レ・ロマネスクTOBIの弱点を受け入れる“苦手回避の子育て”とは?

レ・ロマネスクTOBIさんインタビュー#2~自分の子育て編~

TOBIさんの子育てへの考え方はきっと独特。でも、そこにはちゃんと我が子に対する愛情がある。
写真:水野昭子
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音楽ユニット「レ・ロマネスク」のTOBIさんへのインタビュー第2回。前回(#1)は、“型破りな父”のもとで育ち、独特な父子関係だったと伺いましたが、そんなTOBIさんも今や2児の父親です。

『仮面ライダーセイバー』のタッセル役、『お伝と伝じろう』の伝じろう役など、怪しくも愉快な雰囲気を持つTOBIさんですが、そんな彼の子育論も実にユニーク。

そこには、子どもを思う気持ちが確かに存在しています。

レ・ロマネスクのTOBIさん(左)と、MIYAさん(右)。人気の教育番組『お伝と伝じろう』(NHK Eテレ)では、TOBIさんが伝じろう、MIYAさんがお伝として出演。​
写真提供:キューブ

子どもの誕生後ほどなくしてフランスから帰国

入った会社が次々と倒産する憂き目にあい、人生をリセットするために渡仏してレ・ロマネスクを結成したTOBIさん。11年間をフランスで過ごし、ライブなどで世界中を飛び回っていました。そして2011年以降は、活動拠点を日本に移しています。

帰国の大きな理由としては、東日本大震災という日本の危機的状況のときに、外国で「変な外国人」として笑われることに意義を見出せず、目的を失ってしまったから。子どもが生まれて活動しづらくなったわけではないといいます。

ただし、「フランスで子育てがしたかったか?」という質問には首をひねります。

「フランスでは、小学1年生からディベートや詩作の授業があります。フランス語は、自分の思いを伝えるための比喩表現が豊かで、響きや韻を重要視する言語のため、早くからカリキュラムに組み込まれます。

語弊があるかもしれないですが、ヘリクツをこねくり回すフランス人に長年悩まされ続けた僕からすると、自分の子もああいうフランス人になるのかと考えたら少し暗い気持ちに(笑)」

「フランスでの育児をためらうもう一つの理由は、いずれアイデンティティの問題で悩むと思うから」(TOBIさん)。
写真:水野昭子

フランスと日本で大きく違う子育て観

一方で、TOBIさんの子育てに対する考え方には、フランス的なエッセンスが見受けられます。それは偶然にも、TOBIさんの父親・フミャアキとの関係に近いものでした。

「フランスでは赤ちゃんを早くから一人寝させ、親は授乳が終わらない頃からシッターに預けて、飲み会や劇場に出かけます。

親には親の暮らしがあって、子どもには子どものという個人主義が社会通念的に浸透しているんですね。そう考えると僕も、個を放任する父親(#1)から、フランス式の子育てをされてきたのかもしれません(笑)」

フランスでは、日本ほど「子どものために」という言葉を使うことがなく、子どものために仕事を辞めることはない。またフランス語には「専業主婦」という単語が存在しないそうです。

「一応『ファム・オ・フォワイエ(femme au foyer)』という専業主婦に近い言葉がありますが、これは本来『火の当番をする女性』という意味で女中を指します。

だから、日本から来た人が『私はファム・オ・フォワイエです』と自己紹介すると、フランス人は驚きますよ。

フランスではたとえ失業中でも、絵や写真の個展を開いたり楽器を演奏したりして、それを『職業』と捉えている人は多いです。渡仏して間もない頃、会う人みんながアーティスティックな職業を名乗るから『フランスにカメラマン多すぎない?』なんて不思議に思っていました(笑)。

日本のように『カメラマンのはしくれです』と謙遜する発想とはまったく逆です」

フランスでは、子どものために親が何かを我慢・犠牲にすることはありえないという考え方があります。TOBIさんは、フランス式の親子関係の捉え方には共感していて、親子でもなるべく依存せず、子どもの将来に過度の期待をしないよう実践。

たくさんの習い事をさせたり、苦手を克服できるように練習させたりすることはあまりないそうです。

親子ともども、各自が楽しい人生を送ることを目指せれば、それで十分。そのために何ができるかを、日々考えています。

得意よりも苦手を見つけるのが大切

TOBIさんが、将来のため子どもに身につけてほしいと考えているのは「苦手なことを早くから理解すること」です。

「苦手を早くからきちんと理解して、部活でも仕事でも、それが必要な場所には進まないようにしてもらいたいですね。

僕は大学卒業後の会社員時代に、営業の電話がすごく苦手なことに気づきました。何度も怒られて自己否定をする日々。

子どもたちにはそういう経験をしてほしくないからこそ、得意よりも苦手を見つけてほしいんです」

人生において、誰しもが何らかの壁にぶつかります。そしてその経験を糧に成長できるという考え方もあります。TOBIさんもそれは認めつつ、それでもどうしてもできないことはあり、それを理解しないまま苦しむ必要はないと考えます。

TOBIさんは得意と苦手の差が極端で、たくさん苦手なことがあるといいます。マルチタスクもその一つです。

「例えば料理は、タマネギを切ってフライパンを火にかけて、その間にごはんを炊いて……とマルチタスクです。

次へ次へと考えられなくて、気づいたら2〜3時間経っていたことも。ゴミの要・不要を選別していて面倒になって全部捨ててしまうとか。

育児書に載っていた「発達のバランスを診るテスト」をふとやってみたら、能力を表すレーダーチャート(5角形や6角形でよく見る、複数の数値を一目で比較できるグラフ)が、すごくジグザグしていて。

これまで僕が遭遇してきた珍事件は以前に出した本(※1)で語っていますが、部屋が片付けられないとか、それが原因で泥棒が家に住み着いたのに気づかなかったとかは、そんな僕の性質が起因しているのかもしれません。

そういう経験をたくさんしてきた僕にとって、発達バランステストは、自分のためにあるようで(笑)」
(※1=『レ・ロマネスクTOBIのひどい目。』青幻舎刊)

さまざまなポーズを披露してくれたTOBIさん。サービス精神は父親譲り!?
写真:水野昭子

苦手が多いことを自覚していたTOBIさんは、スポーツや営業の仕事など、意識的に苦手なことから逃げてきたと語ります。そしてその結果が、アーティストであるレ・ロマネスクなのです。

「たまに『好きなことや得意なことが見つからない……』なんて相談を受けますが、こう見えて僕は好きなことだけをやっているわけではありません。苦手を避けていたらたまたまレ・ロマネスクが残っただけで。

多くの親が、まんべんなくできる弱点のない子に育てようと考えがちですが、レーダーチャートがいびつでもいいんじゃないでしょうか? ジグザグでも、苦手を避け、楽しく生きる方法はあるはずです」

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