「緊急避妊薬(アフターピル)」処方せん不要・薬局で買える 「行為後72時間以内の服用で妊娠を予防」基礎知識と副作用を専門医が解説

産婦人科医・柴田綾子先生に聞く「緊急避妊薬」#1 ~基礎知識・副作用編~

産婦人科医:柴田 綾子

「緊急避妊薬」の正しい服用の仕方を専門医にお聞きしました。  写真:mapo/イメージマート

緊急避妊薬(アフターピル)は、避妊に失敗したときや、避妊をしていなかったときに、72時間以内に内服することで、妊娠を高い割合で防ぐことができる薬です。

日本では、これまで医師の処方が必要でしたが、処方せんがなくても薬局で購入できる制度が2023年11月28日から試験的にスタートしました。

最大のメリットは、薬へのアクセスがよくなることですが、副作用などの心配も尽きません。そこで、淀川キリスト教病院産婦人科医長・産婦人科医の柴田綾子先生に、緊急避妊薬の使い方や気になる副作用について教えていただきました。


(全3回の1回目)

柴田綾子(しばた・あやこ)
淀川キリスト教病院産婦人科医長。世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち、2011年群馬大学医学部卒業後、沖縄での初期研修を経て、2013年より現職。女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動中。1児の母。

性行為後72時間以内の服用で妊娠を予防

──そもそも緊急避妊薬とはどのような薬なのでしょうか?

柴田綾子先生(以下、柴田先生):緊急避妊薬は、避妊に失敗した場合や、避妊を行わなかった性行為の後に使用される薬です。日本では一般的に「アフターピル」や「モーニングアフターピル」と呼ばれています。妊娠を希望しない女性に、妊娠のリスクを回避するため用いられるもので、性行為後に服用することで妊娠を予防します。

──どのような仕組みで妊娠を防ぐのですか?

柴田先生:緊急避妊薬の主な効果は排卵を遅らせることです。卵子が卵巣から放出されるタイミングを遅らせ、精子と出会うのを防ぎます。これによって妊娠を予防することができます。

日本で使用されている緊急避妊薬は、レボノルゲストレルという薬で、女性ホルモンである黄体ホルモンの一種です。この薬は、性行為後72時間以内に服用することが推奨されおり、早く服用するほど効果が高く、24時間以内に服用した場合には約90%の成功率が報告されています。平均して85%程度の避妊効果が期待できます。

海外では、ウリプリスタルという別の成分を含む緊急避妊ピルも使用されています。この薬は性行為後120時間以内までに服用することができ、レボノルゲストレルよりも長い期間にわたって効果を発揮します。

副作用は黄体ホルモンが主成分のため少ない

──副作用の心配はないのでしょうか?

柴田先生:緊急避妊薬は、女性ホルモンである黄体ホルモンが主成分なので、安全性が高く副作用が少ないといわれています。

女性ホルモン製剤で最も心配すべき副作用は血栓症です。しかし、血栓症は2つある女性ホルモンのうち、もう一方の女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)で起こりやすいため、黄体ホルモン製剤である緊急避妊薬で命に関わるような血栓症が起こることは極めて稀です。

ただ、女性ホルモンを外から補充することになるため、低用量ピルと同じように吐き気や頭痛、むくみ、不正出血などが一時的に起こることがあります。これらの副作用は自然に改善するため、基本的には命に関わる重篤な副作用はほとんどないと思って良いと思います。

しかし一方で、緊急避妊ピルを頻繁に使用することはおすすめしません。これは、低用量ピルに比べて緊急避妊ピルはホルモンの量が多く体への負担が大きかったり、値段が高いわりに、避妊の効果は高くないためです。

緊急避妊薬はあくまで緊急時の避妊手段として利用してください。日常的な避妊方法としては、低用量ピルの方が避妊効果が高いのでおすすめです。

思春期や未成年の子どもも飲めて低い副作用

──思春期や未成年の子どもが飲んでも心配ないのですか?

柴田先生:はい、大丈夫です。思春期や未成年の子どもだからといって、大人と比べて副作用のリスクが増えるということはありません。

もしも緊急避妊薬を使わなければならない状況になった場合は、𠮟るのではなく「自分の身体を守るために、次からどうすればいいか」を一緒に話す機会にしていただければと思います。つい𠮟ってしまうと、緊急避妊薬を使うことが悪いことだと思ってしまい、子どもは相談してくれなくなるからです。

実は使用方法が難しく、失敗が多いコンドーム

──緊急避妊薬は、以前からよく処方される薬だったのでしょうか?

柴田先生:日本で承認されたのは2011年で、承認後は多く処方されている非常にニーズの高い薬です。

背景に、日本には避妊の選択肢が少ないということがあります。日本では、コンドームが主な避妊法ですが、実はコンドームを正しく使うのはとても難しいこと。装着したものの、後で確認したら破けていることがありますし、膣の中に残ってしまうこともあります。また、性行為のときは部屋を暗くすることが多いので、暗闇の中で正しく使うのはなおさら難しいと思います。

それにコンドームを使った避妊法は男性主導の避妊法であり、そもそも男性にコンドームをつけてもらわなければ、女性は避妊できません。日本では、数年前まで性教育をあまりしてこなかったこともあり、「コンドームを使わないほうが快感は得られる」などの誤った理解をしている人も、まだまだ少なくありません。

これらの背景があるので、望まない妊娠のリスクが高くなってしまうのです。

確実な避妊法としての低用量ピルや子宮内避妊リング

──コンドーム以外の避妊方法も教えてください。

柴田先生:コンドーム以外の避妊法としては、低用量ピルや子宮内避妊リングがあります。これらは女性が自分で行える有効な避妊方法で、90%以上の高い避妊効果があります。しかし、費用が高いことがネックになってあまり普及していません。日本では「妊娠や中絶は病気ではない」という理由から、避妊目的の低用量ピルの処方などが自費になってしまっているからです。

そのため、経済的に困窮している人からすれば、避妊や中絶などへのアクセスが非常に難しくなってしまうのです。

このように、日本で緊急避妊薬のニーズが高い背景には、避妊方法の選択肢が少ないことや避妊するかしないかの主導権を男性が握っていること、そもそも性教育がほとんどなされていないなどの問題が関係し合っています。

緊急避妊薬はとても大事な薬ではありますが、何度も使うと体やお金の負担が大きい薬です。

日本に必要なのは、女性自身が自分の意思で行える避妊方法の選択肢が増えること、そして性や避妊に関してもっと義務教育や家庭で教えていくことだと感じています。

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試験的に薬局での販売がスタートした緊急避妊薬について、妊娠を予防する仕組みや副作用、日本では女性が自分で行える避妊方法が少ないという問題があることなどを教えていただきました。

次回2回目では、実際に緊急避妊薬を薬局で購入する方法などを紹介します。

取材・文/横井かずえ

「緊急避妊薬」連載は全3回。
2回目を読む。
3回目を読む。
(※2回目は2024年8月17日、3回目は8月18日公開。公開日までリンク無効)

『患者さんの悩みにズバリ回答! 女性診療エッセンス100』共著:柴田綾子(日本医事新報社)
しばた あやこ

柴田 綾子

Ayako Shibata
産婦人科医

世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。 女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動中。1児の母。 主な共著『患者さんの悩みにズバリ回答! 女性診療エッセンス100』(共著/日本医事新報社)、『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)など。

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世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。 女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動中。1児の母。 主な共著『患者さんの悩みにズバリ回答! 女性診療エッセンス100』(共著/日本医事新報社)、『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)など。

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2