7人に1人が「境界知能」 発達障害・知的障害との違い 「就職で苦悩」…医師が解説

「境界知能」の困難と支援の現実 〔小児精神科医・古荘 純一〕第1回

古荘 純一

▲境界知能に該当する人は日本人口の約14%と推測されています。事例をもとに境界知能について詳しく解説します。(写真:アフロ)

IQが知的障害の人(おおむねIQ70未満)と平均的の人(おおむねIQ85~115)の間に位置する「境界知能」、いわゆる「知的ボーダー」を知っていますか?

IQが70〜84の境界知能の人は、日本中で約1700万人、約14%もいるとされています。

境界知能の人は、軽度知的障害の人と同じような困難を抱えているにもかかわらず、あらゆる公的支援からこぼれ落ちてしまっています。

境界知能とはなんでしょうか? そしてなぜ、今問題になっているのでしょうか? 

早くからこの問題に着目してきた小児精神科医の古荘純一先生(青山学院大学教授)に、くわしく教えていただきました。

古荘純一先生

【古荘 純一(ふるしょう・じゅんいち)青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。小児の心の病気から心理、支援まで幅広い見識をもち、教職・保育士などへの講演も行っている】

〔古荘純一先生に聞く「境界知能」の解説は全3回。第1回となる今回は、「境界知能の基礎知識」について伺います。続く第2回では「境界知能の子ども・家庭が抱える課題」について、第3回では「青年期以降の境界知能とその困難」について伺います〕

エントリーシートが書けない…就職活動でつまずいたケース

Aさんは幼稚園のころから発達の度合いがゆっくりでした。しかし、療育相談を受けるほどではなく、小学校では通常クラスに進学。

周囲の理解もあって、そのまま近隣の中学へ入学し、高校も無理のない倍率の学校を選んで受験し、無事に進学できました。

勉強は苦手でクラスメイトともあまり交流せず、いつも教室では一人で過ごしていましたが、真面目な性格で「学校は通うものだ」という信念を持っていたことから、3年間ほとんど休まず通学し、卒業後はAO入試(現:総合型選抜)を活用して大学に進学しました。

大学では家族のサポートもあり、レポートを欠かさず提出して、無事に進級できました。

ところが就職試験でつまずいてしまいます。

▲学校生活は順調だったのに…エントリーシートや面接試験など、臨機応変な行動や応用力が求められる就職活動では、つまづいてしまうケースも(写真:アフロ)

エントリーシートが書けず、面接で志望動機を聞かれても答えられずに、何十社受けても不合格。大学も就職の支援を特別に行ってはいないため、本人は次第に強い不安、抑うつ傾向が強くなり、私のところへ紹介されてきたのです。

Aさんを診察し、知的の問題を考慮してIQ検査を行ったところ、結果は72。

軽度知的障害とされる70はわずかに超えているものの、平均とされる85は下回る、いわゆる「境界知能」であることが分かりました。

では、「境界知能」とはなにか、つぎで詳しく解説します。

「境界知能(知的ボーダー)」とは何か

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