男児の性被害 幼い子どもから思春期まで 早期発見のポイントと被害を知った親の対応

専門医・山田浩史医師に聞く 男児の性被害#3「SOSのサイン&被害を打ち明けられたら?」

「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長、泌尿器科医:山田 浩史

性被害にあっても親に打ち明けられない子どもは多い。SOSのサインを見逃さないためには?  写真:アフロ

被害者の7割が誰にも相談していない(※1)という「男性の性被害」。

思春期の中高生ごろであればなおさら言いにくいかもしれませんし、幼いと被害を認識できない場合もあることから、男児(0~17歳の未成年)の性被害の実態はよく知られていません。

しかし、「気づかれにくいだけで、性暴力は日常的に起こっている」と、「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」(以下、なごみ)で、男性被害者の診察に当たる山田浩史先生は話します。

今回は、子どもが性被害にあっていた場合に親が早期発見するためのポイントや、被害を打ち明けられたときの親の対応について、引き続き、山田浩史先生に伺いました。

※1=「男女共同参画白書 令和4年度版」

※3回目/全3回(#1#2を読む)

山田浩史(やまだひろし)PROFILE
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院泌尿器科副部長。泌尿器科医。医学博士。「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長。「なごみ」では、性暴力にあった男性(男児)の診察に当たる。

「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長の山田浩史先生。
Zoom取材にて

ちょっとした変化もSOSのサインかも

これまで男性(男児)性被害者の診察に当たる泌尿器科医・山田浩史先生の話を聞き、「自分が我慢すればいい」「慣習的なことだと思った」「被害を認識できない」など、さまざまな理由から、男性(男児)の性被害はこれまで確かに存在しながらも見逃されがちだったことが分かりました。

「もし、わが子が性被害にあっていたら」

親としては想像もしたくないことですが、子どもが言葉で訴えない(られない)ために被害が表面化しづらい面もあります。だからこそ大切なのは、子どもが出すSOSサインを見落とさないことではないでしょうか。

「心身への影響の出方はケースバイケースだと思いますが、日常生活において何かしらの変化が現れることは間違いないでしょう」と話す山田先生。下記は、性暴力を受けた子どもからのSOSサインの例です。

性暴力を受けた子どものSOSサインの例

・頭痛、腹痛、吐き気などの体調不良

・頻尿、お漏らし、夜尿、性器の痛み・違和感

・不眠、睡眠習慣の変化、悪夢、睡眠の恐怖

・過食、食習慣の変化

・情緒不安定

・過剰な性的行動(性器いじり、自慰行為など)

・年齢に不相応な性的行動
など

※参照:あおもり性暴力被害者センターHP

子どもに上記のようなSOSサインが出始めたときは、「困った子だな」などととらえずに、その行動の背景を考えることで手がかりになることも多いはず。また、「これは覚えておいてください」と山田先生は続けます。

「『おちんちんから白いものが』など、幼い子どもが年齢に不相応な性の知識を持っている場合は、何かしらの被害を受けている可能性があります。周りの大人が気づいてあげられるきっかけになるでしょう」(山田先生)

反抗期も重なり、口数が減る傾向も多く見られがちな中高生男児に関しては、「日頃から意識的にコミュニケーションをとって」と山田先生は話します。

「学校や部活内で性被害にあっている場合、親には分からないケースも多いので、小さなことから大きなことまで、普段から親子でよく話すことが大切だと思います。

干渉を嫌がる難しい時期ですが、『何があっても守ってあげる・もらえる』という親子の信頼関係だけは構築しておく必要があるのではないでしょうか。『いやなことがあったらなんでも言ってね』といった、普段からの言葉がけも大切です」(山田先生)

何かあったら相談できる親がいると思えることは、子どもの心のセーフティーネットになります。会話すら嫌がる時期でも、「なんでも言ってね」とひと声かけるなど、「親はいつも気にかけている」という姿勢は伝わるよう心がけたいものです。

子どもから性被害を打ち明けられたら

子どもが性暴力を受けたという事実は受け入れがたく、動揺したり、混乱することもあるでしょう。子どもが性被害を打ち明けてきたとき、親はどう対応すればいいのでしょうか。

「まずは勇気を出して話してくれた事実を受け止め、『話してくれてありがとう』『大変だったね』『辛いところをよく耐えていたね』と、話してくれてよかったといった思いを伝えてください。

『あなたにも非があったのでは?』『油断していたんじゃないの?』などと、否定したり、責めているととらえかねないような対応は絶対NG。さらに子どもを傷つけてしまいます。

また、子どもが性被害を受けたときには、できるだけ精神的な負担をかけずに聴取をする司法面接という方法もあります。小さな子どもの場合はとくに、『誰が何した』というところまでわかったら、被害状況を根掘り葉掘り聞かず、専門機関である『ワンストップ支援センター』に連絡をしてください」(山田先生)

否定をするなどの不適切な対応は、当事者の心がさらに傷つけられてしまう二次被害にもなりかねません。子どもの話すことをそのまましっかりと受け止めたら、あとは専門機関である「ワンストップ支援センター」に相談しましょう。連絡先は最後に記載しています。

ワンストップ支援センター「なごみ」では、医療者や性暴力被害者支援看護師、医療ソーシャルワーカー、支援員などが対応し、どのような支援が必要かを考える。  写真提供:「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」
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