処方せんなし 「緊急避妊薬(アフターピル)の購入方法 専門医がわかりやすく解説

産婦人科医・柴田綾子先生に聞く「緊急避妊薬」 #2 ~購入方法・金額編~

産婦人科医:柴田 綾子

緊急避妊薬(アフターピル)はどのように購入すればよいのでしょうか?  写真:milatas/イメージマート

緊急避妊薬(アフターピル)は、海外では広く普及していますが、日本では2023年11月から、ようやく試験的に処方せんがなくても薬局で購入できるようになりました。

購入できるのは、16歳以上の女性のみ。16~17歳の未成年は保護者の同意が必要で、保護者の薬局への同伴も必要になります。

男性や代理人、性交から服用までが72時間を超える人や、すでに妊娠している人などは購入できません。

そこで、淀川キリスト教病院産婦人科医長の柴田綾子先生に、具体的な購入方法や注意点、薬局で購入できるメリットやデメリットについてお聞きしました。

(全3回の2回目。1回目を読む)

柴田綾子(しばた・あやこ)
淀川キリスト教病院産婦人科医長。世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち、2011年群馬大学医学部卒業後、沖縄での初期研修を経て、2013年より現職。女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動中。1児の母。

16歳以上の女性本人のみ購入可

──緊急妊娠避妊薬の具体的な購入方法を教えてください。

柴田綾子先生(以下、柴田先生):まず、緊急避妊薬はどこの薬局でも購入できるわけではありません。今はあくまで調査事業として行われているため、調査事業に参加する全国の145薬局でのみ購入が可能です(2024年8月1日時点)。なお、今年度はさらに購入できる薬局数を200薬局ほど増やすことが予定されています。

購入できる薬局のリストは、日本薬剤師会の「緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業」のサイトから確認できます。

(※調査事業の説明を最後まで読み、確認事項にチェックを入れると薬局リストが見られるようになっています)

購入できるのは、16歳以上の女性のみで、身分証の提示による本人確認が必要です。16~17歳の未成年は保護者の同意が必要で、保護者の薬局への同伴も必要になります。

【購入できる人】
16歳以上の女性のみ
※16~17歳の未成年は保護者の同意と同伴が必要

また、以下の人は購入できません。

【購入できない人】
・男性
・代理人
・研究参加(調査事業)に同意できない人
・すでに妊娠している人
・性交から服用までが72時間を超える人
・身体の状態によって緊急避妊薬が使用できない人(重篤な肝障害など)
・16歳未満の人

などとなっています。

16歳未満が購入できない2つの理由

柴田先生:16歳未満の人が購入できないのは、主に二つの理由があります。

一つは、現段階では調査事業であるため、研究参加の意思表示が有効になる年齢が16歳以上であること。もう一つは、日本では性交同意年齢は16歳となっていて、16歳未満と性交すると「不同意性交等罪」という犯罪になるためです。

そのため16歳未満は調査研究の対象にならず、購入ができません。いっぽう、海外では未成年や思春期の子でも緊急避妊薬が薬局などで購入できる国も多くあります。

購入までの4ステップ

──具体的な購入の流れも教えてください。

柴田先生:購入の流れとしては、以下のようになっています。

①事前に対象となる薬局に、購入者本人が電話で相談
②薬局で薬剤師と面談
③説明と同意・購入・服用
④調査事業のアンケートに回答

なお、妊娠が疑われる場合は、妊娠検査薬の使用を奨められる場合があること。また、医学・薬学上の理由から販売できないと判断される場合は、薬局が連携する産婦人科医を紹介されることがあります。

費用は、だいたい7000円~9000円の範囲です。

薬局購入のメリットや注意点は?

──薬局で購入できるメリットや注意点を教えてください。

柴田先生:メリットは、土日・祝日だとそもそも受診ができない、地方で物理的に病院が遠いなど、緊急避妊薬が手に入りにくいさまざまな事情を解決することなどがあげられます。

一方で、やはり正しい情報提供や性教育は必須です。「何かあれば、緊急避妊薬を使えば良い」と勘違いしてしまうと、結局は女性にだけにお金や体の負担がかかるようになってしまいます。

緊急避妊薬は、あくまで緊急時に使用するものであって、普段の避妊は低用量ピルなどを使ったほうが確実です。また、性暴力の被害に遭った人が泣き寝入りすることなく、適切な窓口(ワンストップ支援センター)につながるための仕組みも必要です。

正しい性教育は女性への負担を減らす

──費用が意外に高額だと感じました。購入できる薬局も限られているのですね。

柴田先生:そうです、この点は課題です。女性にとって予想外の妊娠や中絶というのは、非常に大きなストレスになりますし、人生設計にも大きく影響します。

地域によっては産婦人科が減少傾向にある中で、都会と地方で緊急避妊薬へのアクセスに格差が生まれるのは絶対に避けなければなりません。

薬局での提供に対して、不安要素がゼロではないかもしれませんが、だからといって購入を制限するのではなく、どうすれば安全に提供できるかに今後、議論を進めて行ってほしいと願っています。

また、義務教育で妊娠や出産、性に関することを正しく伝えていくことは絶対に必要です。今、日本では年間約12万人の女性が中絶手術をうけています。過去には人工妊娠中絶が1年間に100万件近い時代もあり、それと比べれば減ってきています。

しかし、1年間の出生数が約70万人に対して中絶数が12万件であること、いっぽうで不妊治療で大変な思いをしている女性も多いことから、産婦人科医としてもっと女性への負担を減らしたいと思っています。

正しい知識を学ぶ機会が無かったために、妊娠したくないときに妊娠してしまったり、いざ妊娠したいと思ったときには年齢が進み治療が必要になったり。

このような女性への負担を減らすためにも、日本でも義務教育の中で性に関する正しい知識を教えることが重要なのです。

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2回目では、緊急避妊薬の具体的な購入方法などを教えていただきました。女性にとって重要な薬であるにもかかわらず、費用面や購入できる薬局が限られるなど改善すべきことは残りますが、試験販売がスタートしたことは大きな一歩と言えます。

3回目では、緊急避妊薬以外にも多い、海外では当たり前に使えるけれど日本では使えないさまざまな避妊方法などについて、引き続き柴田先生にお聞きします。

取材・文/横井かずえ

「緊急避妊薬」連載は全3回。
1回目を読む。
3回目を読む。
(※3回目は2024年8月18日公開。公開日までリンク無効)

【参考資料】

公益社団法人日本産婦人科医会 緊急避妊薬の処方における課題 ~緊急避妊薬のOTC化に関する産婦人科医への調査結果をふまえて~

緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業(厚生労働省医薬局医薬品審査管理課委託事業)|公益社団法人 日本薬剤師会

医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議資料
「緊急避妊薬のスイッチOTC化に向けての要望」

しばた あやこ

柴田 綾子

Ayako Shibata
産婦人科医

世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。 女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動中。1児の母。 主な共著『患者さんの悩みにズバリ回答! 女性診療エッセンス100』(共著/日本医事新報社)、『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)など。

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世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。 女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動中。1児の母。 主な共著『患者さんの悩みにズバリ回答! 女性診療エッセンス100』(共著/日本医事新報社)、『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)など。

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2