「保育園のお昼寝で夜寝ない」はいつまで続く? 午睡見直しと園への伝え方[医師監修]

#1 医師・小児スリープコンサルタント もりたま先生に聞く「園児の睡眠」~お昼寝の悩み~ (2/3) 1ページ目に戻る

医師・小児スリープコンサルタント:森田 麻里子

国の指針で“お昼寝の常識”が変わった

──東京都足立区や北区、埼玉県戸田市など複数の自治体で、保育園のお昼寝に関して見直す動きが広がっています。どのような背景があるのでしょうか?

森田麻里子先生(以下、森田先生):これまで保育園では、年長まで一律にお昼寝をすることが一般的でした。しかし、国の「保育所保育指針」が改定されたことで、一部の自治体や保育園の考え方が変わり始めています。

かつての保育所保育指針には「日々の生活において、食事・排泄・午睡・清潔などが習慣的に行われるよう配慮し」と記載されていましたが、2000年以降の改訂でだんだんと生活リズムの個人差に配慮する姿勢が打ち出されるようになりました。

さらに、2018年の改定で午睡は「子どもの発達の状況や個人によって差があることから、一律とならないよう配慮すること」と示されたのです。

──なぜ国の方針が変わったのでしょうか?

森田先生:睡眠の研究データが、要因のひとつと考えています。ある調査では、幼稚園児に比べて保育園児のほうが、夜の就寝時間が30分以上遅くなりやすく、さらに朝の機嫌も悪くなりやすいという結果が出ています。

図版01 東京で行われた調査。保育園児は全年齢で就寝が遅め。幼稚園児と比較すると30分~1時間ほどの差がみられる。出典)大井晴策・福田一彦 幼児の昼寝と生活習慣について ─保育園における昼寝のあり方を考える─ 日本家政学会誌 2011年62巻10号 P.678より講談社コクリコが作成
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保育園での長すぎるお昼寝が、結果的に子どもの夜の睡眠を圧迫している可能性があるのです。実際に年中や年長のお昼寝を廃止をしている自治体はまだ一部かもしれませんが、親御さんと相談して時間を短縮するなど、柔軟に対応する保育園は徐々に増えています。

以前と比べて「お昼寝時間について相談しやすくなった」という親御さんの声を私もよく聞くようになりました。

お昼寝で夜11時まで寝られないケースも

──「お昼寝問題」に悩む保護者は多いのでしょうか?

森田先生:とても多くの相談が寄せられます。私がよく聞くのは、「保育園で約3時間もお昼寝があり、夜10時や11時になってもまったく寝てくれない」という悩みです。

夜なかなか寝つけないと、当然朝もスッキリ起きられません。不機嫌なままで朝食もとれず、なんとか引きずって保育園に連れていく……という悪循環に陥っているケースもあります。

──確かにSNSでも、「寝かしつけに2~3時間かかった」「夜10時でも子どもが元気いっぱいで親のほうがクタクタ……」といった投稿をみます。

森田先生:そうですよね。こうした状況では、子ども自身もつらいですし、親の育児負担も大きくなってしまいます。寝室に入ってからも1~2時間眠れずに起きている状態が続き、ストレスを抱えている親御さんも少なくありません。

幼児に必要な睡眠時間と睡眠不足のリスク

──子どもにとって必要な睡眠時間はどのくらいなのでしょうか?

森田先生:個人差があるのであくまで目安ですが、1~2歳で11~14時間、3~5歳で10~13時間ほどです。これは昼寝を含む1日の合計の睡眠時間となります。なお、トータルの睡眠が13~14時間になるのは、夜に12時間程度しっかり眠るタイプのお子さんの場合ですね。

ただ、もっとも大切なのは「夜の睡眠をしっかり確保すること」です。幼児は夜に10時間以上の睡眠をとることが望ましいとする意見が多いです。

夜10時間睡眠を目指すと、昼寝時間は1~2歳で1~3時間、3~5歳は0~2時間程度が目安となります。ただ、個人差があることを大前提に、お子さんの様子をみて調整してほしいですね。

──夜の睡眠時間が短いと、どんな影響があるのでしょうか?

森田先生:睡眠不足になると肥満傾向が強まることがわかっています。これは、食欲を増やすホルモンが増え、逆に食欲を抑えるホルモンが減ることが一因と考えられています。

また、睡眠不足になるとイライラしやすくなったり、集中力や注意力が低下しやすくなったりします。こうした影響は、大人でも子どもでも、睡眠不足であれば誰にでも起こり得ることですね。

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