乳児とのやり取りは“テニスのラリー” 発達心理学者が秘訣を解説
発達心理学者・坂上裕子教授「謎行動にはワケがある。もっと知りたい赤ちゃんの気持ち」#2~乳児初期編~
2021.12.06
発達心理学者:坂上 裕子
赤ちゃんに悲しい顔は見せない方が良い?
新生児期に比べて覚醒している時間が長くなった乳児は、親と過ごす時間が増えることで、表情などの変化がわかるようになります。「いないいないばぁ」をすると笑うようになるのは、表情の変化を楽しんでいる証とも言えます。
しかし、そのことがきっかけで、乳児の前では常に明るく振舞っていた方が良いのではないかと考え過ぎる余り、自身の感情コントロールについて悩んでしまう親もいます。
<Q3>
赤ちゃんに向かって百面相をすると笑ってくれますが、例えば日常生活で親が怒った顔や悲しい顔をしているのを見ても、笑うことはありません。赤ちゃんには負の感情をまとった表情はあまり見せない方が良いのでしょうか?
<A3>
「この頃の赤ちゃんは親の表情や声色を区別できるので、そうした親の感情状態は赤ちゃんに伝染します。とはいえ、人は本来、喜怒哀楽があるのが普通。日常生活のなかで、悲しみや怒りを感じることがなかったらおかしいですよね。なので、赤ちゃんの前だからといって、無理に感情を押し殺していつもニコニコしているのも不自然ですよね。
例えば、『顔は笑っているのに声は怒っている』など、発している情報に統一感がないと赤ちゃんはむしろ混乱してしまいます。楽しいから笑っている、悲しいから泣いているなど、赤ちゃんにとってわかりやすいメッセージを発信することは大切です」
赤ちゃんの不思議すらも楽しむのがコツ
生後半年頃までの赤ちゃんは泣いたり笑ったり、さまざまな表情を介して自分の状態を周りの人に伝えています。また同様に、親や周りの人の表情からもメッセージを感じ取っています。そのような乳児期の赤ちゃんと接するうえで、親はどのようなことを意識すると良いのでしょうか。
「何かをしてあげなきゃ、と思うよりもまず、赤ちゃんの“不思議”を楽しめると良いですね。人と仲良くなるためには、まず相手のことを知って、共通点を見つけていきますよね。育児において、コミュニケーションの主導権を持っているのは赤ちゃんです。
テニスのラリーをイメージしてください。どうすればラリーを続けられるかを考えると、もっとも大切なのは相手がどこにどんな球を打ってくるかを目で追うことです。『こういうときはこれが正しいんだ』などと考えすぎずに、『どんな表情をしているか』『どんな言葉を発しているか』に、まずは注意を向けます。
そして、赤ちゃんとラリーが続くよう、赤ちゃんに予測のできるようなわかりやすい反応を返してあげましょう。この時期は、赤ちゃんの方も自分が打ったボールに対して親がどんな返しをするのか探っています。
例えば大人でも、自分の感情が自分でよくわからないときはありませんか? そんなときに、『こう思ったの?』と誰かが自分の気持ちにぴったりと合う言葉をかけてくれると、『そうそう、そんな気持ち』とすっきりしますよね。
赤ちゃんが怒っているときや泣いているとき、『おむつが汚れてイヤだったね、気持ち悪かったよね』と赤ちゃんと同じような表情を作って声をかけてあげると、『わかってくれているんだな』と安心してもらえるはずです。
まじめな親御さんは、赤ちゃんの投げたボールを一球も落とさずに拾おうとしてしまうかもしれませんが、そんな必要はありません。大人でも、相手から常に見つめられて言葉をかけられ続けていると、疲れてきてしまいますよね。刺激が多すぎると感じると、赤ちゃんは自分から顔をそむけます。もし、やり取りを続けている中で赤ちゃんが顔をそむけたら、それは『そろそろ休憩したいな』というサインです」
乳児期の赤ちゃんとのコミュニケーションについて、「赤ちゃんからのボールをどういう風に打ち返せば、さらにラリーを続けてくれるのか、探っていくことが大切」だと坂上教授は言います。しかし、そもそも親が常に怒っているような状態では、「私に近づくな」というサインを赤ちゃんは感じ取り、最初の一球目のボールを打つことができません。
まだ意思を持ってボールを打っているわけではありませんが、乳児期の赤ちゃんがコミュニケーションのラリーをしやすい環境を整え、そのボールにどのようなメッセージが込められて打たれたのかを探ってリアクションを返してあげることが、赤ちゃんとのやり取りを楽しむコツなのですね。
次回(#3)は、生後7ヵ月~11ヵ月の乳児後期の赤ちゃんについて伺います。
取材・文=柳未央(シーアール)
坂上裕子教授のインタビューは全3回。
第3回(#3)は21年12月10日公開予定です(公開日までリンク無効)。
坂上 裕子
青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。専門は「生涯発達心理学」と「臨床発達心理学」。主な研究テーマは、「乳・幼児期における自己ならびに自己理解の発達」「親子関係の変化と親としての発達」「子育て支援」「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」について。著書に『問いからはじめる発達心理学 -- 生涯にわたる育ちの科学』(有斐閣)など。
青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。専門は「生涯発達心理学」と「臨床発達心理学」。主な研究テーマは、「乳・幼児期における自己ならびに自己理解の発達」「親子関係の変化と親としての発達」「子育て支援」「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」について。著書に『問いからはじめる発達心理学 -- 生涯にわたる育ちの科学』(有斐閣)など。