レ・ロマネスクTOBI 引き算ができなくても慶應大学に合格したワケ

レ・ロマネスクTOBIさんインタビュー#3~勉強編~

数学は好きだけど「110−(ひく)70」はわからない

得意の数学を活かして慶應大学の試験を突破したというTOBIさん。幼い頃にそろばんを習っていましたが、暗算は苦手です。

「そろばんを習っていた人が暗算をする際は、頭の中でイメージしたそろばんをはじきます。でも僕は存在しないものを頭にイメージするのが苦手で。珠算は1級を持っていますが、暗算は6級が合格できない。

それどころか今でも『11−(ひく)7』と『110−(ひく)70』の計算が苦手で、答えがパッとでてこないんです。でもそれなら紙に書いて解けばいい。

計算に限らず、社会生活でも『それは苦手なので待ってください』と伝えれば周りも納得してくれますよね」

「僕の場合は、小さい頃から苦手を自覚できていたのはよかったと思います」(TOBIさん)
写真:水野昭子

TOBIさんは暗算ができないことを自分の性質だと早くから受け止め、受験を乗り越えました。またそれ以外に、自身はマルチタスクが苦手だと理解しています(#2参照)。そんな経験から、子育てについて気をつけている点を話してくれました。

「僕のような人間って、たくさんいると思うんです。僕の場合は暗算が苦手だけど数学はやってみたら楽しかった。当時、うちの親が勉強に介入してくるタイプだったら、問題を解く楽しさに気づけなかったと思うし、そうしたら受験で別の科目を選んで失敗していたかもしれない。

『暗算ができないからこの子は数学が苦手』というのは一つの例。それ以外でも、親が子の局所的な苦手を目にした時に、それに紐づくすべてがダメだとは決めつけてほしくない。

先入観にとらわれず、子どもの好き嫌いや得手不得手を、しっかり見てあげたいと思っています」

官僚を夢見ていたのがアーティストに 人生は予測不能

強い意志と努力、そして苦手を自覚することで、難関とされる高校と大学を突破したTOBIさん。ただ、慶應大学に合格した時点で官僚になる夢はあきらめたそうです。

「東京大学も受けたのですが、試験中に激しい腹痛に襲われました。絶対に受からなくてはならないという自らのプレッシャーに負けたかたちです。官僚になれたとしても、東大閥に入っていないと出世しづらいだろうと考え、慶應大学に入った段階で公務員になるのはあきらめました。

今思えば、あきらめてよかったです。なんとなく大蔵省(現在の財務省)に入りたくて、当時は『110-(ひく)70』ができなくても大丈夫だと思っていたけど、僕の性質的にきっと向いていなかったでしょうから(笑)」

大学卒業後は、アルバイトをしていた制作会社から「社員になってほしい」と誘われて入社。

ところが、入って3ヵ月で会社が倒産し、以降に入る会社が次々と倒産が続くというひどい目に。やがて周囲から「倒産請負人」と呼ばれ、稀有な人生を歩んでいきます。

そして紆余曲折を経て「パリで一番有名な日本人」と呼ばれる人気アーティストになるなんて、人生は予測不能です。

さらに我が子の誕生以降、音楽アーティストとしてだけでなく、『お伝と伝じろう』(NHK Eテレ)の伝じろう役や「こどもちゃれんじほっぷ」のもじもじいさん役など、子ども向けコンテンツに出演することも。

第4回ではそれら「子ども向けの仕事」について伺います。

TOBIさんの作家デビュー小説『七面鳥 山、父、子、山』(リトルモア刊)。自身の幼少期を舞台に、父親との関係を描いている。

取材・文/井上良太(シーアール)

※TOBIさんのインタビューは全4回。
次回(#4)は21年11月4日公開予定です(公開日までリンク無効)。

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レ・ロマネスクTOBI

アーティスト

●レ・ロマネスクトビー  広島県比婆郡(現在の庄原市)出身。フランスで結成された音楽ユニット「レ・ロマネスク」のメインボーカル。相方・MIYA(ミーヤ)と、ピンク色のコスチュームで歌い踊るキッチュな楽曲とパフォーマンスで人気を集め、2008年春夏パリコレでのライブをきっかけに、世界12ヵ国50都市以上で公演。09年、フランスの人気オーディション番組に出演した動画のYouTube再生回数がフランスで1位を記録し、「パリで最も有名な日本人」となる。 2011年のフジロック出演を機に日本に拠点を移す。精力的にシングル・アルバムをリリースし、2013年には『お伝と伝じろう』(NHK Eテレ)のメインキャストに抜擢(2022年現在も放送中)。2018年には、自らの稀有な体験をまとめた書籍『レ・ロマネスクTOBIのひどい目。』(青幻舎)が話題になる。 近年は、ラジオパーソナリティ、『仮面ライダーセイバー』(テレビ朝日)のタッセル役をはじめとする俳優業、自伝小説『七面鳥 山、父、子、山』(リトルモア)の刊行など、ますます活動の幅を広げている。2児の父。 「キューブ」オフィシャルHP 「レ・ロマネスク」オフィシャルHP レ・ロマネスク公式Twitter レ・ロマネスクTOBI 公式Twitter

●レ・ロマネスクトビー  広島県比婆郡(現在の庄原市)出身。フランスで結成された音楽ユニット「レ・ロマネスク」のメインボーカル。相方・MIYA(ミーヤ)と、ピンク色のコスチュームで歌い踊るキッチュな楽曲とパフォーマンスで人気を集め、2008年春夏パリコレでのライブをきっかけに、世界12ヵ国50都市以上で公演。09年、フランスの人気オーディション番組に出演した動画のYouTube再生回数がフランスで1位を記録し、「パリで最も有名な日本人」となる。 2011年のフジロック出演を機に日本に拠点を移す。精力的にシングル・アルバムをリリースし、2013年には『お伝と伝じろう』(NHK Eテレ)のメインキャストに抜擢(2022年現在も放送中)。2018年には、自らの稀有な体験をまとめた書籍『レ・ロマネスクTOBIのひどい目。』(青幻舎)が話題になる。 近年は、ラジオパーソナリティ、『仮面ライダーセイバー』(テレビ朝日)のタッセル役をはじめとする俳優業、自伝小説『七面鳥 山、父、子、山』(リトルモア)の刊行など、ますます活動の幅を広げている。2児の父。 「キューブ」オフィシャルHP 「レ・ロマネスク」オフィシャルHP レ・ロマネスク公式Twitter レ・ロマネスクTOBI 公式Twitter