子どもの夢に親がすること・できること 「指導より明るさを」と児童書作家が説く理由 

シリーズ「子どもの声をきく」#2‐4 児童書作家・杉山亮さん~子どもの夢への向き合い方~

児童書作家・ストーリーテラー:杉山 亮

毎年夏は、山梨の小淵沢にある自宅の書斎で子どもたちに物語を語る「物語ライブ」を開催。自宅前には、目印のバス停のモニュメントが。  写真:桜田容子

子どもには失敗する時間がある

僕は「育児に参加しなきゃ」なんて気負いや考えは毛頭なく、ごく自然に、実に楽々と子育てをしてきました。もとは保父でしたし、教育者のような視点で子どもを見ることがあまりなかったからかもしれません。

僕らは夫婦ともに、子どもに対して「こうなってほしい」という願望や期待はあまり持たず、「子どもがなりたいと思うものになれたらいいよね」という感じで見ていましたね。

最後のほうは、子どもは自力で進むことになる。そのとき親はもう手だしもできない。サポートはするけれど、ほとんど後ろから祈るような立場でしかないですよね。

今も昔も、子どもを高偏差値の学校へ……と考える親は少なくありません。それが成功への道と考えるからですね。

でも、失敗したっていいじゃないですか。10代はまだまだ失敗が許されるし、迷っていい時代。何回もまき直しができるから。時間がたくさんあるのが若い人の特権なんですよ。

あとになってみれば、「あの失敗があったから今がある」ということはいくらでもあると思いますしね。そう考えると、最初から失敗しないようにレールを敷いてあげる必要は、必ずしもないのかな、と思います。

もちろん、本人が歩き進めるための“装備”を手伝うサポートはしてもいいと思います。たとえていうなら、安全に乗れる自転車を買ってあげて、それを上手に乗りこなせるように教えてあげること、でしょうか。

だけど、どの道を歩いたらスマートに目的地にたどり着けるかを考えて、「このコースをこう歩いていきなさい」とアドバイスや指導することまでは、必要ないかな。むしろ、子どもを導くことは、一番したくないことでしたね。

技術的な指導よりやさしさや明るさをもちたい

現在、僕は、児童書作家の傍ら、ストーリーテラーとして子どもたちに”物語ライブ”をしてきました。物語ライブとは、自作のストーリーや、古今東西のさまざまな物語を自分なりにアレンジして語り、大人と子どもが一緒になって聞いて楽しむライブです。

もう20年以上、全国各地で累計1000回は物語ライブをしてきました。お客さんは主に、小学生とその保護者。小学校で行うことも多い。

この20年で変わらないところは、明るく楽しい、いい先生のクラスの生徒たちは大体明るくて楽しいという事実。やはり大切なのは先生の人徳になるんでしょうね。

これは親子関係でもいえること。「ああしたほうがいい、こうしたほうがいい」という技術的な指導はいくら行っても、最後は、親のやさしさとか明るさとか、そういうものに戻っていく。

どんなに理屈として正しい路線を示したとしても、親自身が冷たかったり、毎日楽しめない家庭だと、子どもの表情に明るさはやどりにくい。これは理屈じゃないんですよね。

僕は講演もするので、講演で保育士さんと話す機会もあるんですが、中には子どもとうまく関係を築くことができない、自信がない、と悩む保育士さんもいます。そのとき僕は、こう言います。

「とりあえず膝に乗っけて抱いてみたら」

頭で考えたことがうまくいかないのは、「こういうことを言ったほうが子どもにウケるだろう。先生っぽいだろう」といった無意識の考えが、子どもに見透かされているからだと思うんです。

頭で物事を考えてうまくいかないなら、とりあえず抱いておけば、自分の体温は子どもに伝わる。そしてその温かさは役に立つんです。温かくて柔らかいものに抱かれたらみんな幸せだから。それでお役に立てるならお安い御用じゃないですか。

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以上4回にわたってお話しいただいた杉山亮さんによる「子どものことを子どもにきく」。杉山さんがしてきた「子どもインタビュー」をやりたくても、思うように時間が取れないパパママもいるでしょう。

その場合、子どもが今日話した言葉を日記などにつけておくのも一案です。言葉は空気と同様に目には見えないし、記憶からも薄れていきます。

あとから見れば宝物のような子どもの言葉は、いつでもどこでも出てくるとは限らないし、それを聞き流さずキャッチするには、親自身、準備が必要です。

まずは杉山さんが第2回で語ったように、普段から冗談や雑談を言い合える関係、そして温かくて安心できる家庭を構築しておくことがもっとも大切なのでしょう。

改めて、子どもとの関係性を見つめ直す取材となりました。

2022年11月に文庫化され再発売となった『子どものことを子どもにきく 「うちの子」へのインタビュー 8年間の記録』(ちくま文庫)。

杉山亮(すぎやま・あきら)
1954年東京生まれ。離島などでの保父を務めた後、埼玉県でおもちゃ作家として、手作りのおもちゃ屋「なぞなぞ工房」を主宰。現在は山梨県北杜市の小淵沢に住み、児童書作家兼ストーリーテラーとして活動中。『もしかしたら名探偵』『いつのまにか名探偵』など23冊に及ぶ「あなたも名探偵」シリーズ、『ばけねこ』(原作・ポプラ社)などのおばけ話絵本シリーズなど、数多くの児童書を執筆している。ストーリーテラーとして、全国各地の小学校などを廻り、話をする「物語ライブ」も行っている。2022年11月に、かつての単行本を文庫化した『子どものことを子どもにきく 「うちの子」へのインタビュー 8年間の記録』(ちくま文庫)が発売。

取材・文/桜田容子

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すぎやま あきら

杉山 亮

Akira Sugiyama
児童書作家・ストーリーテラー

1954年東京生まれ。離島などでの保父を務めた後、埼玉県でおもちゃ作家として、手作りのおもちゃ屋「なぞなぞ工房」を主宰。現在は山梨県北杜市の小淵沢に住み、児童書作家兼ストーリーテラーとして活動中。 『もしかしたら名探偵』『いつのまにか名探偵』など23冊に及ぶ「あなたも名探偵」シリーズ、『ばけねこ』(原作・ポプラ社)などのおばけ話絵本シリーズなど、数多くの児童書を執筆。ストーリーテラーとして、全国各地の小学校などを廻り、話をする「物語ライブ」も行っている。 2022年11月に、かつての単行本を文庫化した『子どものことを子どもにきく 「うちの子」へのインタビュー 8年間の記録』(ちくま文庫)と、本人のTwitter発のメッセージ集『児童書作家の思いつき: 子どもと子どもの本のためのヒント集』(仮説社)が発売。

1954年東京生まれ。離島などでの保父を務めた後、埼玉県でおもちゃ作家として、手作りのおもちゃ屋「なぞなぞ工房」を主宰。現在は山梨県北杜市の小淵沢に住み、児童書作家兼ストーリーテラーとして活動中。 『もしかしたら名探偵』『いつのまにか名探偵』など23冊に及ぶ「あなたも名探偵」シリーズ、『ばけねこ』(原作・ポプラ社)などのおばけ話絵本シリーズなど、数多くの児童書を執筆。ストーリーテラーとして、全国各地の小学校などを廻り、話をする「物語ライブ」も行っている。 2022年11月に、かつての単行本を文庫化した『子どものことを子どもにきく 「うちの子」へのインタビュー 8年間の記録』(ちくま文庫)と、本人のTwitter発のメッセージ集『児童書作家の思いつき: 子どもと子どもの本のためのヒント集』(仮説社)が発売。

さくらだ ようこ

桜田 容子

ライター

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。