奄美大島のお産は「搬送」時間がリスクに 離島の若き「産婦人科医」が語る

奄美大島の産婦人科医・小徳羅漢先生に聞く「離島診療と島でのお産」 #2 お産のとれる総合診療医へ向けてと島でのお産について

産婦人科医:小徳 羅漢

離島でお産を取るということ

小徳先生:離島でお産を取り続けるというのは、本当に大変なこと。そしてとても危険なことです。それでも、離島に産婦人科医がいなくてはならないと、僕は思っています。

世の中の流れは「集約化」になってきて、妊婦健診だけ離島でやって、お産は本土に行く。それもひとつの正解かもしれません。

しかし、妊娠35週前での妊婦健診では順調で問題もなく、翌週から本土に行く予定という妊婦さんでも、急に産気づくことだってあります。そのとき、島に産婦人科医がいなかったら赤ちゃんはどうなるでしょうか。現場にいる者としては、集約化は果たして正しいのかと考えさせられることが何度もありました。

ただ、島に一人の産婦人科医がいるとして、その人が24時間働くというのも違うと思っていて。

島の規模にもよるので一概には言えませんが、例えば島に一人の産婦人科医が本土に行って不在のときや、お休みだったりするときに、赤ちゃんを取り出さなければならない緊急手術が入るとします。そこにお産の取れる総合診療医がいれば、すぐに行って助けることができます。さらに助産師さんがいてくれるシステムができていれば、より島の産婦人科として持続可能なのではないかと思うのです。

もちろん、何かあったときはギリギリまで延ばさず、早めに本土に搬送するのも大事なこと。その場合は産婦人科医が同乗して妊婦さんの不安を取り除き、何ごともなければまた島に戻ってくればいいだけですから。

離島では検査ひとつでも負担が大きい

──搬送の他にも、離島の医療ならではのハンディを感じることはありますか。

小徳先生:そうですね。島の病院でできない検査は、患者さん自身が本土まで行くことになります。例えば、組織を調べる生検は、針を刺して検体を採る必要がありますが、そのためだけに、何万円もかけて船や飛行機に乗るのは、患者さんの負担が大きすぎる。

もし、僕ら離島にいる医師が、組織を採ることができれば、検体を送るだけで検査自体は終わります。手術まではできなくても、生検のような手技は島の総合診療医ができたほうがいいと思うんです。

当院の総合診療科は腎臓生検もするし、骨髄生検もします。この技術を後輩に引き継いでいければと思っています。病院の医師たちみんなが一緒に学び、そしてチームとなって患者さんを診ていく、「チーム医療」というのが、離島のキーワードかもしれません。

──今の若い医師や医学部生に、離島での医療を志す人は増えているのでしょうか?

小徳先生:たぶん、離島に行こうと考える人は、昔から一部の少し変わった人たちですね(笑)。ただ、自分がその中にいるからかもしれないけど、風向きはよくなってきているな、と。

「Dr.コトー診療所」がドラマになったこともそうですし、他にも離島医療で有名な先生が何人もいます。今は、多方面から地域医療に目が向いている気もするし、SNSを始め、情報発信がしやすい時代なのも大きいですね。離島医療や地域医療の輪が広がっているのを感じています。

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小徳先生が実際に離島の医師となった中で見えた、妊婦さんや患者さんの不安、それに寄り添う医療のあり方について、お話しいただきました。

次回3回目では、小徳先生が島で行っている活動や、今後の離島医療、島の未来についてお聞きします。

取材・文/浅妻千映子

小徳羅漢先生の連載は全3回。
1回目を読む。
3回目を読む。
(※3回目は2023年12月21日公開。公開日までリンク無効)。

20 件
ことく らかん

小徳 羅漢

Kotoku Rakan
産婦人科医

茨城県出身。2016年東京医科歯科大学医学部卒業後、鹿児島市医師会病院にて初期臨床研修を修了。2018年よりゲネプロが運営する「離島・へき地研修プログラム」2期生として長崎県上五島病院に所属。 2019年4月〜6月にはオーストラリア・クイーンズランド州で研修を受ける。2019年鹿児島大学産婦人科に入局。 2020年10月より鹿児島県奄美大島の県立大島病院にて産婦人科医として勤務。「暮らしの保健室」や「離島医療人物図鑑」の運営も行っている。 @rakankotoku

茨城県出身。2016年東京医科歯科大学医学部卒業後、鹿児島市医師会病院にて初期臨床研修を修了。2018年よりゲネプロが運営する「離島・へき地研修プログラム」2期生として長崎県上五島病院に所属。 2019年4月〜6月にはオーストラリア・クイーンズランド州で研修を受ける。2019年鹿児島大学産婦人科に入局。 2020年10月より鹿児島県奄美大島の県立大島病院にて産婦人科医として勤務。「暮らしの保健室」や「離島医療人物図鑑」の運営も行っている。 @rakankotoku

あさづま ちえこ

浅妻 千映子

料理研究家・ライター

料理研究家、フードライター。東京都出身。『dancyu』、『Figaro』、『Pen』、『サライ』等の雑誌やオンラインを中心に、主に食や料理人について執筆。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。身近な素材を中心に、短時間で作れる料理や、ちょっとおしゃれなおつまみレシピが得意。ワインスクール「アカデミー デュ ヴァン」でワイン&クッキングクラス担当。子育てのストレス解消は水泳。1児の母。 <主な著書> 『ほめられレシピ』主婦と生活社/『浅妻千映子キッチン』ぴあ/『パティシエ世界一』PHP文庫(辻口博啓シェフと共著)、『江戸前「握り」』光文社新書(荒木水都弘さんと共著/『東京広尾アロマフレスカの厨房から』光文社新書(原田慎二シェフと共著)など。また、毎年刊行されるレストランガイド『東京最高のレストラン』の選者の一人。

料理研究家、フードライター。東京都出身。『dancyu』、『Figaro』、『Pen』、『サライ』等の雑誌やオンラインを中心に、主に食や料理人について執筆。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。身近な素材を中心に、短時間で作れる料理や、ちょっとおしゃれなおつまみレシピが得意。ワインスクール「アカデミー デュ ヴァン」でワイン&クッキングクラス担当。子育てのストレス解消は水泳。1児の母。 <主な著書> 『ほめられレシピ』主婦と生活社/『浅妻千映子キッチン』ぴあ/『パティシエ世界一』PHP文庫(辻口博啓シェフと共著)、『江戸前「握り」』光文社新書(荒木水都弘さんと共著/『東京広尾アロマフレスカの厨房から』光文社新書(原田慎二シェフと共著)など。また、毎年刊行されるレストランガイド『東京最高のレストラン』の選者の一人。