児童養護施設出身モデル・田中れいか「不登校、反抗、自立資金は目標100万円」

児童養護施設出身モデル・田中れいかさんに聞く「なりたい自分になる」 #2~中高生編~

モデル:田中 れいか

小学5年から高校3年まで続けたピアノ。弾くことはもちろん、ピアノの先生の存在も田中さんのかけがえのないものになった。  写真提供:田中れいか

高校3年までスマホが持てずバイトざんまいの日々

中学卒業後は、進学校でもある近くの都立高校へ進学。周りは当たり前のようにスマホやSNSで友だちの輪を広げていましたが、田中さんにスマホはありませんでした。

JK(女子高生)ライフを楽しく過ごすため、アナログで勝負する作戦を自分なりに考えました。女友だちを増やすためにおもしろキャラに転じ、プリクラでは変顔。好かれたい一心で輪に溶け込んだそうです。

「中学時代、無視されたことを教訓にして女子を敵にしないって誓ったんです。門限は早いしお泊まりもできませんでしたが、女子集団に属して、帰りにフードコート寄ったり、カラオケしたり、プリクラ撮ったり。それなりにJKを楽しんでいました」

“生活態度が悪いと携帯電話は禁止”という施設のルールがあり、念願のスマホデビューは高校3年の夏。当時付き合っていた彼氏の番号を真っ先に登録しました。

貯金目標額100万円を突きつけられた高校1年

高校生活はただ楽しいだけではなく、バイトに明け暮れた日々でもありました。

高校1年の10月からバイトを開始。というのも、高校卒業後に自立するための資金を自分で貯めなくてはならなかったからです。

目標金額は100万円──。

施設の職員から示された目標額は、高校生にとって気が遠くなるようなものでした。でも、巣立っていった施設の先輩たちがお金を貯めている姿を見ていたので、当然のこととして受け止めました。

「すき家とサーティワンを掛け持ちでバイトしていました。ほぼ毎日バイトができるようにシフトを入れて、午後6時から働いていました」

施設からの進学率11.4%でも進学を決意、短大へ

バイトに追われながらも成績は「中の上」をキープしていた田中さん。児童養護施設入所経験者の高校卒業後の大学等の進学率はわずか11.4%(2013年度当時)という中、進学を選びます。(※2020年5月現在は17.8% 参考:厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」令和4年3月31日)

進学先に選んだのは、保育士の資格が取れる短期大学。公募推薦で合格を勝ち取りました。

「小さいころから子どもと関わる仕事をしたいと思っていました。ですが、高校生になってファッションの世界にも魅力を感じて、原宿や新宿のファッションの専門学校へ見学もしたんです。

でもそこでファッション業界をよく知る先生と意見がぶつかってしまって。ファッションの仕事で生きていくのは大変だよ、難しいよって言われちゃったんです。

反論はしましたが、先生の意見に従うことにしました。資格がなくて職を転々としているお母さんみたいにはなりたくない、という思いもあったからです」

高校時代のバイトで貯まった金額は約60万円。目標額には到達しませんでしたが、自立のために必死で貯めた大金でした。

そこから短大の入学金やアパートの初期費用など、1人暮らしのための費用を支払います。

合格が決まってから施設を退所するまでの4ヵ月間、自立へ向けての準備が急ピッチで進みました。バイト、アパート探し、家電製品の準備……。いよいよ自立です。

不登校や先生との衝突など、多感な中高生時代を経て、いよいよ自立のときを迎えた田中さん。その先に立ちはだかったのは「18歳の壁」でした。

◆◆◆◆◆
次回は「18歳の壁」に直面したときの様子や、児童養護施設出身者としてモデルの道を歩み始めた経緯についてお届けします。

取材・文/大楽 眞衣子

2021年12月に出版された初の著書『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)。田中れいかさんの生い立ちから、児童養護施設や社会的養護について詳しくわかる1冊。世田谷区長・保坂展人氏との対談も掲載。
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たなか れいか

田中 れいか

Reika Tanaka
モデル・一般社団法人たすけあい代表理事

親の離婚をきっかけに、7歳から18歳までの11年間世田谷区にある児童養護施設で暮らす。退所後、短期大学へ進学し保育士資格を取得。その後、モデルの道に。ミス・ユニバース2018茨城県大会準グランプリ・特別賞受賞。 モデル業のかたわら、自らの経験をもとに、親元を離れて暮らす「社会的養護」の子どもたちへの理解の輪を広げる講演活動や情報発信をしている。 2020年4月社会的養護専門情報サイト「たすけあい」を創設。同年12月より、児童養護施設や里親家庭から進学する子たちの受験費用をサポートする団体、一般社団法人ゆめさぽ代表理事に就任。 著書に『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)がある。 ●田中れいか 公式ホームページ ●インスタグラム tanaka_reika ●ツイッター @tanaka_reika ●社会的養護専門情報サイト「たすけあい」 ●進学応援プロジェクト「ゆめさぽ」

親の離婚をきっかけに、7歳から18歳までの11年間世田谷区にある児童養護施設で暮らす。退所後、短期大学へ進学し保育士資格を取得。その後、モデルの道に。ミス・ユニバース2018茨城県大会準グランプリ・特別賞受賞。 モデル業のかたわら、自らの経験をもとに、親元を離れて暮らす「社会的養護」の子どもたちへの理解の輪を広げる講演活動や情報発信をしている。 2020年4月社会的養護専門情報サイト「たすけあい」を創設。同年12月より、児童養護施設や里親家庭から進学する子たちの受験費用をサポートする団体、一般社団法人ゆめさぽ代表理事に就任。 著書に『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)がある。 ●田中れいか 公式ホームページ ●インスタグラム tanaka_reika ●ツイッター @tanaka_reika ●社会的養護専門情報サイト「たすけあい」 ●進学応援プロジェクト「ゆめさぽ」

だいらく まいこ

大楽 眞衣子

社会派子育てライター

社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」

社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」