
【子どもの口のケガ】抜けた・折れた・飲み込んだ! 症状別「応急処置」とは? 〔小児歯科専門医指導医〕がわかりやすく解説
子どもの口のケガ〔宮新美智世先生〕#2
2025.08.13
日本外傷歯学会副理事長:宮新 美智世
「歯を飲み込んだとき」呼吸確認をして119番を!
──次は「歯を飲み込んでしまった」場合です。どこを見て判断すればよいでしょうか。
宮新先生:まず確認すべきなのは、子どもが呼吸できているかどうかです。
歯などが気道に入ると窒息の危険がありますので、まずは落ち着いて次のように対応しましょう。
意識があり、咳き込んでいる場合は、呼吸はできていると考えられます。この場合は、自己判断せず、かかりつけ医や「子ども医療電話相談 #8000」に相談してください。
宮新先生:このとき、歯を無理に指で取ろうとすると、かえって喉の奥へ押し込んでしまう危険があるため注意しましょう。
一方、呼びかけに反応がない、唇や爪が青紫色(チアノーゼ)になっているなどの症状が見られた場合は、すぐに119番に通報し、指示を仰ぎながら異物除去と心肺蘇生を行います。
具体的な異物除去の方法は、年齢に応じて以下の2つがあります。
●乳児の場合:頭をやや下にし、背中を手のひらでしっかりと数回叩く(背部叩打法)
●幼児以上の年齢の場合:背部を強く叩くか、ハイムリック法(横隔膜の下を圧迫し異物を吐き出させる)
これらは、歯に限らず他の異物誤飲にも共通する応急対応です。
──呼吸に問題がなさそうな場合でも、病院で診てもらうべきでしょうか?
宮新先生:はい、飲み込んだ歯がどこにあるかは胸部や腹部のX線で確認することができます。消化器の方に入っていれば多くの場合、自然に便と一緒に出てきます。
──最後に、唇や口の中を切ったときの応急処置を教えてください。
宮新先生:まず知っておいてほしいのは、口の中の出血は唾液に混ざるうえ、子どもがそれを口から出すため、実際よりも出血が多く見えるということです。驚くかもしれませんが、多くの場合、命に関わるような重篤な状態ではありません。
慌てず、次の順で対処しましょう。
1.出血を抑える
出血があるときは子どもが血を飲み込まないように、タオルやガーゼを痛くない部分でくわえさせる。出血を吸収し、周囲が血まみれにならず、親も子も落ち着きやすくなる。
2.傷の洗浄
口の中は粘膜の免疫が非常に強く、浅い傷であれば基本的に自然治癒に。傷の応急処置としては、痛みを感じない程度の弱い流水で、数秒ほどやさしく洗い流す。汚れや細菌を落とすことが目的であり、時間をかけた洗浄は医療機関に任せるのが安全。
3.異物確認
特に唇の赤い部分(赤唇部)をケガした場合、砂や埃が入り込んでいることがある。これを放置すると、傷跡に異物が埋まりケロイドを作ったり、傷跡が目立つ危険性がある。もし、砂や埃などが傷に入り込んでいる場合は、歯科や口腔外科で当日中に処置を受ける。
局所麻酔を使って痛みを無くしたうえで、拡大鏡を使用しながら傷を丁寧に確認し、異物をしっかり取り除く。その後、傷口を清潔にし、必要であれば縫合も行う。
このような専門的な処置を受けることで、傷跡が目立ちにくくなり、唇の形も保ちやすくなります。歯のケガをした際は歯に目が行きがちですが、唇や歯肉も確認し、必要であればきちんと処置を受けてください。

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抜けた歯は“洗わず・乾かさず”、折れた歯片は“湿らせてラップ”、飲み込んだら“呼吸チェック→X線”、そして唇は“当日中の砂取り”。こうした対応を知っておくだけで、あとから残るダメージは大きく変わるのだと実感しました。
次回3回目では、口のケガの回復を早める方法や予防について、引き続き宮新先生にお聞きします。
取材・文/山田優子
子どもの口トラブルは全3回。
1回目 〈タイプ別「緊急度と受診の目安」〉を読む。
3回目 〈治療後のホームケアと回復の目安〉を読む。
※公開時よりリンク有効

山田 優子
フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。
フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。
宮新 美智世
日本外傷歯学会副理事長・小児歯科専門医指導医・歯学博士。 東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業。1991年に歯学博士を取得。2014年10月より東京医科歯科大学大学院小児歯科学分野 分野長(准教授)、2020年には同大学歯学部小児歯科外来の臨床教授に就任。 2021年よりLabo M代表、日本小児歯科学会専門医指導施設「はなここどもの歯のクリニック」指導医としても活動している。 2025年現在は、専門医指導医・認定医指導医としての臨床・研究指導に加え、子ども虐待防止に関する講演活動、「天然歯根管模型」を用いた実習研修会を手がける。 主著書に、歯科医師向けの『歯の外傷で小児が来院したら』(クインテッセンス出版)、パラデンタルや一般向けの『子どもの歯と口のケガ』(言叢社)。 ブログ:https://ammlog.hatenablog.com/ はなここどもの歯のクリニック:https://hanoclinic.com/
日本外傷歯学会副理事長・小児歯科専門医指導医・歯学博士。 東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業。1991年に歯学博士を取得。2014年10月より東京医科歯科大学大学院小児歯科学分野 分野長(准教授)、2020年には同大学歯学部小児歯科外来の臨床教授に就任。 2021年よりLabo M代表、日本小児歯科学会専門医指導施設「はなここどもの歯のクリニック」指導医としても活動している。 2025年現在は、専門医指導医・認定医指導医としての臨床・研究指導に加え、子ども虐待防止に関する講演活動、「天然歯根管模型」を用いた実習研修会を手がける。 主著書に、歯科医師向けの『歯の外傷で小児が来院したら』(クインテッセンス出版)、パラデンタルや一般向けの『子どもの歯と口のケガ』(言叢社)。 ブログ:https://ammlog.hatenablog.com/ はなここどもの歯のクリニック:https://hanoclinic.com/