう」という話をしたんですよね(笑)。
矢部太郎
そうでしたっけ? 全然覚えていない!
ひろたあきら
僕が考えて、矢部さんが絵を描いて、お互いに好きなことをやればいいねと(笑)。
矢部さんのお父さんも、絵本作家なんですよね。「いつか“たろう”という主人公が出てくる絵本を作りたい」とおっしゃっていたというお話を聞いて、僕もいいなと思っていて。
矢部太郎
お父さんの「たろう」絵本、まだ作られていないんですよね。もう、構想30年以上だと思うんですけど(笑)。
ひろたあきら
“ヒョロヒョロたろう”とかどうでしょう? 太郎って“金太郎”とか“桃太郎”とかで力強いイメージがあるので、その太郎がヒョロヒョロって、なんだか素敵なお話ができそうだなって。
矢部太郎
すごいな。ひろたくんはやっぱり、考えるのが好きなんですね~。
好きになった「入り口」
ひろたあきら
佐々木マキさんや長 新太さんとか、僕は絵本を通じて作家さんを知ることが多いんですけど、実は絵本作家さんってマンガ家でもあったり、マンガを描いている人も多いんです。矢部さんは、絵本作家の描いているマンガに詳しいですよね。
矢部太郎
僕のマンガ好きは明らかに、父の影響もあります。父は長 新太さんが好きで、彼の絵本だけでなく、マンガなども家にいっぱいありましたから。
ひろたくんは何歳ぐらいで、絵本の世界にハマったんですか?
ひろたあきら
僕は大人になってから、絵本を好きになりました。子どものころは、絵本にほとんど触れていなくて。それこそ、僕が絵本にハマったきっかけが、長 新太さんなんですよ! ネタ作りのために絵本を探していて出会った『ゴムあたまポンたろう』に、大きな衝撃を受けたんです。
矢部太郎
そうだったんですね。面白いなぁ~。
絵本の読み聞かせは「夏フェス」ぐらい盛り上がる!?
ひろたあきら
僕は絵本の読み聞かせ会をするなかで、デビュー作『むれ』をつくったんですが、読み聞かせ会ってすごいんです。盛り上がるときは、夏フェスぐらい盛り上がります!
矢部太郎
いや、冗談でしょ!
ひろたあきら
本当です! 最初のころ読み聞かせ会では、文章の長い物語系を読んでいたものの、本当に反応がなくて。お笑いの環境に慣れていたから、何も反応がないとスベっている感覚になってきて……。それでだんだんと、参加者の子どもに「これ、なんだと思う?」と尋ねたり、指さしたりしてもらえるような読み聞かせに方向性を変えたんです。
矢部太郎
なるほど!
ひろたあきら
子どもたちは盛り上がると、うわーっと前に来ますよ。僕の肩に飛び乗って、本を指さすような子もいましたから。
矢部太郎
それは確かに、盛り上がっていますね! 絵本の力ってすごいですね。
ひろたあきら
たとえば長 新太さんの作品、僕も大好きなんですけど、独特な世界観じゃないですか。僕は大人の“ツッコミ”的な目線で面白いなと思うんですけど、子どもに読み聞かせをしたら、何もアレンジせず、普通に読んでいるだけで大爆笑が起きるんですよ。
矢部太郎
まるで古典落語みたいですね。
ひろたあきら
コロナをきっかけに読み聞かせやイベントの機会が減ってしまいましたが、またいっぱいやりたいですね。
描きたいもの、描けないもの
ひろたあきら
矢部さんは、「今後、こういうものを作りたい」っていうものはありますか?
矢部太郎
僕、そういうのがホントにないんですよね。
ひろたあきら
僕は矢部さんの絵で恋愛漫画を描いてみてほしいなと思ったんですけど。
矢部太郎
僕、恋愛の話は恥ずかしいんですよ……。そもそも「なんで世間の人ってこんなに恋愛の話をしているんだろう?」という思いがあって。ほかにも世の中にはいろいろな話題が溢れているはずなのに。
ひろたあきら
皆さん、恋バナ好きですよね。映画もドラマも、恋愛をテーマにしたものが多いですし。
矢部太郎
そう。その世界が、僕は怖いんです。だから僕が恋愛漫画を描いたら、きっとホラーテイストになっちゃうと思います(笑)。そういえば、僕の「大家さんと僕」も恋愛マンガだと読んでくださる方もいて、もう描いてたかもです(笑)。 でも人から「こういうの、どうですか?」って提案してもらうのは面白いですね。
ひろたあきら
はい。僕も、人から「こういうの作ったら?」って言われたいので。
矢部太郎
ひろたくんは、漫画は描かないんですか?
ひろたあきら
描けないですね。描いたこともないし、難しいし。それこそ、全部絵本になっちゃうと思います。
矢部太郎
でもたとえば長 新太さんは、漫画も描くじゃないですか。
ひろたあきら
確かに。だから10年後、20年後に「描いてみよう」となるかもわからないです。でも今はとにかく、絵本をたくさん作りたいです!
矢部太郎
ひろたくんはたくさん絵本を読んでいて、絵本の世界をリスペクトしている。そのうえで、自分の新しい絵本を作りたいという気持ちがある。それがとっても素晴らしいなと思います。
ひろたあきら
お笑いをやってきたから作れる絵本やマンガ、ほかの人には作れないものってきっと、あるのかなと思っています。
矢部太郎
芸人の世界と、ひろたくんの感性が融合した絵本!
ひろたあきら
いっぱい出したいですね。
矢部太郎
本屋さんに、ひろたくんのコーナーができるぐらいね。
ひろたあきら
それ、僕の夢のひとつなんです。実現するように頑張ります!
矢部 太郎
芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。マンガの代表作として『大家さんと僕』『ぼくのお父さん』(ともに新潮社)、『楽屋のトナくん』(講談社)、『マンガ ぼけ日和』(かんき出版)などがある。2024年3月27日に最新作『プレゼントでできている』(新潮社)が発売。
芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。マンガの代表作として『大家さんと僕』『ぼくのお父さん』(ともに新潮社)、『楽屋のトナくん』(講談社)、『マンガ ぼけ日和』(かんき出版)などがある。2024年3月27日に最新作『プレゼントでできている』(新潮社)が発売。
木下 千寿
福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。
福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。
げんき編集部
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki
ひろた あきら
1989年愛知県額田郡幸田町生まれ。吉本興業所属の絵本作家。 2019年2月に刊行した処女作『むれ』(KADOKAWA)が「第12回MOE絵本屋さん大賞2019」の新人賞第1位、「第7回積文館グループ絵本大賞」第1位、「第3回未来屋えほん大賞」の第3位に選ばれるなど多くの絵本賞を受賞。その後も第2作『いちにち』(KADOKAWA)、『ぐるぐるぴ』(講談社)、『にゃおにゃおにゃお』『ちんぽうがき』(ヨシモトブックス)など、精力的に活動を続けている。2021年、幸田町絵本大使に就任。絵本を用いたワークショップや読み聞かせ会を積極的に行う。
1989年愛知県額田郡幸田町生まれ。吉本興業所属の絵本作家。 2019年2月に刊行した処女作『むれ』(KADOKAWA)が「第12回MOE絵本屋さん大賞2019」の新人賞第1位、「第7回積文館グループ絵本大賞」第1位、「第3回未来屋えほん大賞」の第3位に選ばれるなど多くの絵本賞を受賞。その後も第2作『いちにち』(KADOKAWA)、『ぐるぐるぴ』(講談社)、『にゃおにゃおにゃお』『ちんぽうがき』(ヨシモトブックス)など、精力的に活動を続けている。2021年、幸田町絵本大使に就任。絵本を用いたワークショップや読み聞かせ会を積極的に行う。